洞田貫晋一朗 『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』のレビュー

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2019年6月発売。森美術館のマーケティング・広報担当が書いた本です。

SNSの「中の人」が書いた書籍はそれほど多くないのですが、その中でもアカウントの「属人性」を否定していることが本書の大きな特徴の一つだと思います。

商品や場所が存在する企業アカウント担当者で、「自分センスないなぁ」と思っている人には参考になるんじゃないでしょうかw

2018年の国内展覧会の入場者数ランキングで1位と2位が森美術館(国立新美術館や東京国立博物館を抜いているということ)。SNSを中心としたプロモーションがそこに大きく貢献したことから、本書ではそのノウハウを紹介しています。

森美術館がいうSNS運用のポイント

SNS運用のポイントは、つぎの部分に尽きるのではないかと思います。

「(認知・フォロワーを得るには)画面の向こうにいるお客さんを想像し、
彼らが本当に必要としている情報を淡々と投稿
していく。これだけです。
「中の人」のキャラクターを作って面白くする必要はないと思っています。
あえていえば、必要なのは「ユーザーに対する思いやり」です(p.69)」

これは企業アカウントでも個人アカウントでも同じように大事な気がします。

また、やや細かいことになりますが、SNSは「秒の戦い」だから、その投稿で一番大事なことを1行目で伝えるのがいい、というのはなるほど意識すべきと感じました。

それから、目的の先にある「志」にフォロワーは集まる、と言います。

森美術館でいえば、「来館者を増やす」というのは目的で、「文化的な情報やアートの力で、自分の心や人生を少しでも豊かに」というようなものが志。これがあるとアカウント全体から「いい匂い」がしてくる、という表現は面白いなと思いました。

自分のアカウントの志はなにか?もし少し高いところに行っていい匂いを漂わせたいなら、ちょっと立ち止まって考える必要があるのかもしれません。

また、SNS担当をしていて、「生の声」が人を動かす、ということを体感したと書いています。メディアやテレビなどはマス認知は得意だけれども、人を動かすまで力は強くない。人を動かすのは、情報のその先にある「感動」、と書いているのが印象的でした(たしかに商品や展示会を「認知」したからそれを買う・行くわけではないよね)。

その他SNSについて

▼インスタグラム

インスタについては、「トップページの統一感や美観」が非常に重要、と言っています。他の本でもインスタは統一感が大事といっていたので、一般的にそういうものなのだろうと。

▼Facebook

Facebookについては、動画をのせると文章と写真だけよりも多くの人にリーチしやすいそうです。Facebookではいいねを押しているファンに、投稿すべてが表示されるわけでなく、独自のアルゴリズム(エッジランク)で表示されるのですが、動画が入った投稿はその「絞り」が緩くなるそう(=多くの人のタイムラインに表示される)。ただし、Facebookは頻繁に仕様が変わるので、要注意とのこと。

PRと商品企画の関係

森美術館では、マーケティングやPRを意識した企画展示はしていないそうです。

つまり、「売れるから」「入場者数が稼げるから」という理由で展示の企画がされているわけではなく、まず展示の質の高さを目指したうえで、それをマーケティング・広報しているとのこと。

「真剣なモノ作りや、表現の世界においては、マーケティングはあとから考えるほうが結果的によくなるものになると感じることがよくあります(p.32)」

これは日本の多くのメーカーにも似たようなところがあるのかなぁと感じたり。商材にもよりますが、アートがからむものはまずはプロダクトありき、という視点も重要なのでしょう。

フォロワー属性やエゴサーチについて

森美術館ではフォロワーの属性を調べて、投稿に反映させているそうです。

さらに森美術館ではツイッターでエゴサーチ(自分の名前を検索すること)も手動でよくやっており、生の声を集めることに時間を割いているそうです。それらのポジ・ネガ・中立の意見を集めて社内に共有しているとのこと。

エゴサと社内の情報共有についてはコストをかけずにすぐにできることなので、さっそくやってみるべきだと思いました。


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