「痛み」を共有した時代の憲法──日本国憲法を読む会レポート
かもめマシーンの場合(そして、多くの演劇作品の場合)、中心にあるのはテキストです。テキストを中心にしながら、どのように作品を立ち上げていくのかを話し、悩んだら、テキストに立ち戻る。数ヶ月の稽古期間中、ずっと、繰り返しテキストを読み、話し合いながら、上演にまでたどり着きます。
そんな演劇の「読む」という技術を応用して行われるのが「日本国憲法を読む会」。
去る5月28日、かもめマシーンでは「日本国憲法を読む会」を行いました。日本国憲法をテキストとして使用した作品『俺が代』の関連イベントとして、2019年から始まったこの会。20年からは、コロナ禍を受けてオンラインで開催してきましたが、今回、STスポットを使い、久々にオンサイトでの開催となりました。
改憲か護憲かはひとまず置いておき、日本国憲法を読み、その感想を語り合う。そこで、参加者たちはどんな内容を話し合ったのでしょうか? その様子をレポートしていきます。
世界中が「痛み」を共有していた時代
横浜の小劇場・STスポットで行われた今回の日本国憲法を読む会。まず、参加者が輪になって、日本国憲法前文〜第三章までを輪読。さらに、かもめマシーンの『俺が代』でも使っている、政治家・尾崎行雄によって昭和21年に帝国議会で行われた演説を読んだ後、拡大コピーした憲法前文に、参加者それぞれが「気になったところ」を書き込みました。
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「これは人類普遍の原理であり」「政治道徳の法則は普遍的なものであり」と、「普遍」という言葉に気になった参加者はこのように話します。
「どの国にとっても、責務だから国政の権威が国民に由来するのも、国民の代表者が権力を行使することも、国民が福利を享受することも、日本はきちんとやります、ということなんだろう。良くも悪くも『すごいな』と思う。でも、『普遍の原理』であることを本当に信じるなら、ちゃんと国際社会に対してこの憲法を誇ってもいいんじゃないか。それが『名誉ある地位』をつくるんじゃないか」
では、なぜ日本国憲法は、「普遍」というとても強い言葉を使えるのでしょうか? 別の参加者の推測は、個人的に強く印象に残りました。
彼がアンダーラインしたのは「戦争の惨禍」という言葉でした。「戦争の惨禍」は、当時、日本のみならず、世界各国共通のもの。その勝敗に関わらず、多くの国が第二次大戦によって、甚大な被害を受けた状況だったからこそ「戦争の惨禍」は各国が共通して持っていたイメージだったのでしょう。この参加者は、「痛みの共有」という言葉を使って、次のように話します。
「当時、日本だけでなく、みんなが痛みを共有していた。だからこそ、『平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意』できたのではないか。けれども、今、自分の中でこの『痛み』が抜けているような気がする。この記憶をうまく受け継いでいないかもしれません」
有無を言わさず巻き込まれる……
また、別の参加者が気になったのは、「われら」という言葉遣いでした。
「我らと言われると、『え、私も入るんですかね……』みたいな、巻込まれてしまった感じがする」
「日本国籍を持っていたら有無を言わさず同意させられる感じがしますね……」
確かに、ここには、暴力的なまでに巻き込み、有無を言わさぬ感じを覚えます。また、別の参加者も「名誉ある地位」や「自由のもたらす恵沢」という言葉は素晴らしいと考える一方、その文体に違和感を覚えたそう。
「どこか、言葉遣いの仰々しさに対して白々しさを覚えます。リアリティを感じられない文体になっているような気がしますね」
一方、オーストラリアにルーツを持つ参加者は、オーストラリアの憲法が、かつて先住民に田する定義を付け加えたことを話します。
「オーストラリアはもともとイギリスの植民地として始まった国。そのため、先住民は憲法で認められた存在ではなく、憲法上は、人間としての扱いを受けていないんです」
1968年に憲法が改正され、人口数算定において先住民を除外する条項は削除されました。しかし、いまだにオーストラリアでは先住民の存在が認められておらず、近年も憲法改正の動きが見られています。
このほか、「地上から永遠に除去するって、敢えて『地上』って入れてるのはなぜ? 見えないところならいいのか?」という疑問や、「他は抽象的なのに『恐怖と欠乏』という言葉だけ、すごくリアリティがある。すごく餓えてる感じが伝わる」といった指摘など、様々な実感や印象が現れた今回の「日本国憲法を読む会」。
次回は、できれば11月頃に開催したいと考えています。知識を学習するのではなく、憲法を読みながら別の人と少しだけ話してみる。久々のオンサイトでの開催は、改めてそのような場所の重要性を感じさせるものとなりました。
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日本国憲法を読む会
日時:2022年5月28日 16時~18時
会場:STスポット
主催:合同会社かもめマシーン
提携:STスポット
助成:公益財団法人 セゾン文化財団
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