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小説『うそつき侵略者』

(あらすじ)
自分の占いが原因で友達をなくし、ミホは学校で占うのをやめていた。関わりたくない男子生徒、多田に占ってほしいと言われ適当な占い結果を伝えるが、彼は当たっていると言い出したのだった。
ミホは嘘をついたのだと白状するも、彼は『嘘』について興味があるのだとつきまとってくる。その調査に協力してくれたら願いを叶えるという多田。信じてはいなかったが、体育の授業をきっかけにもしかすると本当のことを言っているのかも、と思いはじめ、ミホは多田に協力してみることに。

 勉強机に敷いた紺色の布の上で、ミホは念じながら、よくシャッフルしたタロットカードをひとつにまとめる。それを三つの山に分けてから、真ん中、左、右の順番で重ねた。一番上になったカードをゆっくりとめくる。今日のカードは『運命の輪』だ。冬休みが終わって最初の登校日に『運命の輪』が出るなんて、幸先がいい。ミホは部屋の結露した窓越しに冬の澄んだ空の色を見て、ほんの少し明るい気分になる。

 毎朝学校に行く前に、その日一日のことを占う。すっかり日課になったミホのルーティンは、占いを始めた小学校六年生のときから中学二年生になった今でも続いている。

『運命の輪』は二十二枚ある大アルカナのタロットの、十番目のカードだ。長方形の形をしたカードの真ん中には大きな車輪が描いてあり『宇宙の真理』『好転』『チャンス到来』といった意味をもつ。ミホは『運命の輪』のカードを数秒見つめてから、タロットカードを順番通りに並べなおして、布と一緒に机の引き出しにしまった。そろそろ家を出なくてはいけない。昨日の夜に必要な教科書を入れておいた重たい通学リュックを背負い、部屋をでてリビングへむかう。自分には占いの才能があるけど、あのことがあってからは、もう学校には持っていかないとミホは決めていた。

 玄関にくると、外からの冷たい空気と家のストーブの温度が混ざり合い「今から行かないといけないんだ」という気持ちにさせられた。今日の運勢は『運命の輪』、今日の運勢は『運命の輪』。ミホは心の中で二回繰り返してから、

「いってきます」

 と玄関の扉を押した。


 教室は暖房と、集まった人間の体温で廊下よりずっとあたたかい。黒板側にある背の高いストーブの前には選ばれたクラスメイトが数名陣取っている。ミホは廊下側から縦に二列目、後ろから三列目の『まあまあ当たり』の席から教室全体を、不自然にならない程度に盗み見た。

「アルミホさん」

 その途中、突然声をかけられてミホはびっくりする。ミホがクラスで話しかけられることはめったになくて、めずらしいことだった。声の主は右斜めうしろの席の多田夕だ。黒縁の眼鏡に分け目のない黒髪が覆いかぶさって、その髪型のフォルムから『きのこ』と呼ばれているのを聞いたことがある。ミホと同じくらいの背丈で、ミホよりも体が細くて骨ばっている。彼の見た目を一言であらわすなら『オタク』がぴったりだった。

「はい?」

 目があったままでも多田は何も話し出さないので、ミホは強めに返事をした。『アルミホ』というのはミホにつけられたあだ名だ。クラスの男子が「有野ミホって名前、ほぼアルミホイルじゃん! アルミホさんって呼ぶわ」と言った日から、このクラスの人からはそう呼ばれるようになった。

 二年三組には友達のいないミホだったが、ミホだって誰でもいいわけではない。明らかにオタクっぽい見た目の多田とは仲良くなりたいと思わないし、できれば関わりたくもなかった。部活に行けば友達はいるので、今は放課後のために学校に来ているようなものだった。

「ぼくのこと、占ってほしいんだけど」

「いや」

 ミホは即答して、言葉通りのいやな顔を隠しもしなかった。学校で占いはしない。心に決めたことだからだ。

「どうして?」

 多田は不思議そうに聞く。同じクラスになって何か月もたつのに、ミホは初めて彼と目を合わせて話したのだということを、眼鏡の奥のぱっちりした平行な二重を見て気が付いた。

「やりたくないから」

「どうしてやりたくないの? 前、やっていたよね。占ってもらったことがある子に、アルミホさんのことを聞いたんだ。その子はよくて、ぼくはいやなの? それとも、ぼくがいやなんじゃなくて占いがいやってこと?」

 一気に話し出した多田にミホはうっ、となる。こんなに一から十まで問い詰めなくったって。

「誰に聞いたの」

 ミホにとって大事なところだった。多田の質問には答えずに、質問で返した。

「教えたら、占ってくれる?」

 まっすぐミホの目を見て多田はそう聞いた。髪は真っ黒なのに、薄茶色の瞳の輪郭はぼんやりとしていて外国人っぽい。彼は眼鏡の奥で目をぎゅっとするまばたきを二回続けてした。質問に質問が返ってきてしまい、ミホは即答できなくて黙る。多田から目をそらして、一瞬だけ考えてから

「わかった」

 と答えた。多田はおどろくそぶりもなく、ほほえみとも気のせいとも思えるような顔をして頷く。二人の間で小さな契約が結ばれた瞬間だった。

 そのとき、朝のチャイムが鳴った。クラスメイトたちは次々席に着きはじめ、ストーブの前からは誰もいなくなった。ガヤガヤとした誰のものともとれないざわめきは少しずつ静まって、ついにはしんとする。全員が決められた場所に正しく収まった二年三組という名の箱が完成したとき、ちょうどよく担任の佐藤先生が「おはよう」とやってくる。そうしてミホの中学二年生の冬休み明け最初の日は始まった。春が来たらもうこのクラスも終わりだ。早く終わってしまえ、と前を向いたままミホは心の中で思った。

 長い休みが始まる前の日と終わって最初の日は、必ず校長先生の話を聞かないといけない。いつもより短めの朝の会のあと、全校集会のためにぞろぞろと体育館に移動する。背の順で並ばさせられ、『休め』の姿勢で立ちっぱなしにさせられる。校長先生の話は頭に入ることもなく、読めない楽譜のように流れていく。ミホは早く多田と話の続きがしたかった。

 多田はクラスのどの男子グループに所属しているわけでもなく一人でいることが多いが、何も気にせずに色々な人に話しかけている。ミホには信じられないことだし、陰で何か言われているだろうなと思う。そんな多田に一体だれが自分のことを話したのだろう。まったく見当もつかないが、やっぱり、あのときのことだろうかと頭がいっぱいになる。校長先生の話中ではなおさら、ミホは気になって仕方がない。

 全校集会が終わって、背の順で並んだままの教室への帰り際、いつ話の続きをしようかミホが考えていたときだ。男子の列と女子の列が横並びになり、背が同じくらいの多田はちょうどミホのすぐ隣に来ていた。なんとなく前後の子たちと間隔ができていて、今なら聞けそうだな、と思ったときに多田がこちらを向き、

「放課後、図書室に集合で」

 とちょうど良いタイミングでそう言った。


 全校集会が終わればもう普段とちがった特別なことはなにもなく、今までと同じ時間割のとおりに教科書を机から出したりしまったりして、つまらない授業のあいだ、ミホはノートに落書きをしたり、考えているふうにしてただぼうっとしたりしていた。給食の時間になると、席の近い六人グループになって机をあわせ、班をつくってたべる。この班ごとに給食を配る係がまわってくるシステムだ。多田とミホは同じグループにはならず、ぎりぎりの境目席だった。

