「ゲームがヒットした理由」がなぜ簡単に分かるのか : その錯覚の原因
ゲームを作ることを生業としているので、なにかのゲームがヒットした時は、それがなぜヒットしたのかみたいな事を考えます。
しかし、この"ヒットした理由"というのは、深く考えずとも意外とポンポン出てきたりします。
それは自分がゲーム開発者だからという事ではなく、おそらく普通のユーザーであったとしても1つ2つは簡単に思い付くと思いますし、「〇〇がヒットした理由」みたいな記事もよく見かけます。
しかもそれらの"ヒットした理由"はパッと見ではだいたいがそれっぽく、思い付いた人も自信を持って「ヒットした理由が分かった」と感じているのではないでしょうか?
しかし、これらの「ヒットした理由が分かった」は基本的には錯覚と思ってもいいぐらい危うい物だったりするという、今回はそんな話。
8番出口がヒットした理由
まず一つ例を考えてみましょう。
昨年発売され、売上50万本を超える大ヒットを記録した"8番出口"
このゲームはなぜヒットしたと思いますか?
低価格で買いやすいから?
シンプルで誰でも遊べるから?
見覚えのある身近な場所だから?
グラフィックがリアルで綺麗だから?
開発者がクローン作品に好意的だから?
異変を見つけるというシステムが新しいから?
褒める所が沢山ある傑作とは言え、雑に挙げてもこれぐらいはすぐに出てきますし、時間をかければ他にも色々考えられるでしょう。
そして、人によって感じ方に差(グラフィックは普通とか)はあるにしろ、これらの理由は「それだけが理由じゃないけど、確かにヒットした理由の一つっぽい」感じがしませんか?
しかし、本当にそうでしょうか。
例えば、値段が倍だったらヒットしなかったでしょうか?
例えば、グラフィックがローポリだったらヒットしなかったでしょうか?
その答えはもちろん「試せないから分からない」です。
なお、8番出口のクローン作品は多々ありますが、あくまでクローンなので「ローポリのクローンはヒットしなかったらリアルなグラは必須」とはならない点も注意が必要です。
錯覚の理由
ではなぜ、「(ヒットした要因か)分からないのに、確かにヒットした理由の一つっぽい」と感じるのでしょうか。
それはおそらく、これらの"理由は正しい"からです。
そして、ヒットしているという"結果も正しい"からです。
具体的な例で言うと、「グラフィックが綺麗 だから ヒットした」
と考えた時に「グラフィックが綺麗」と「ヒットした」は正しいのです。
では何が錯覚なのかといえば「だから」が間違ってるかもしれない、つまり因果関係が無いかもしれないという事なんです。
この因果関係が無いかもしれないというのが厄介で、無いかもしれないという事は当然有るかもしれないという事が錯覚に拍車をかけます。
本当に因果関係があるかを調査や証明が出来ればいいのですが、特定のゲームのヒットというのは基本的には一度しかないためそれは困難です。
さらにゲームはほぼ同じ物を作っても"基本的には"本家程は売れないという、そもそもの再現性の低さも証明をより困難にしています。
余談ですがこの錯覚は「結果が出ているだいたいの事象に当てはまる」と思います。
例えば「このゲームが面白い理由」みたいなポジティブな時はもちろん、「このサービスが失敗した理由」みたいにネガティブな時も誰でもそれっぽい理由を挙げられます。
なので、結果が出た後に理由を考える際には慎重になる必要があります。
その理由を根拠に自分も何かしようという時はなおさらです。
ヒットした理由を考えるのは無駄なのか
ヒットした理由は誰でもそれっぽい物が考えられるし、因果関係があるか調べるのも難しいとなると、考える事自体が無駄な感じもしてきますが、もちろんそんな事はありません。
そもそも"ヒットした理由を何かに活かす"というわけでなければ娯楽の延長なので正しい必要はなく、「ヒットした理由が分かった!スッキリ!」と(良し悪しは別として)その人には十分意味のある遊びだと思います。
重要なのは"その理由を根拠に自分も何かしようという時"、つまりゲーム開発者が自分もヒット作を作るために、ヒットの理由を参考にする場合です。
色々な理由を挙げて、それが本当に正しいのかと色々な角度から調べ考えるのは当然ですが、"因果関係があるか調べるのが難しい"ので、どれだけ時間をかけても一つのゲームからヒット作の明確な理由を見出すのは困難です。
なので、基本的には似た系統の複数のヒット作の共通点を見つけるのが良いかと思います。
例えばAnother Crab's Treasureというヤドカリのソウルライクゲームが最近ヒットしましたが、このゲームはソウルライク系でありながらも絵柄はコミカル(しかしダークテーマ)というセールスポイントがあります。
そして2022年のヒット作Little Witch Nobetaには、ソウルライク系でありながらも小さくて可愛い女の子のキャラというセールスポイントがあります。
さらに2108年のヒット作Graveyard Keeperには、スローライフ系でありながらも墓場や死体を管理するダークな世界観というセールスポイントがあります。
つまりゲームシステムは王道を行きながらも、絵柄や雰囲気は王道(本家)の真逆を行くというのがヒットの理由かもしれないということです。
もちろん、理由はこれだけではないと思いますし、因果関係があるかは結局証明出来ていませんが、複数の前例があることで、少なくとも1つのゲームから考えた理由よりは確度が上がると思います。
また、同じジャンルのゲームで「売れている(評価が高い)ものにはある要素、売れていない(評価が低い)ものにはない要素」という感じでヒット作の理由を考えることも可能です。
(具体例を上げるのは失礼過ぎるので割愛)
余談ですが、"面白いゲームを作るために自分が好きなゲームが面白い理由"を考える時も同様に注意が必要だったりします。
自分の中で面白いという結論は揺るぎないものなので、理由が全てそれらしくなってしまい、意外となぜ面白いか(面白くないか)という理由を正確に言語化するのは簡単ではありません。
なので複数の好きな作品の共通項を探したり、好きなジャンルのはずなのになぜかピンとこなかったものとの違いを考えたりするのと、より確度の高い理由を見つけやすいと思います。
おわりに
まとめると、
ヒット作等、結果が出ている物のそれらしい理由は誰でも簡単に思い付く
しかし、"因果関係はない = 錯覚"かもしれない
とは言え、ヒット作を目指すなら前例や流行り、市場を調査するのは大事
複数の作品から理由を探れば、多少は確度が上がるかも
それでも確定は困難なので、ヒントぐらいに思っておこう
という話でした。
もちろん、自分もこれらの事を完璧に出来るわけではないので、自戒として、安易に理由を断定して錯覚に陥らないように注意しつつも、考えることや調べることを疎かにせず、ヒット作が出せるようにこれからも努力していく所存です。