美術史学徒おすすめ「西洋美術史」文献8選
今日は、わたしが西洋美術史を学ぶにあたって手に取った本を紹介したいと思います。最近は、初めのとっかかりやすさを重視したものや、これまでとは違った切り口から美術を読み解く系の書籍など多くの出版物がありますが、わたしが紹介するのは時系列で様式ごとに図版と文章で構成された標準的なタイプです。
「西洋美術史」と題される本は、本格的に学び始めると一冊では足りなくなります。ビギナーから研究者の卵まで、学習が深まるとその都度必携する通史本も変わってきます。古典的な名著から最新の研究結果を盛り込んだものまで複数の文献を手元に置きたくなってしまうのが悩ましい。とはいえ、通史からは早く巣立って自分の「問い」に立ち向かいたいのが本音。ほどほどに揃えましょう(自戒)。
① 超入門▶︎図版とイラストで楽しむ『鑑賞のための西洋美術史入門』
美術鑑賞が好きでたくさんの作品は見てきたれど美術史となるとあやふやだな・・・なんて初心者におすすめしたいのがこの本。通史をざっくりマンガ感覚でつかめます。かわいいイラストのリトルキュレーターたちが作品の制作背景や美術の専門用語の解説なども織り交ぜながら作品と歴史を紹介。美術検定の教科書としてとっかかりの一冊。
② 物語る名著!▶︎まずおすすめしたい『美術の物語』
タイトル通り美術史を物語として読むならこの本!
帯には「世界35ヵ国で翻訳され累計800万部突破!」とあります。それだけ多くの人を惹きつけてきた美術史入門書。ご家庭にぜひ一冊と言いたい。専門用語をできるだけ使わず平易な言葉で作品の魅力をていねいに解説しています。その語り口がなんとも魅力的なのです。
先史時代から現代までを年代順に28項目に分けているので一つずつ読破しやすい。図版を見ながら作品の主題や技法、なぜそのような表現方法なのかなどを作品が生まれた社会背景を交えて解説しています。
全体にゴンブリッチ節とでも言いましょうか、柔らかく冷静な作品への眼差しがありつつ時々ピリリと辛口な言葉にハッとさせられる。決して冗長にならない、美術への愛が溢れる言葉たち。こんな風に世界や美術を教えてくれる先生がいたら、世界の見方や人生観が違うものになって将来まで違ったかもしれない…。
2019年に発売されたこの新装版はファイドン社が日本撤退したため河出書房新社から発売されたもの。
わたしが持っているファイドン社のポケット版はバイブルサイズの携帯用。文章と図版が分かれていてそこが使いにくいのですが、幅広のしおりが本文用と図版用に2本つけられている装丁で読者思い。
新装版はお高いのが難ですが、美術とつきあっていく限り持っていて損はないと思います。わたしもポケット版と共に新装版もそのうち蔵書にしたい!
③ 準備体操に▶︎大学教養課程レベルの『新西洋美術史』
こちらは大学の1、2年生が「西洋美術史概説」を学ぶ時の参考文献としてリストに上がるもの。小さいですが図版も多く、文章も多め。執筆陣はいずれも大学で教えるプロ。専門分野によってはそれぞれの方の著書は卒論執筆時にお世話になることもあるはず。巻末の参考文献リストは日本で出版されたものだけに限られていますが、全部制覇したらかなりの知識が得られるはず。
図版は恐らく「これは見たことなかったな」「この画家だれ?」みたいなことがあると思います。また、文章も専門的な言葉が次から次へと繰り出してきて、何のことやら・・・となる場面もあるかもしれません。曖昧にしか理解できない所も出てきて、ひととおり読んでもなんだか掴めた感がないかもしれない。
しかし、美術史を本格的に学ぼうとするなら、ここはひるんでいられません。むしろワクワクして悔しがって欲しいところです。「こんな世界にわたしは飛び込むんだ!楽しすぎる〜♪でも、ここまでなるのに一体どれだけ時間がかかるのォォォォーーーツ!」と、踊りながら悶絶して欲しいものです。さあ、ご一緒に。
④ 知見が広がる▶︎海外で重版され続ける『西洋美術の歴史』
ニューヨーク大学美術史学科で長らく教授を務めたH・W・ジャンソン。博士のベストセラーで世界12ヵ国以上で翻訳された旧著をその息子であるA・F・ジャクソンが加筆修正、図版の見直しをした新版。
歴史、絵画、彫刻、建築の各方面である程度の知識があると記述の意味内容が理解できて自分のアンテナにひっかかる要素も多くなるのではないかと思います。図版はこれまで紹介したものには含まれないものも多く、かつ美術史を深めれば必ず知るようになる作品群。私自身、初めて知った作品も多く、作品の見方がわかってくるとその凄さが理解できるような逸品揃い。現地に赴くしか目にすることができない作品が多いのは残念ですが、入門から一歩踏み込んだ西洋美術史の理解にどうぞ!