 六人で顔を合わせていても、ミホが話しかけられること、話しかけることもない。すごく盛り上がっている班もあるし、六人とも静かにもくもくと食べている班もいる。ミホの班では、六人の中のノリが合う三人だけでずっとしゃべっている。こういうにぎやかな人に限って、週明け給食着を忘れてくるのに、クラスでは中心になったりするのはなんでだろうとミホは思う。

 それから眠気のつきまとう五時間目、逆に冴えわたるようになった六時間目が終わる。掃除の時間が終わり、帰りの会のあと、やっと放課後はやってきた。それまで、授業の切り替わりの十分休みにも、だれとも話すことはなかった。ミホはクラスに友達がいない。これは自分で分かっている事実に変わりはないけど、聞こえてくるこのクラスの人たちの会話はつまらないし、そんなのに混ざるくらいなら無理に仲良くしなくたっていいと思っている。それに、自分はクラスメイトとは違う、特別な力があるのだ。そのせいで、普通の人とは友達になれないのは仕方がない。今日は嫌だけど、交換条件で多田の話に付き合わないといけない。誰が多田にそのことを話したのかもつきとめないといけなかった。『運命の輪』はもしかするとここから始まるのかもしれない。ミホはてっきりいい方に転ぶ期待をしていたので、頭のすみっこで分かってはいたが考えないようにしていた。運命は悪い方に転がることもあることを。

 二年生の教室と同じ二階にある図書室は、三組を出て廊下をすすむと、この学校で一番大きな中央階段の横にある。木でできた大きな引き戸に半月のかたちのガラスがはめこまれていて、中のようすが見える。扉の前に立つと、ひんやりした廊下からまっすぐ、暖かそうな図書室の中、その窓の外までが見える。一月のいま、四時を少し過ぎ、赤い空で日が沈みはじめているところだった。

 中に入ると、図書室にしかいない、先生ではない職員さんがいる。図書室専用の大人のひとだ。朝から放課後までずっと一人でここにいられるならうらやましいなとミホは思う。ミホの背よりずっと高い、大きな本棚を何個も超えて奥へ進む。一番奥の、行き止まりの場所にあるテーブルに、壁を背にして多田は一人座っていた。

「やあ」

 ミホが来るのを分かっていたかのように、多田は右手を挙げる。

「ここだと、大きい声じゃなければ話しても大丈夫なんだ」

 座って、と多田は自分の向かい側で通路側の椅子にてのひらを向けた。ミホはすなおにそこに座る。

「部活行きたいから、短めにして」

 本来なら部室で話をしている時間を多田なんかに使っていることは不服だった。

「もちろん。必要のないことはしないよ」

 ミホの言葉を気にもせず、多田はあっけらかんと言い放つ。

「先に、占ってほしいな。そうしたら、ぼくも先をあせらず話せる」

「まあ、話してくれるならいいよ」

 本当のところ、ミホは多田のことをちゃんと占うつもりはなかった。タロットカードもあのことがあってから学校には持ってきていなかったし、適当にそれっぽいことを言おうという魂胆だった。

「いま、タロットカードがないから」

「そういうこともあるかと思って、大友くんからトランプ借りて来た。一から十三のカードの番号イコール、タロットの番号にしたらいいよね」

 多田は左手を机の上に出し、トランプの入った箱を置く。大友というのは、ミホのあだ名を『アルミホ』と決めた男の子だ。

「大アルカナは二十二枚なんだよ。十三枚じゃできないよ」

「たとえば、ハートは普通に使って、スペードに十足すって風にすればいい」

 ミホは心の中で悪態をついた。タロットじゃないんだから満足な結果が出るわけがない。上下対象なトランプでは、逆位置かどうかがわからないし。そう思ったが「じゃあ別な日にちゃんと持ってきて」と言われそうな気がしたし、そもそも正しい結果なんて出すつもりはなかったので、黙って従うことにした。

「じゃあ、その通りにやるよ。ハートとスペードで」

 トランプを多田から受け取る。ミホは順番が一から二十二になるように、ハートの一からキングまで、スペードの四から十二のクイーンまでを順番に並べて、一つの山にして裏返して置いた。

「じゃあ、始めるから。話しかけないでね」

 ミホは山になっていたカードを崩し、両手で混ぜた。トランプは普段使っているタロットカードよりも小さいので、めくれてしまいそうになったりする。混ぜ始めると集中し、適当にやってやろうと考えていたことも忘れそうになる。ここでミホは、事前に何を占ってほしいのか、多田に聞き忘れていたことに気がついた。なので『多田夕について占う』と勝手に決め、それを心の中で唱えながらシャッフルを続ける。もういいだろう、と思ったところでカードを一つの束にまとめた。それを三つの山に分ける。ずっと膝の上に手を置いて前のめりで見ていた多田に視線をやり、

「好きな順に指さして」

 と指示した。多田はミホの目を一秒見てから、左、真ん中、右、と順に指さした。ミホはその通りの順にカードを重ね、また一つの山に戻した。一番上にきたカードをとり、ゆっくり開いて山の横に置く。

「スペードの十」

 だから、大アルカナでいう二十、とミホは続ける。

「二十番目のカードは『審判』」

 ミホはここに本物のタロットカードがなくても暗記していてすぐに言うことができた。『変革』『覚醒』『復活』といった意味をもつカードだ。目の前にあるのはスペードの十だが、ミホの頭には記憶の中の『審判』の絵柄が見える。空の上で天使がラッパを吹いていて、それを棺から立ち上がった人々が見上げ、称賛していた。死者の蘇りをあらわしているような絵だ。なんと伝えようか、ミホは考える。

「もう話してもいいの?」

「まだだったけど、もういい。説明するから」

 ちょうどいやなタイミングで話しかけられたせいで思考を中断され、やけになったミホはいきあたりばったりで結果を言うことにした。多田はうんうんと頭を揺らしてミホの言葉を待つ。

「『審判』のカードから、多田くんは大事なターニングポイントに立っているところみたいだね。自分の意思で決断する必要があるから、納得できる選択をしたほうがいい。それから……」

 考えなしで話してみると、つい、いつものくせで正しい『審判』の占い結果を言ってしまった。ミホは途中でそのことに気が付き、でたらめを言わなければと思いなおした。『審判』のカードには、ほかにも『悩みの解決』『気づき』『努力が報われる』といった意味があり、正位置であれば明るい結果をもつ。これをキーワードにミホは考えることにした。

「それから、多田くんは何か、変革しようとしているんじゃない? 大きな悩みを持っていて、どうしようか長い間、今も考えてるでしょ。その悩みをどうにか解決するために改革したい。努力だけではどうにもならないようなことだから、自分自身が覚醒するしか方法はない―――そういう野望を心にずっと持ってるね。正義のヒーローみたいに…… いや、まだ誰もやったことがない方法であれば、正しいやり方じゃなくたっていいと思ってる。そういう大きな革命をしようともくろんでるんじゃない?」

