見出し画像

【本の話】コロナ下で叔母が亡くなり、星野道夫さんの『旅をする木』を読んだ

こんにちは。久しぶりの投稿です。
最後の投稿のあと2人目を妊娠、今年4月に次男を出産、2回目の育休に入っています。

復職中の仕事やコロナ下での子育ての話など書いていこうと思いますが、その前に、最近の出来事を一つ。

先月、叔母が亡くなりました。コロナではありません。ただ、急性の病気だったので2ヶ月の闘病で、あっという間でした。
コロナ下だったので、病院は面会不可。一度もお見舞いにも行けず。会えないまま永遠のお別れとなりました。
最後に会ったのは2年前。以前は年に3、4回親戚でわいわいと集まっていたので、こんなに長く叔母に会えず、そしてもう会えないとは…まだちょっと信じられません。

以前このnoteでも紹介した、俵万智さんの詩集『生まれてバンザイ』をプレゼントしてくれた叔母です。長男を出産した後に、早めに復職するか悩んでいると話したら「それよりも、この素朴な喜びに浸りきりなさいよ!!」と言ってくれました。この一言で、育休への心の持ちようがずいぶん変わった気がしていて、とても感謝しています。

入院中、会うことは叶わなかったのですが、LINEは少しだけやり取りできて、そのお礼は伝えられました。
(ただLINEというのは、お互い健康なことが前提のツールだなと感じました。相手が余命宣告をされているような状況で、どんな苦しさや体調なのか想像がうまくつかない中、テキストだけでやり取りをするのは難しかった…)

その叔母が好きだった本が、沢木耕太郎さんの『深夜特急』で、病室に持ち込んで体調のいい時などに読んでいたようです。

叔母が本をよく読む人だと知ったのは最近で(親戚の個人的な趣味って知る機会は少ないですよね。たとえ何度も会っていても)、深夜特急が好きなら辺見庸さんの『もの食う人びと』や星野道夫さんの『旅をする木』も好きかしら、もしまだ読んでなかったら勧めてみようかな、などと思っていたのですが、とてもそんな新しい本を読む状況ではないと知り、その考えは引っ込めてしまいました。

そして、叔母が亡くなって、ああ本の話はできないままだったな…と思いながら手に取ったのが星野道夫さんの『旅をする木』です。

よく知られた本ですが、いつか読もうと思ったまま未読でした。
夜、授乳後に目が冴えてしまうことがあるので、そんな時に1、2章ずつ読み進めることにしました。星野さんの美しい文章から遠いアラスカの景色を想像して、いい気分になれました。
熱帯夜の日本の狭い家をすっと抜け出して、意識だけ雪景色のアラスカに飛んでいくような。

この本の中で特に心に残ったのが、東京で働く友人の編集者の女性がアラスカにやってきて、一緒にクジラを見たという話です。
その女性は、多忙の中何とか仕事をやりくりして1週間を捻出し、星野さんのクジラの撮影に同行したそうです。

私は完全にその女性に自分を重ねて読んでいました。
1週間なんて思い切った休みを忙しい編集者がそう取れないはず。
どうしてもいま行かなければ、と心がギリギリの状況だったのでしょう。

その時である。突然、一頭のクジラが目の前の海面から飛び上がったのだ。巨体は空へ飛び立つように宙に舞い上がり、一瞬止まったかと思うと、そのままゆっくりと落下しながら海を爆発させていった。それは映画のスローモーションを見ているような壮大なシーンだった。
(中略)
ずっと後になってから、彼女はこんなふうに語っていた。
「東京での仕事は忙しかったけど、本当に行ってよかった。何が良かったかって?それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと……(中略)」

後年(没後)出版された『クマよ』の中でも、「今この瞬間も、遥かな北の大地で、クマが生命のいとなみを続けていることに都会から想いを馳せる」というような記述がありました。
この彼女から影響を受けて、星野さんの自身の考え方になっていったのかもしれません。

同じく『旅をする木』の中に出てくる、十六歳でアメリカ放浪旅行を決意し父親にカンパを受けて決行する…というエピソードが私は好きなのですが(世界に初めて触れる旅。ドキドキしますね)、『アラスカたんけん記』という小学生向けの本の中にも、同じエピソードがまとめられていました。うちの子は上がまだ2歳なので、読めるのは当分先ですが、いまから本棚に忍ばせておいて、いつか見つけて胸を熱くしてくれたらいいなあ、などと妄想しています。

今年は没後25周年だそうです。私にとっては、この本に描かれている時間がどれもかけがえのないキラキラしたもので、25年前とは言え、同じ現代にこんな時間を生きた日本人がいたと思うだけで、豊かな気持ちになれます。

追記:
こんなニュースがありました。
「写真家・星野道夫さん、没後25年の今も人の心温める作品 コロナ禍で著作の増刷続く」

新型コロナが猛威をふるいはじめた昨年、代表著作の一つ「旅をする木」が4度増刷された。子ども向けの写真絵本など増刷は計9作品に上り、例年にない数になった

コロナで傷ついた心が、星野さんの本で癒される。支えになる。多くの人が同じように感じているのでしょう。

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,744件

#読書感想文

189,460件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?