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【連載エッセー第22回】鹿と向き合う

 丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)
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 今、家の隣の小さな畑で、野菜を育てている。台所のイスに座ると、窓の向こうに、トマト、キュウリ、ナス、ダイズ、トウモロコシなどの葉が見える。ぜいたくな眺めだと思う。

 収穫にたどり着くためには、野菜を食べてしまう動物から畑を守らないといけない。近くの山に、鹿がすんでいる。一頭ずつ鹿を見分けることができないので、いったい何頭の鹿がいるのかわからないけれど、8頭くらいは一度に現れることがあるから、それ以上はいるのだろう。

 鹿は自由に暮らしている(ように見える)。家の庭でも畑でも、入れるところ、入りたいところがあれば、入っていく。そして、食べたいものを食べていく。我が家の庭にも、しょっちゅう鹿が来ていて、糞が残されている。夜、家の近くの茂みにライトを向けると、いくつもの目が赤く光ることがある。

 鹿から野菜を守ろうと思うと、畑を柵で囲わなければならない。電気柵がよく使われている。けれども、なるべく電気を使いたくない。プラスチックも使いたくない。できれば金属も減らしたい。そこで、竹の柵で畑を囲っているところに見学に行ったりしながら、自分たちなりの柵を考えた。

柵にプラスチックは使っていない

 畑の北側には、壁のように薪棚を置いた(薪を取り出すと穴があくのが難点だし、背丈に少し不安があるものの、新しく作る柵が短くてすむ)。柵の支柱には、家の横に積んであった廃材を使った。そして、柵の下のほうに、おかき屋さんから譲り受けた網を並べた。柵の上のほうは、近所で細い竹を切ってきて、それを組んだ。支柱、網、竹はシュロ縄で結んだ。最後に、入口に杉の枝を飾った。ちょっと見掛け倒しで、鹿が強く体当たりすれば壊れてしまいそうな気はするけれど、初めてにしては悪くない仕上がりだと思っている。

 考えているのは、柵で消極的に守るだけに留めるのかどうか、ということだ。積極的で攻撃的な守り方もあるのかもしれない。鹿を相手に狩猟をすることについて、思い悩んできた。

 鉄砲を使うつもりはない。やるとすれば、わな猟だ。しかし、「動物の権利」という観点からすると、狩猟は許容されない。また、そのことを脇に置いたとしても、狩猟は技術的に難しそうでもある。関係する手続や費用のことも気になる。ただ、食糧難に襲われたとき(けっこう現実味があると考えている)、わな猟ができれば役に立つかもしれない。

虫は柵では防げない

 そんなことを思う一方で、日常的に鹿を見ていると、なんだか鹿たちに愛着がわいてくる。「いっしょに暮らしている」という感覚になってくる。人間を警戒して一生懸命に逃げる姿を見ると、「がんばっているんだなあ」と思ったりもする。私や息子は、ときどき、「ピー、ピー」と鹿の声をまねて、鹿に話しかけている(不審そうに見つめられるだけで、返事はないけれど)。彼女らを捕まえて殺したいとは思わない。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

#里山 #里山暮らし #山里 #鹿