『審判』から着想を得て発していった言葉を広げながら、変な方向にもっていくように意識する。自分で言ったことを否定したり、正反対のことを言ったりもしながらミホは続けた。

「間違ったやり方をせざるを得ないけど、正しくありたいっていう気持ちも持ってる。本当は、この地球ごとどうにかしたい。しなければならないって。たとえば、そう、地球を侵略するくらいの大革命を起こしたい!」

 ミホはでたらめも尽きてきて、だんだんと次の言葉が苦しくなってくる。多田は顔に感情を表さない。

「でも、それは中学生のたった一人の力では難しいことだと私も思う。だからおかしいんだよ、こんなに大きな悩みを抱えて、自分でどうにかしようとしているなんて。地球ごとどうにかするってことは、もしも隕石が降ってくるのなら止めるくらいの力が必要なはずだし。だけど隕石が降ってくるとして、それを止めちゃうのも困る。この地球は多田くん自身が、壊さないで改革してどうにかしないといけない事だから。だから、そう、隕石を止めるくらいのパワーを多田くんは秘めているけど、あえてしていない。その理由は、地球がなくなったら、目的を果たせなくて困ってしまうから。そうか、多田くんの野望はこれだね。多田くんがやろうとしている大革命っていうのは、この地球を侵略すること! でも、それには中学生なんかじゃどうにもならないレベルの大きなパワーが必要」

「それは、つまり……」

 先ほどまでのあっけらかんとした態度からは珍しく多田は言いよどんで、眼鏡の奥で目をぎゅっとしたまばたきを二回する。それが合いの手となりミホの大嘘には拍車がかかる。そして最後の決め手となるでたらめを言い放った。

「そう! 多田くんは宇宙人だ!」

 これで多田に、ミホの占いなんてたいしたことがないと思ってもらえるはずだ。今日の話が終わったら関わってくることもないだろう。ミホは心の中でガッツポーズをした。でまかせを言い続けるのは想像以上に大変だったので、その達成感に満たされていた。

「驚いた」

 多田は口を半開きにし、目はいつもより見開かれている。よくいう、ポカンとした顔そのものだった。きっと、あきれてこんな表情をしているんだとミホは確信していた。でも、違ったのだ。

「ぼくの一番の秘密だったのに」

 多田は言った。もう先ほどの表情はあとかたもなく、口角を上げて笑みを浮かべている。ミホは「はあ?」という顔を隠しもせず多田を見ていた。彼が嬉しそうなのが気味悪かった。

「それに、聞いてた話とは違うな」

 ミホについての話を教えるのを交換条件に占いをした。多田が聞いてた話というのはそのことのはずだ。

「アルミホさんには最初からお見通しだったってわけか」

 何が嬉しいのか、多田は整った白い歯を見せて笑う。そして一人で話し出した。

「そうだよ。ぼくは〇〇から来た、地球からいえば宇宙人、ってやつなんだ。ゆくゆくはこの地球を侵略しようとしてたところまで、ばれてしまうとは……」

『〇〇から来た』という多田の言葉はミホには聞きとることができなかった。その様子に気づいたのか、多田が説明を付け加える。

「ああ、〇〇は地球の発音にないからね。仮の星って書いて『仮星』にでもしとこう。火星と見せかけて、仮星、これおもしろくない?」

 きのこ頭をゆらし、くつくつと多田は笑った。ミホは面白くないと思ったし、多田は自分を宇宙人と自称する頭のおかしな奴なのだと確信していた。

「正体がばれてしまったわけだから、ぼくは今回の試験、失格だな、残念だけど。ああ、そもそも侵略するかどうかはまだ調査段階でね。まずは、ばれずに少しずつ仮星人を増やしていこうという計画だったんだ。始まったばかりのね。データ上では問題なくても、実際に体験したらぼくたちの体に合わない何かが存在するかもしれないから、ぼくは、最終調査として試験をしていた。合格すれば、ゆくゆくの侵略のために地球移住するときの移動費が免除されることになってたから。合格基準は、宇宙人だとばれずに三年間過ごして、帰還すること。あと、レポートも必要だ」

 一人熱心に話し続ける多田を見るミホの眉間にはしわが寄っていた。やっぱり関わらなければよかったと後悔し始めていたところを、多田は勘違いしまた説明を加える。

「移動費免除なんて、って思ってるんだろ。かなり、かなり高額なんだって。知ってるかわからないけど、地球っていうのはものすごい僻地なんだ。命知らずで物好きの大金持ちがほんのたまに観光しに行くくらいだよ。ぼくは地球にものすごく興味があったけど、旅費がなかったからさ。今回調査試験に立候補したわけ。試験に関する往復費用は格安だったんだ。だけどさ、この調査に来るまでも大変だったんだよ。地球の研究を専門にした学校に通っている生徒じゃないと応募ができなくて、その中でも上位の成績優秀者だけが実際に試験を受けられるんだ。この調査試験は最終の実技試験なんだけど、ほかの希望者は最終よりも前の試験で点数が足りなくて、すでに不合格になってる。ぼくだけがなんとかここまで来れたのは、勉強するのが楽しくて仕方がなかったからかもしれない。そもそもぼくの夢は宇宙飛行士ならぬ、地球飛行士なんだ。子どもの時、すごくすごく遠くにある惑星のことを知って、それからずっと目指してきた。地球の基準でたとえると、いまぼくは専門学生みたいなものかな。この試験自体は、希望者だけを対象にしたホームステイといえるだろうね。まだ認証されていない薬を治験する希望者みたいな意味も含むかも。でもまあ、もう次は来られないだろうな。もっとも、侵略自体が先延ばしになるわけだけど。そうそう、レポートはもちろん書きたいことが最初から決まっていて、これは実際に地球に来ないと書けないだろうなってずっと思っていたことだから楽しくってしょうがなくて」

「もう大丈夫」

 相槌ひとつもうたないでここまで話し続けるのだから、止めなければ下校時間になっても話は終わらないだろう。ミホは強めに制止し、多田の話中にまとめてあったトランプをケースに戻した。

「分かったから、今度は私が約束を守ってもらう番。私について誰から、どんなことを聞いたのか教えて」

「そうか。そうだね」

 真剣なまなざしをしたミホに気づいた多田は、先ほどまでのうすら笑いをやめた。二人は机を挟んで向き合うかたちになる。

「ぼくが話を聞いたのは、二年四組の、山口茜さんだよ」

 山口茜。ミホが一年生のときに同じクラスだった子だった。ミホが、まだみんなの前で占いをしていたころだ。彼女を占ったことはなんとなく覚えていた。

「山口さんが、何て」

 ミホがまっすぐ出したつもりの声は細く、不安定な音になって発された。

「山口さんは、相川さんと大森さんと一緒に話してたんだ。それでそのとき気になることを言ってたから、ぼくが話しかけた」

「気になることって」

「ぼくの気になることは、地球で使われてる『嘘』について。さっき言ってたレポートも、これについて書くって決めてた。不合格になっても、点数には関係するし、今後のためにも最後まで書き上げるつもり。一番は、そもそもこれが、自分が地球に来てやりたいことだったからだけど」