⑤ 簡潔にして充実▶︎お気に入り『西洋美術史(美術出版ライブラリー歴史編)』
2021年発行の比較的新しい文献。B5変型版に豊富な図版が掲載されています。各章は概説・各論・コラムの3部構成で、これがとてもよいと感じます。特に、コラムは芸術を多角的にみることに多くのヒントを与えてくれ、軽い読み物として読み飛ばす内容にあらず。この3つの構成の相乗効果で、歴史上のいかなる文化的また政治的土壌が作品成立に寄与したのかという俯瞰的視座から考察するよう促してくれます。
わたしの蔵書の中では最新版になりますが、付箋をし、マーカーし、疑問点を書き込み、関連図版を挟み込み、と「書き込み式テキスト」として使っています。B5変形版という紙面の大きさとページの開き易さが書き込みにはもってこいで「使う本」としてこれからもおつきあいしていこうと思っている一冊です。
⑥ 古いけど読んで!▶︎研究室に入るまでに読みたい『西洋美術史』
指導教員からもらった基本文献リストにあった一冊で、私が中古で買った初版が1977年ですからかれこれ50年前という古書。ですが、図書館で借りるなどして一度手にとってほしい一冊です。図版はモノクロだし荒いしで、それが古書の味わいといえばそうですが、参照するのはきついです。どうぞネット検索して綺麗な図版を見てくださいませ。
執筆陣は当たり前だけど間違いない方々ばかりなんですが、その一人である高階秀爾先生の肩書きが東京大学助教授になってるあたりに歴史を感じます。最新研究を追いつつ過去も振り返る。そして過去からさらに学ぶ。
⑦ 学徒必携推薦!▶︎詳細かつ最新の研究から学ぶ『西洋美術の歴史』全8巻
全8巻からなる西洋美術の歴史書。図版は巻頭にカラーがあるものの点数としてはわずかで他は文中でモノクロ図版がそえられています。このシリーズは第一線で活躍する専門家による最新の研究動向をふまえた歴史書として読み、図版に関しては適宜ネット検索していけばいいかな、というもの。
内容は専門的で濃いです。わたしは付箋だらけになってしまって自分の無知に途方に暮れてしまいました。でも、この本を手がかりにさまざまな論文にあたり、現地で作品を鑑賞し、芸術を取り巻く文化や社会を知る手がかりとして文献を読み込んだりと芋ずる方式で使い倒せば元手は取れすぎるほど充実した内容です。4巻と5巻しか持っていないので、ゆくゆくは全巻揃えたいシリーズです。
⑧ 内容&物理的に重くて充実▶︎『世界美術大全集 西洋編』
ご紹介した文献の中では最大にして最重量なこのシリーズ。これも指導教員からもらった文献リストにありましたが、出版はもう30年も前になるんですね。古いねー。カラー図版は大きく鮮明で文字フォントも大きめで読みやすい。年表もけっこう細かくて、芸術家ごとに作品を制作年代順に並べてあるのがいい!また、地図や文献リストの他に工房系譜(11巻 イタリア・ルネサンスI )もあって重宝します。
大学図書館で内容を確認してこれは買いだ!とAmazonで中古をポチポチして揃えました。読んでよし、ながめてよしで大きく重いわりにこれまでいちばん活用している愛蔵書。ぜひ手に取ってみてください。
以上、まだまだ未熟な学生による独断と偏見に満ち満ちかもしれない「西洋美術史」文献案内でした。参考になればうれしいです!
軽くレポート一本分の文字数になってしまいました。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
また、これもいいよ、という文献があれば今後追加していきますね。
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