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「真鶴出版」に子連れで宿泊してきました

小田原近くの真鶴にある、「真鶴出版」をご存知ですか?

真鶴は街全体が半島になっている自然豊かな港町です。

そこに、”小さな泊まれる出版社”として知られる真鶴出版があります。ご夫婦2人でやっている出版社兼宿泊所です(ご主人が編集者、奥さんが宿泊業をやっている)。

夏に小田原に遊びに行った帰りに何の気なしに真鶴に寄ったのですが、いい街だなあと思って散歩する中で、ここはあの真鶴出版さんのある街ではないか?と気づき改めて泊まりに来たのでした。

”小さな泊まれる出版社”は、本のタイトルでもあります。真鶴出版さんの最初の書籍で、ここで出版&宿泊業を営むようになるまでの経緯が書いてあります。

2人がどんな価値観を持ったご夫婦なのか、真鶴にどんな可能性を見ているのか、事業が軌道に乗るまでの具体的なストーリーを読むことができます。

最近重版してまた手に入るようになった『小さな泊まれる出版社』。
Amazonではあえて販売していない。

真鶴出版は、宿泊するとまち歩きツアーに連れて行ってくれます。真鶴町には独自の街並みの「美の基準」が定められており、それを条例化している全国的にも珍しい街なのですが、それがどんな風に街の中に息づいているのか知れるのを楽しみにしていました。上の子がぐずってしまい(想定内ではありますが)、ややそちらに気を取られてしまいましたが、街全体が静かに意識が統一された佇まいを持っていることを実感してきました。

高台の見晴らしのよい場所で記念撮影していただきました
息子が食いついて離れなかった消防署の前でも一枚。うちの家族らしい写真になったかも(笑)

印象に残ったのは、街中の石垣。真鶴は石(本小松石と言います)が特産なので、その石を使っているのだと思うのですが、この自然の石を組み上げた石垣がとにかくカッコいいのです。東京の街でよく見る、石を模したコンクリートの流し込みの石垣(風なもの)を見るたびにモヤモヤしていたので、美しいなあ、と思いながら散歩していました。

一つひとつの石の形や組み上げ形が美しい港沿いの石垣。ずっと見ていられる。
写真だと立体感があまり出ませんが(残念)、真鶴出版さんの前の石垣も美しかった。
こういう車の通れない路地を「背戸道」と言うそうです。

「美の基準」を体現している建物だというコミュニティセンターも案内してもらいました。建物の中には入れなかったですが外から見させてもらいました。

行ってみて感じたのは、体現というのは見た目ではなく姿勢のことなのだなということ。

一つひとつ手作業で石が埋め込まれた階段

点字ブロックもDIYされていてびっくり。個人的にこれがすごく印象に残りました。点字ブロックと言えば既製品を貼り付けるものだと思っていた自分の中の常識が壊されました。

ビー玉のようなものや石を埋め込んで作られた点字ブロック

石垣も点字ブロックもそうですが、真鶴の街は既製品を貼り付けて終わり、としない姿勢がそこここにある気がします。

自分で材料を持ってきて、作って、手入れをしながら一緒に暮らしていく。

「小さな泊まれる出版社」の中では、宿泊所となる「真鶴出版2号店」をどう建築家と作っていったのか、古民家のリノベーションの様子が克明に紹介されています。

それを読むと、ここでも建築家にお任せすることなく、建物のあらゆるパーツを一緒になって選び、時には施主である自分自身が作家に依頼して手配をし、空間を一つずつ作り上げていった様子がわかります。

だからできあがった建物は、すみずみまで自分の意識や手が行き届いたものになっている。それは途方もなく大変なことですが、その中で暮らせることの幸せを感じます。

私はいま東京で賃貸物件暮らしをしていますが、それとは全く違う、空間と自分の息遣いがぴったり合った暮らしなのではないかなと想像して、うらやましくなりました。

施主である真鶴出版の來住さんが作家さんに依頼して作ったテーブル。
ここで朝ごはんをいただきました。

お宿のお部屋は簡素ながらとても居心地がよく、ここに住みたい、と思える空間。真鶴出版は1階がお店、2階が客室で1組しか泊まらない(コロナ下での運営)ので、お店の営業終了後から翌日のオープンまでは、店内もプライベートスペースのようにくつろぐことができました。子どもが寝入った後、静かに階下に降りて行って、色んな本や展示物を見る時間が贅沢でした。

両脇が壁で洞窟のようになっているので、子どもが落ちない(!)ベッド。
簡素だけれど、居心地のいいお部屋。
朝の営業前の店内でパジャマ姿でフリーのみかんをいただく息子。

ちょうど港で開かれていた地元のイベントを覗いたり、お寿司屋さんで地のものの新鮮な握りをいただいたり、干物屋さんでお土産を買ったり、短い滞在でしたが楽しみました。

「福寿司」の地魚にぎり
「高橋水産」さんで干物の試食をいただく

地元の福寿司さんは地魚しか出さない、お寿司屋さんなのにマグロが出てこないお店です。

そんなところにも、街並みにも共通する真鶴イズム(他所から持ってきたもので自分たちの衣食住を構成しない)を感じました。

真鶴はコンパクトな街ながら、夏は海水浴や磯遊びが楽しめ(ダイビングのメッカでもある)、森林浴もできる、海と森の両方にめぐまれた贅沢な街です。
魚も美味しいし、夏には地元の伝統あるお祭り(貴船まつり)で盛り上がるそうです。自然があり、食べ物も美味しく、伝統を守っていく気持ちを街の人たちが持っている。

やっぱり、とても良い街だと思います。今度は夏ごろ行ってみたい。

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