 ミホは多田自身が気になることを聞いたのではない。山口さんがなんて言っていたのかだ。真剣に話を聞いている自分があほらしく感じてきた。そういう事ではないとミホが言う前に多田は話し出す。

「ちょうど、通りがかりに話していた山口さんが『嘘つき』って言ったのが聞こえた。だから少し立ち聞きしたんだ。そしたらさ」

 多田は少しも表情を変えず、そのまままっすぐミホの目を見て言った。

「『あの子のは嘘占いだから』って」

 嘘占い。頭の中にその言葉だけがずしんと残り、どろどろしながらゆっくり溶けだしていった。視界に映る多田は話し続けているが、ミホの耳には届かなかった。

「―――それでぼくは、アルミホさんに声をかけたってわけ。嘘の使い方はたくさんあるっていうし、ぼくも知りたかったんだ」

 多田は悪びれる様子もなく、それどころか楽しそうにも見えた。

「だけど、全然そんなことないじゃないか。嘘つきは山口さんのほうだったってことか」

「嘘だよ」

「え?」

「今日の占いは嘘。適当を言った」

「なんだって? つまり、今まではそうじゃなかったのに嘘と言われて、今日、嘘だと思って寄ってきたぼくには、嘘を言ったってこと? それは、つまり……」

 多田は表情も動きも一時停止したまま考え、何かを言いかけようとしていたが、ミホはそれを無視して椅子から立ち上がった。

「部活行くから。これで私たちの約束は終わり」

 ミホは一方的にそう言い放ち、図書室の一番奥から出口までの道のりを早足でかけぬけた。頭の中にはまだ、山口さんの言葉がこびりついていた。


 一階の端っこにある美術室からは昇降口が見える。その窓から見えた外はもうすっかり暗くなっていた。部室はすでに暖房であたためられている。それだけのことだったが、ミホはほっとする。ここが自分の、唯一の居場所だと思えた。

「お疲れ様です」

 部室に入った時に言う決まったあいさつだ。部員たちから、お疲れ様です、とあいさつが返ってくる。三年生の先輩は引退してしまったので、今はミホを合わせた二年生が三人、一年生が三人の計六人で活動している。顧問の海野先生はいなかったが、部員ならだれもが分かっていることだった。先生は決まって五時に帰るからだ。二年生のうちの一人はいつも海野先生と同じく五時ごろに帰り、一年生にも早めに帰る子がいるので、全員合わせると今いるのは四人だった。ミホはいつも自分が使っている席に座る。一年生は入口側の前から二列目あたり、二年生は縦からも横からもちょうど真ん中あたりに陣取るのがおきまりになっていた。全員集まっているときは学年ごとに別れがちだが、五時から六時までの間、残った四人は真ん中の席ちかくに集まりだす。なぜかいうと、たいした理由はない。近くの距離で中身のないおしゃべりをするためだ。ミホはこの四人とおしゃべりをする一時間だけを楽しみに、毎日いやいやながら学校に来ているのだった。

「遅かったねえ」

 スカートからのぞくミニチュアな足を組んで、二年六組の真由ちゃんが言った。

「ちょっとね用事。なに、これ?」

 ミホはあいまいに返事をする。机の上に小さなピンクのリボンが二つ付いた髪留めが置かれていた。

「おれのです。おれのっていうか、妹が勝手に入れてたっぽいっす」

 一年の菅くんが言った。彼には年の離れた妹がいて、好かれている話をよく聞く。んんんふ、とそれを聞いた、もう一人の一年生である泉が独特な笑い方をした。

「で今、かわいいものしりとりをやってた」

「発動してしまいまして」

 かわいいものしりとりというのは、この四人で何度かやったことのあるゲームだった。なぜかしりとりではないのにしりとりという命名になっているが、かわいい三文字の単語を一人ずつ、手拍子を二回したあとに言っていく。男女問わず、必ず裏声で言わなければいけないのが一番のルールだ。

「ミホン先輩もやりましょ」

 泉がミホの座る机に、意味もなくピンクリボンの髪留めを置いた。ミホンというのがミホの美術部でのあだ名だった。『見本』にかけたのがこのあだ名の始まりだったが、どれだけ韓国人っぽく言えるかのゲームをしてからは、それっぽい発音に変化している。

「はい、じゃあ、いくよ?」

 真由ちゃんが小さな両手を合わせて合図をすると、全員がぴっと真ん中を向き合い、両手の平を合わせた。かわいいものしりとりの始まりだ。まず真由ちゃんがパンパン、と二回拍手して、

「りぼん」

 と裏声で言った。三文字の『かわいい』であるリボンの髪留めがこの教室に現れて、かわいいものしりとりが発動するまでのことが、ミホには簡単に想像がついた。全員が二回拍手する。次は真由ちゃんの左側にいたミホの番だ。

「うさぎ」

「はあと」

「とまと」

 その横の菅くん、泉の順番でかわいいものしりとりは回る。全部ひらがなになるように裏声で言うのがコツといえばコツだった。ゲームは二周目に入る。

「ことり」

「おはな」

「おやつ」

 ミホの『おはな』から『お』を頭につける流れになる。

「おしり」

 泉の番で、耐えきれなくなってミホは吹き出した。

「おしりってかわいい?」

「当たり前にかわいいですよ! それを言うなら菅の『おやつ』も怪しいじゃないですか」

 泉は自分でも笑いながら反論する。彼女は頭より先に口が動くタイプなので、指摘されてから気づいて一緒に笑いだすことがよくある。

「『お』をつけたからかわいいだけでしょ、しりだよ、しり」

 真由ちゃんも小さな体をまん丸にしながら言った。

「いや、でも、かわいいですよ」

 菅くんは笑ってほとんど声が出ないようだった。かわいいものしりとりは、勝ちも負けもなく、目的もなければ終わりもなかった。それなのにいつの間にか始まって、いつもなぜか誰かが面白くなってしまい、誘い笑いが止まらなくなって終わる。しょうもないことを共有できるからこそ、ミホはこの集まりが楽しいと思う。本来の絵を描く活動よりもこの時間が好きなのだった。暗くつきまとうさっきまでの出来事から少しずつ気がそれていくのを感じる。それでも山口さんに言われた『嘘占い』という言葉だけはどうしても頭から離れなかった。ミホの占いが外れたことはない。多田を占ったときのでまかせ結果は、正真正銘、初めてやったことだった。今朝自分で占った『運命の輪』のカードだって、いい意味ではなかったけど、その通りのことが起こっている。間違っているのは山口さんなのに、どうして自分が嘘つきよばわりされなければいけないのだろう。

 自分の価値がわかる人としか仲良くなんかしなくたっていい、とミホは思う。万が一、多田がここまでついてきていたら嫌だな、というのが一瞬よぎったが、明日からはもうつきまとってくることはないだろう。嘘の占いをしたと、ミホ自身がそう言ったのだから。


 そう思っていたのに、最悪の出来事があった。

 次の日の朝、なんと多田が校門前でミホのことを待ち伏せしていたのだ。今日の占いで出たタロットカードは『塔』。『崩壊』や『災難』といった意味をもち、避けることのできない出来事にみまわれるだろうという結果だった。

