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データ改ざんの裏にあるリーダーシップの誤解

データ改ざん事件が止まりません。
神戸製鋼によるアルミや銅に関する品質データ改ざん、KYBによる免震データ改ざん、そして日立化成も半導体素材の検査データを改ざんしていたことを発表しました。

日立化成の件は、調査はこれからのようですが、これまでに発覚した改ざん事件のほとんどが、組織ぐるみで行われていたことが明らかになっています。

東芝の不正会計、日産自動車の無資格者による検査なども、組織ぐるみであることが指摘されています。

経営トップからの売上、利益向上に対する強いプッシャーと、プレッシャーに対して現場でトップの要求を断り切れない構図も見え隠れします。

これらの事件は、企業にとっても顧客にとっても大きな影響を残します。
神戸製鋼の件は、いまだに様々な業界で金属製品の品不足の影響が残っているそうです。
KYBの事件は企業に莫大な損害をもたらすだけでなく、マンション所有者の資産価値を大きく下げ、大変なダメージを残そうとしています。

誰がこんな事件を起こしたのか、誰が悪人なのか、おそらく明確な決着をみることはないと予想しています。

TOC(制約の理論)の世界では、組織における問題に悪人はいないという立場を取ります。

つまり、組織内のすべての人は組織の方針、組織の評価基準にしたがって行動し、その結果、人の行動が問題を引き起こしている、ということです。

このとき、複数ある組織の評価基準の間でコンフリクト(対立)が起き、ひとつの評価基準に偏ることで問題が起きると考えるのです。

まさに、品質を守ること、コスト目標を達成すること、納期を遵守することという3つの重要な評価基準に対して、品質よりもコストや納期を優先してしまうことによって生まれた問題だと言えると思います。

しかし、なぜ、同じようなことが複数のしかも、優良企業と言われるような企業で繰り返し起こるのでしょうか?

そろそろ、肝心の問題の核心に迫らなければなりません。

多くの日本企業の階層はとても深いです。
現場のマネージャと言えば、チームリーダー、課長、部長、そして事業部門長のように階層化されています。大きな企業であれば、社長、会長がトップで、その下に領域ごとの担当役員などがいる場合もあります。

中間マネージャたち(チームリーダーから事業部門長くらいまで)は、トップからのオーダーによって活動し、その結果が評価されてさらに上を目指すという構造になっています。

トップは、品質、コスト、納期(QCD)目標をすべて達成せよ、と天の声を出します。
当然、中間マネージャは、自分が評価されるために、この指示に従うのですが、いつも3つで満点を取れるとは限りません。

さて、中間マネージャはこのジレンマをどう解決するか。これをすべての人(経営トップ、末端社員、部外者含め)が自分ごとで考えてみると、問題の本質が見えてくるように思います。

追い込まれた中間マネージャ、あるいは場合によっては現場担当者が取る行動は、3つの指示にかってに、優先順位をつけることではないでしょうか?つまり主観での判断が働いてしまうということです。わかりやすい、トップから認められやすい評価基準に無意識にシフトしていくのが人間の行動です。

そしてもう一つの落とし穴は、コスト(C)と納期(D)は、はっきりと数字で示されるので、守れたか守れなかったが一目瞭然であり、市場に出たときに嘘のつきようがないのに対して、品質は、曖昧さが残っていることが挙げられます。

品質データというのがありますが、品質基準そのものがメーカー独自のものも多く、一般的に決められた数値であっても市場での再現が明確に行われないため、そこに自己判断が入り込みやすいのです。

また、長い間、同じ製品の大量生産を継続し、それを世代間で継承してきた結果、なぜ、この品質基準が決められたかを知らない人間が検査をしているケースも多くなっているのです。すべてを知らない人間同士が、やり方だけを継承していって、本質的なモラルの継承を忘れていくのです。

これくらい実際には問題にならない、という安易な考えが、トップからのプレッシャーで追い込まれた結果、罪悪感を押し殺してしまうことになるのです。
製品全体を知らない、顧客の顔を知らない多くの人間がリレー式で作ったものは、外観とは違い心のこもらない製品になっていっています。
このような状態で組織運営している限り、同様の問題はさらに繰り返されていくでしょう。

モラル継承、人間教育を忘れた企業は、これから生き残っていけないように思います。

私が見てきた、会社をダメにしてしまう事業部門長クラスの中間マネージャは、時として自信に満ち溢れています。常に今の状態に満足していて、自分たちのやり方を強く肯定します。
そして、このだめな中間マネージャは、トップからの覚えよろしく、いつも高い評価を受けるのですが、彼らのもう一つの特徴は、目に見える評価点を積極的に取ろうとすることです。

東芝事件も、トップの口だけ(下に押し付ける)経営が明らかになりましたが、今、多くの企業では、トップだけでなく、中間レベルでも問題の本質を捉えることよりも、QCD必達のプレッシャーをかけるだけの経営を続け、自然の重力としていつも品質(Q)だけが犠牲になっていくやり方を続けています。
問題が発覚すると、俺はそんな指示をしていないと他人に責任をなすりつけることを平気で続けているのです。

今、日本企業の経営に求められるのは、トップの覚えのよろしい自信に満ちた偽リーダーではなく、謙虚に他者から学び続け、現状に疑問を持って変化し続ける本質追求リーダーです。

QCD必達のジレンマに気づき、本質的な問題解決に取り組んでいきたいものです。

QCD必達のジレンマ



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