「やあ」

 目をぎゅっとつむるまばたきを二回して、多田は近づいてくる。このまばたきが彼の癖であることをミホは覚えてしまっていた。

「なんでいるの」

 ミホは一瞬だけ立ち止まったがそのまま校舎の中へ歩き出す。多田は同じ速度でついてきた。

「ぜひ、一緒にさぼりたくて」

「はあ? ばかにしてるの。いやだ」

「ごめん。嘘ついたよ。どう? いまの使い方は合ってるよね。アルミホさんには隠し事する必要なくなったから、レポートに協力してほしくて」

「いやだって」

「でもアルミホさんしかいないんだって。失格になったぼくはきっと予定よりはやく帰還することになる。急いでるんだ」

「私には関係ない」

 ミホは多田のほうを見もせず下駄箱の上履きを取り出す。

「ミホさんはただの嘘つきじゃないってわかってるよ」

「なにそれ。ただの嘘つきじゃなくて、ものすごい嘘つきって言いたいの? それともこれも、嘘を試してるわけ」

「違うよ。本心だ」

「あっそ」

 靴を履き替えてつま先をトントンとする。多田もまねしてミホと同じことをした。

「ねえ、嘘にまつわる言葉っていっぱいあるじゃない。例えば『嘘つきは泥棒の始まり』。ぼくって今そういう感じ?」

「かなり」

 自分のことを宇宙人だと言うような人はその通り『嘘つきは泥棒の始まり』と注意されるべきだとミホは思った。多田は中学生によくある痛々しい妄想を人にひけらかしてしまうような、空想と現実の区別がついていない、ミホが特に嫌いなタイプの人間だ。しかもあれだけ細かく設定を固めているのだから、相当重症にちがいなかった。

「なるほど。じゃあさ、嘘の色については? これって不思議だと思わない? 真っ赤な嘘、黒い嘘、白い嘘とか」

 ミホは二年三組へ向かう中央階段をのぼりながら黙った。無視をしたわけではない。確かに、と思ったからだった。それで少し、興味がわいた自分がいて、なんと返事をするか迷ってしまった。

「協力してくれたらミホさんの願いを一つ、叶えようと思ってたんだけど」

 黙ってしまったミホを見て多田は言った。二人の目が合う。彼は二回まばたきをした。二年三組の教室まであと三歩というくらいのところだった。

「これは嘘じゃないよ」

 多田は最後に一言だけ言い、潔く自分の机に向かっていってしまった。


 それから四時間目の体育の時間になっても、ミホは上の空だった。今日の授業はバスケットボールで、パスやドリブルの練習を終えてからは、六グループに分けられたチームで総当たり戦を行っていた。体育館を二分割して、小さめのコートで計四チームが対戦している。ミホは自分のチームが回ってくるまで、目の前の行き来するバスケットボールを体育座りでぼんやりと見る。願いを叶えるなんて、できっこない。多田は今どき珍しい、特大妄想癖の、オカルトオタクで周りの見えない大嘘つきだ。彼は地球で言うとこうだろうね、と色々たとえてきたが、だとすれば見た目が人間と同じで、しかもオタク丸出しのガリガリきのこ眼鏡であるのはおかしなことではないか。宇宙人といえば銀色で顎がしゅっとした形だったり、ドラえもんに出てくる一つ目でひげが生えた形だったりするものくらいしかミホは知らないが、まったく人間と同じなんてあり得ないことくらいは分かる。

 でも、こういうことを思いながらも、ミホは考えるのをやめられなかった。なんでも願いを叶えてもらえるとしたら、と思考が勝手に歩き出していってしまう。それに、たった一つだけだ。有名な占い師にしてもらうとか、超能力を使えるようにするとか、単純に、大金持ちにしてもらうとか、それとも、もっと他にいいお願いがあるかもしれない。もしもの話だと分かっていながらもミホは、何を願おうか考えてしまう。

 ブー、と体育倉庫から出してきた大きなタイマーのブザーが鳴って、ミホのチームの順番が回ってきた。対戦するのは、ちょうど多田のいるチームだった。うわっとミホは思ったが、顔には出さないようにコートの線の上に立つ。チームの中でも背の高い子同士が前に出て、ジャンプボールで試合が開始された。ミホのチームがボールを取り、ワンバウンドしてボールを受け取った男子がコートに駆け出す。自分にパスが回ってくることはそうそうないとわかっていたので、ミホは半分の力でコートを走る。相手チームはみんなミホを追い抜いて自分たちのゴールにシュートされるのを防ごうとしていた。そんな中、デチ、デチ、と奇妙な足音が背後から聞こえて、思わず視線をやってしまう。多田だった。

 彼は走っている雰囲気をしているのだが、足の裏の着地の順番が変で、スキップができない人のスローモーションに見えた。つまり、走り方がかなり変で遅いのだった。ミホはその人知を超えた運動神経の悪さにぎょっとして、それからのゲームにも集中できなくなってしまった。

「アルミホさん!」

 よそ見をしていたミホにパスの合図がくる。ダーン、と二歩前でバウンドしたボールはちょうどミホの手の中に渡った。突然のボールの感触だった。先ほどまで誰も気にしてはいなかった自分を全員が見ていて、ミホは動けなくなる。敵も味方もボールを持つ自分に向かって走り出してきたように見えた。立ち止まったまま、同じチームのゼッケンカラーの人を必死で探す。渡せそうな位置に移動してきた子に向かって、両手を振りかぶって思い切り力を込めて投げた。そのときだった。

 ワンテンポどころではない遅れで到着した多田が飛び出し、ちょうどその顔面にミホが投げたボールがクリーンヒットしてしまった。鈍い音が聞こえたあと、落ちてバウンドしたボールの間抜けな音がした。コート上の全員が一時停止する。

「多田! 大丈夫か!」

 体育の先生が多田のもとに走ってきて、試合を止めた。そこでやっとミホは、はっとして多田に近づく。

「ご、ごめん。大丈夫?」

「血は、出てないみたいだけど」

 突っ立ったまま、眼鏡の下でぎゅっと二回つよいまばたきをした多田の顔を、先生が確認する。逆になぜ血が出ていないのか不思議だという感じの言い方だった。

「保健室に行ってもいいですか」

「もちろんだ、行ってきたほうがいい」

「アルミホさん。ちょっとクラクラする。連れて行って」

 多田はそこでやっと、思い出したかのように目をきょろりと動かし、ミホを見た。


「ごめん、本当に。痛いよね、どこか折れたりしてるかもしれない。脳しんとうとか」

 体育館を抜け出し、二人は並んで歩いていた。ミホはさすがに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。みんな授業中で、誰一人いない静かで冷たい廊下には二人の足音と声だけが響く。

「視界がグラグラするんだ。吐きそうだし、頭も痛い」

「ごめん。どうしよう。保健室まで歩けそう?」

「うん。本当はなんともないから」

 ケロリと言い放つ多田に、は? とミホは返す。

「嘘ついたの? 本当に心配したのに!」

「これさ『嘘からでたまこと』じゃない? ほら、朝ぼくが一緒にさぼろうって言った事覚えてる? いいチャンスが来たと思って」

「最低!」

 ミホは声を上げたがボールをぶつけてしまったのは事実だったので、すぐに口をつぐんだ。

「本当になんともないんだ。このすがたって触れるCGみたいなものだから。ぼくの本当の顔でもないし、集めたデータの中からなんとなくで作った外見なんだよね。ゲームのアバターつくるときのような感じ」

「はいはい、宇宙人のね」

「そ。だから、どこも無傷」

 ピタリと立ち止まって、多田は両てのひらをミホに見せるポーズをした。ミホはまた多田の作りこんだ設定語りが始まったのだと思ったが、考えなおす。あんな音が出るくらいのぶつかり方をしたのに、人間だったら本当に無傷でいられるのだろうか。ましてや、あのボールを投げたのはほかでもない自分だった。文化部の筋力とはいえ、必死で力を込めたあのボール。ミホはもう一度、ニコリとしている多田の顔をしっかりと凝視した。やはり、傷も青あざもなく、赤みも出ていない。眼鏡すらなんともなかった。

「学校も教室も、小さな惑星みたいなものだよね」

 唐突に、多田が言った。分かる、とミホは思った。みんな授業をしている最中で、廊下に出ているのは自分たちだけだ。

「こうして、外側から見るとそう思う」

「ぼくもちょうどそう思って、言ったんだ。珍しく、意見が合った」

 多田は笑った。もしかすると、そういうこともあるのかもしれない。ミホは静かに心の隅で思い始めた。だとしたら、多田はあえてこの見た目を選択したことになってしまうのだが。

「協力したら、なんでも叶えてくれるの?」

「お、その気になってくれたんだ。なんでも、とは言ってない。本当は言いたいところだけど。ぼくの星の技術でできることまでかな。たとえば、食べても太らない体に改造するとか、猫が寄ってきやすい体臭にするとか、視力を最高にするとか」

「体改造ばっかりじゃん」

「そうだね、特殊な周波を浴びせて改造する系」

「よく話であるような、人の記憶をいじったりとかはできないんだ」

「脳の構造の話になるから難しい。もしかすると、壊してしまうかもしれないから」

「それは怖いかも。じゃあ、まあ、考えておく」

「うん。そうして」

 そのままミホと多田は、歩いたり立ち止まったりして話し続けた。ゆっくりゆっくりと保健室に近づいていくようにした。

「さっきの、ボールがぶつかって痛いってぼくが言ったのは『真っ赤な嘘』になるのかな」

「本当に痛くなかったのなら、そうだね」

「赤いのか」

「『赤の他人』っていう言葉もあるし、嘘に限った色じゃないよ」

「なるほど。『赤の他人』は完全な他人って意味だから、『真っ赤な嘘』は完全に嘘って意味か。じゃあ、黒と白の色の嘘はどうなるんだろう」

「『黒い嘘』は、腹黒い、の黒みたいなことじゃないの。わざと悪意をもって、相手をだますためについた嘘ってかんじできくけどね」

「赤よりは悪い感じがするね」

「赤と黒は悪そう」

「『白い嘘』は?」

「それは私も、あんまり分からない」

「あんまり?」

 あいまいな言い方をしたミホに案の定、多田は切り込んでくる。こうして話していると見た目のオタクっぽさ以外は隙のないように感じるが、先ほどの試合中の変な走り方をふいに思い出して、ミホは笑いそうになってしまう。なんとかおさえこんで返事をした。

「子供のころに見た映画で使ってたのを覚えてるんだけど、それ以来一回も聞いたことない。その映画の記憶も定かじゃない」

「何か思い出せることはない?」

 実のところ、ミホはその映画の『白い嘘』をついた後のシーンだけは鮮明に覚えていた。映画のラストの、大事な場面だったからだ。

「そのシーンのとき主人公は、真っ白な嘘をはじめてついた。それが大人への入り口なんだ、って」

 ただ、主人公がどんな嘘をついたのか、ミホは思い出すことができない。

「普通の嘘は泥棒の入り口で、白い嘘は大人の入口になるのか」

「白い嘘は、他人のためにつく嘘だからって」

「必要性がある嘘?」

 多田は好奇心にいつもよりひらいた目でミホを見て言った。

「なんていうか、相手を思いやった嘘ってこと」

 ぎゅっと目をつむり、二回まばたきするかと思いきや、多田は目を開けずにそのまま考えているようだった。

「難しいな」

 首をかしげ、彼の黒いきのこ頭が左に傾いた。ミホとしてもこれ以上はうまく伝えることができそうになかった。じりじりと近づいていた保健室も、あとは目の前の階段を下るだけとなっていた。踊り場から見下ろす形で、すぐ先に保健室の扉があるのを視線で伝え、ミホは言う。

「こんなところでいい?」

「ああ、そうだね」

 多田は一応は納得したようだった。保健室に入って時計を見ると四時間目は終わりに近づいていて、ほとんどさぼったのと同じになってしまった。それでも久しぶりに部活以外でこんなに話をしていたことに気づいたミホは、悪い気分ではなかった。


 給食の時間の途中で保険室から戻ってきた多田に気づく前に、彼はミホの横に立っていた。給食係から配膳をもらいおえて班の自分の席に座っていたときだったので、ミホは気配に驚く。

「なんともなかった。だから気にしないで」

「あ、うん、そっか。良かった。本当ごめん」

「平気」

 多田はそれだけ言ってさっさと自分の分の給食をもらいにいってしまった。ガヤガヤした空間の中、まばらにクラスメイトたちの視線を感じた。わざわざなんともないと報告しに来たのは、多田なりのやさしさだったのかもしれない。今日の占いのカードは『塔』だったけど、結果的に、まだ崩壊も災難もないようにミホには思えてしまった。ボールを当てられたのは多田で、ミホではないし、そもそも多田は何ともなかった。つまり、今の時点では占いが当たっていないということだ。

 山口さんはミホの占いを本当に嘘だと思ったのだろうか。最後に残ってしまった白米だけをもくもくと噛みながら、山口さんのあの言葉を思い出してしまう。

 中一のときは、ミホはクラスにタロットカードを持っていき、頼まれた人みんなを占っていた。小学校のときと一緒で、みんなすごく喜んでくれた。最初は好きでやっていたことだった。ミホは自分の占いは絶対に当たると思っていたし、小六のクラスではずっとそう言われていたから、自信満々に結果を伝えた。

「今日先生に怒られるのは占いで出たからわかってた」とか「ペンを失くしたのはハンカチの色を言った通りにしなかったからだ」とか「そういう結果が出てたから、怪我しないようにねって昨日私言ったじゃん」だとか、そのうち何でもかんでも占いと結びつけるミホに少しずつ友達たちは離れていき、気が付いたらミホは一人きりになっていた。

 自分が陰で『嘘つき』と言われているのはなんとなく気づいていた。本当のことを言っていただけだけど、みんなが分からないのなら仕方がない。だから二年生になってからは一回も占いをしないようにしたし、タロットカードも持ってきていない。一年生のときとはクラスが変わり、ミホの占いのことを知らない人のほうが多くなったから、友達ができると思った。けれどなぜか、うまくいかなかった。

 ミホは理由が分からなかった。誰も自分の周りに来てくれないし、自分から話しかけることもできなかった。でも大丈夫、と毎日言い聞かせた。自分には占いの才能があるから。クラスのみんなは自分の価値が分からないだけだし、そういう人と友達になりたいなんて思わないから。それに、ミホには美術部があった。本当の自分のことを知っているのは部活のみんなだけだ。クラスの誰とも話さない毎日も、放課後、部活に行けばくだらないことで盛り上がって、時間を忘れて話して、一日の最後に楽しいことがあるから乗り越えられた。素の自分のままでいられるのは部員の前だけだし、面白くもない天気の話や、先生の悪口、誰と誰が付き合ったとか、そういう話しかしないような友達なんていらない。だから、最初のうちはあった、友達ができたらいいな、という気持ちは早いうちになくなって、クラスでのことはどうでもよくなった。そうやって、ミホは心を閉ざしたのだった。



 朝、校門の前につくまでミホはそわそわしていた。もしかしたら今日も多田がまちぶせしているかもしれないと思ったからだ。けれどそんなこともなく、なんだ、と思ってしまった自分に驚いた。そわそわしていたのは、もし多田が居たら嫌だからだし、見られた人に仲が良いと思われるのもごめんだから、という理由であるはずだった。

 今日の占いのカードは『死神』だった。白い馬に乗る骸骨の絵柄を見たとき、ミホはどきりとした。このカードは『方向転換』『区切り』といった意味をもつ。死ぬとか、不吉なことをあらわすわけではないのは分かっているのに、『死神』を引いたときはいつもちょっとだけびっくりしてしまうのだ。何かが終わって、始まろうとしている。

 教室につくと、暖房がきいていて鼻のてっぺんがじいんとしてくる。多田は席についてノートを書いていた。ミホが斜め前の自分の席についても気づく素振りがないので、むっとする。

「おはよう」

 ミホは多田にあいさつをした。してから、あっと思う。今までクラスの人に自分からあいさつをしたことなんてなかった。それなのに、今は部室に入ったときと同じみたいに自然と、お決まりみたいに言っていたのだ。

「おはよう」

 多田がぱっとミホを見て言った。勢いの余韻できのこ頭が後から揺れた。返ってくると思ったからだ。ミホは気が付く。返事が返ってくると思ったから、言えたのだ。

「何書いてるの」

 多田の手元を見てミホは言った。

「嘘まとめ」

「嘘まとめ?」

 一瞬だけ、自然に多田と会話できているのを不思議に感じた。でも多田の予想外の返事に、ミホは会話の内容のほうに気がいっていた。

「嘘の例を色別に分けてみてるんだ。だけど、白い嘘の具体例が一個も出てこない。もう全然、時間がないのに」

 前に言った、白い嘘を使っていた映画を探してみようか、と提案しようとしたが、時間がないという言葉にミホはひっかかる。

「時間がないって、どれくらいないの」

「今日の夜、六時まで」

「それが提出期限?」

「違う。それで帰らなくちゃいけない」

「えっ、うそっ」

 ミホは思わず声をあげた。嘘だ、という意味で言ったわけではなく、自然と口からでていた言葉だった。無意識のせりふを口に出した後に頭で理解してから、それが多田のやるいつもの嘘である可能性に気が付いた。しかし、

「今嘘をつく余裕はないんだ」

 と眉尻を下げて多田は否定した。だんだんとミホは不安になってくる。今日の占い結果である『死神』のカードが意味するのは、多田との別れのことなのだろうか。それとも、彼の長くついてきた嘘が終わりを迎えるということなのだろうか。ミホはそうだったらいいと思った。せっかく話せるようになったのに、多田が本当に宇宙人で、いなくなってしまったら。ミホが自分の占いを、外れてほしい、と願ったのは初めてのことだった。

「私が見破っちゃったせいなの?」

「まあ、そうともいうけど、理由はぼくが失格になったせいだよ」

 多田の返事で、ミホはやっぱり自分のせいだったのだと思い知り、けれどあの嘘さえなければこうして話をするようにもならなかったのだから、うまい言葉が見つからずうつむいた。代わりに別なことを言った。

「今、違うって言えば、白い嘘になったかもしれない」

「本当? しまった。でも、なるほどね。分かってきた。感覚的に」

 多田は頭にインプットするかのように、目だけで斜め上を向いた。そのとき、朝のチャイムが鳴って、先生が教室に入ってくる。黒縁眼鏡の奥の目がまばたきを二回した。

「そうだ、お願いは決まった?」

「まだ……」

「じゃあ放課後、また図書室のあそこで話そう。その時までに、必ず決めてね」


 こんな気持ちで放課後を待ったのは初めてことだった。今日の授業はほとんど頭に入っていなかったし、どうするか考えていたらあっという間に時間が経っていた。そもそもミホは多田の話を完全に信じているわけではなかった。信じたい気持ちも、嘘であってほしい気持ちもあった。だから、どっちでもいい、と思うようにした。どちらだったとしても自分が後悔しないように。

 もしも本当に願いを一つ、叶えてもらえるとしたら。ミホはついに決めた。『自分の占いを認めてもらう』だ。ミホの占いは当たるのだから、あとは周りが理解してくれればいい話だと思った。これで、ゆくゆくはミホが有名な占い師になって、将来も成功することができるだろう。気がかりなのは、これが多田の星の技術でできるのかどうかだった。

 ところが、帰りの会が終わってすぐに図書室で待っているのに、多田が来ない。五分過ぎ、十分過ぎ、だんだんと五時に近づいていく時計の針をミホは焦る気持ちで眺めていた。もしかして、自分はばかにされていたのかもしれない。最初から多田にからかわれていただけで、今ごろクラスのみんなに笑われているのかもしれないという不安がよぎる。それはだんだん膨らんでいって、根拠なんてないのに、ほとんど確信に思えてきてしまった。ミホは立ち合がる。ぎー、という椅子をひきずる音がむなしく響いた。そして静かに図書室を後にした。


「お疲れ様です」

 美術室の扉を引くと、もういつもの面々しか残っていなかった。窓の外は暗くなっていて、室内の景色が反射して見えた。ところどころ結露で白くなっている。おなじみの部員からあいさつが返ってきてやっと、ミホは安堵する。

 いつもの場所で四人で固まって、最近読んでいる漫画の話や、冬休みにあったことをだらだらと話したりした。それでもずっと、ミホの中の心残りは消えなかった。今日の六時に帰る、という多田の言葉を思いだす。きっと嘘だったのだと思いながらもちらちらと時計を見るのをやめられない。もうあと一時間もなかった。最初に多田と話した日、占いをしてから部室に帰ってきたときには、ここには来ないでほしいと思っていたのに、今は、多田は何か用事があって図書室に来られなかっただけで、すぐにでもここに来てくれればいいのに、と思っている自分がいた。いつもだったら部活に来ると時間を忘れて話し込んで、すぐに六時になってしまうのに、今日は時間の進みがおそろしく遅いように感じる。

 妹が冬休みの間にSNS仲間と初めて会ったという泉の話を聞いている最中、カツカツ、カツカツ、と聞き慣れない音がした。全員がビックリして音の出るほうを見ると、窓の外からこちらをのぞく影があった。ミホは立ち上がってすぐに駆け寄った。一階にある美術室のすぐ外にはまあまあの高さの植木があり、目隠しの役割になっている。その植木に半分体をつっこみながら、多田が手を伸ばしガラスをノックしていた。固いサッシの錠に力を込めてひねり、ミホは一気に窓を開ける。教室の中には冷たい風が吹き込んできた。

「アルミホさん。良かった」

 こんなに寒い中コートも着ていない多田は顔色ひとつ変えずに言った。

「やらなきゃいけないことがあって、遅くなっちゃった。悪かったよ」

 びゅう、と刺すように冷えた風が通って、多田のきのこ頭をかき揺らす。ミホは裏切られていなかったことに安心したのもつかの間、心配の気持ちが上回る。

「大丈夫なの?」

「いや、時間がない。お願いだけ聞いておかなきゃと思って。さあ、早く」

「本当にもう行っちゃうの、嘘だよね」

 多田は答えず、微笑んだ。ミホはそれで決心できた。多田は嘘をついていなかった。だから今、全部を信じることに決めた。たった一つのお願いを、自分の努力でどうにかできるかもしれないことに使うのはやめる。代わりに、それを多田への願いであり、ミホにしかできない最後の言葉にすることにした。

「何も叶えてもらわなくていい。代わりにまた会えるように、努力してよ。多田くんが」

 多田は驚いた顔をしたが、すぐに返事をした。

「分かった。また会えるさ」

 それから、ふっと笑って言った。

「今、白い嘘うまく使えてる?」

「台無しだよ」

「そうか。やっと理解できた。あ、それと」

 多田の体はもう向かおうとしていた。もう行かなければいけないのだろう。それでも彼はミホをじっと見つめ、眼鏡の奥で二回まばたきをしたあと、最後に伝える。

「きみの占いはよく当たるほうだ。これはぼくが言える事実だよ―――それじゃあね」

 とっさの返事に迷い戸惑うミホをよそに、多田は背中を見せて強い風の吹く中走っていってしまった。後ろ姿は校門のほうに去っていき、美術室の窓の画角からは見えなくなってしまった。不思議そうにしている部員たちをよそにミホはサッシに手をかけ身を乗り出す。多田の姿はもうどこにも見つからなかった。



 四月になっても、日当たりの良くない美術室はひんやりと澄んで冷たい。新学期となると校舎の暖房は止められてしまうので、足元が冷えた。窓を開けると外の空気のほうがあたたかい。この時期は新入生たちが何部に入るか決めるための仮入部期間だ。美術室の真ん中の机にはワインの瓶や先生が買ってきたりんご、わざと動きをつけてかけたテーブルクロスが置かれている。先ほどまで美術部のミホたちが囲んでデッサンをしていたものだ。五時になったので区切りをつけて、見学に来ていた一年生たちにうながした。ここからは各自好きなことをやる時間だと説明をする。絵は描いてもいいし、描かなくてもいい。もしもクラスに居場所のない子がいたら、ここにただ来てくれればいい。美術部の一部は、そういう場所になればいいとミホは思っている。

 多田は引っ越したことになったらしい。本当に引っ越しただけの可能性もあるような別れ方だった。けれどミホはもう疑っていない。

 多田がいなくなった次の朝、占いで出たカードは『世界』だった。大アルカナの中で一番いいカードといっても過言ではない。理想や目標に到達するという結果だったが、ミホには分かっていた。あの日、多田が教えてくれたから。私の占いは、よく当たる。でも、当たらないことだってある。特別な力なんてなかった。友達がいなくなった世界が、理想であるはずがないのだから。

「ミホちゃん、いますか?」

 数名の一年生が居残る中、美術室の戸が開かれた。ミホはその顔を見て驚く。山口さんだった。

「占い、お願いしたいんだけど」

 ミホは五時から六時までの間、頼まれたときだけここで占いをするようになっていた。美術部の部員たちも今では慣れっこで、占ってもらっている間の子をクロッキーにデッサンしたりもしている。

 山口さんとは三年生から同じクラスになったが、まだあれから話をしたことはなかった。中二のとき同じクラスだった人づてに、ミホが占いをしていることを聞いたのだろう。二年生の終わりごろ、掃除中に同じ班の子に話しかけてみてからは、ミホには少しずつ友達ができてきていた。それでも正直まだ、『嘘占い』と言っていた山口さんには苦手意識があった。ミホは無意識に身構えてしまうが、それを表に出さないように「いいよ」と言った。

 ミホは山口さんを、窓際の一番端っこの机に案内する。机の中に入れていた紺色の布をとりだし、その机にひいた。タロットカードの束を取り出し布の上に置くだけで簡易占い屋さんのようになる。

「何について? 質問は具体的なほうが結果も出しやすくなるよ。でも、あくまでも占いだから、それを分かってもらえるなら」

 ミホは机を挟んで山口さんと向かい合って座り、占う前に言うと決めた、お決まりの説明をする。山口さんはなにかを言いにくそうにしていたが、小さな声で話しだす。

「占ってもらう前に、言わなきゃいけないことがあるの」

「え?」

 ミホは出さないように心がけていた身構えが表に出てしまい、体を固くする。

「あなたの占い、嘘つきって言いふらしてごめん。告白する前に占ってもらった時、今はうまくいかないって言われて、占いなのに。しかもちゃんと振られちゃって、八つ当たりだった」

「私も、ちゃんと山口さんの悩みと向き合わないようなやり方をしてしまってたと思うから」

 山口さんを占った覚えはあったものの、あのころのミホは一人一人のことを細かく記憶していなかった。それくらい、自分がやりたいだけの占いをしていたのだ。

「言われたんだ、前に。ミホちゃんの陰口言ってたの、聞いてた子から。『嘘つきじゃなかったよ』って。二年の、冬ごろ。陸部の外練で校舎の周り走ってた時、風が強くて寒かったから。走ってる子一人ずつ確認して、わざわざ私のところまで言いに来てくれて。よく覚えてる」

 ミホは、あっ、と思った。あの日、彼が図書室に来なかった理由は。

「黒い眼鏡の、男の子? きのこみたいな頭の」

「そう、その子! 多田くんと、仲良かったの?」

「うん。友達」

 ミホは迷いなく答えていた。

「あっ、そっか。同じクラスだったもんね」

 山口さんが少しだけ安心したように見えた。多田のクラスまで知っているのは意外だった。

「私の好きだった人さ、多田くんだったんだ」

「ええっ」

 ミホは心底驚いて、大きな声が出てしまった。あの多田のことを好きだった人がいるなんて。しかも、ミホが多田と知り合うよりも前に、自分と同じクラスだった山口さんが、と思うと不思議だった。

「ふられたし、今はもう違うよ! でも、その、急にいなくなってたからさ。引っ越す前に何か、私のこと話してたりしたかなって……」

 山口さんは焦りながらも慎重に言葉を選んでいたが、それは分かりやすいものだった。ミホは思い出したふうにして「そういえば」とつぶやく。それから、

「多田くん、最後に山口さんにはあいさつしたかったって」

 と、嘘をついた。

 開いたままの窓からあたたかな風が、やさしくミホの髪を揺らす。部員たちと遠巻きに見ていたひとりの新入生が、二回きゅっとまばたきをした。

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