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「仕事を守る」ということ

緊急事態に仕事を守るということは、政府などが最低限の生活を守るのと違い、緊急事態が終わったときに高い付加価値を社会にもたらす仕事がまたできるということだ。経済的な痛みだけではなく心理的痛みを癒すためにも、未来の需要をいまの資金繰りに回すエクイティ型のクラウド・ファンディングに期待する。

コロナ・ショック(新型コロナウイルス蔓延防止のための政府による行動制限で経済的なショックが起こったこと)は、文字通り非常事態である。人々を自由に行動させれば病気が蔓延し、死者が多数出るとなれば、公共の福祉のために人々の活動を制限(日本では自粛)することが適切になる。このようなことが起こるとは、フリーランサーだけでなく事業会社も想定しないし、準備できる範囲を超えている。だから政府は最低限の補償のために現金支給に踏み切る。

しかし、「仕事を守る」とは、非常事態後に再び、個々人の持つ能力やスキルを活かして十分に潤いのある生活をすることだろう。通常、仕事というのは政府が生み出すのでも自分の才覚が生み出すのでもなく、社会に需要がある、つまり求められることで存在する。人が求めるからこそ才覚と呼ばれ、自分がなんであれ役に立つわけではない。野球の能力があっても野球のない国では仕事に就けない。時代や経済構造が変わってなくなる仕事もたくさんあった。炭鉱の閉山などが分かりやすい例だろう。「仕事を守る」という発想は、通常の経済の仕組みの中では難しい。しかし、今回のコロナ・ショックのような緊急事態では、突然仕事が蒸発してしまい、フリーランサーなどの収入が目に見えて激減し、経済的なだけではなく心理的痛みが大きいことに注意が必要だ。「仕事を守る」ことは非常事態の政府の手に余ると考える。

政府の対策で不足する部分をクラウド・ファンディングで補完することが適切だ。自分たちが正常化すれば経済的に必要とされることを示すことにつながるからだ。例えば、ライブハウスが活動できなくなったので、正常化後に出演する権利を販売したり、観客に正常化条件でチケットを販売したりすることや、レストランが正常化後の食事チケットを多少の割引を持って販売することなどで資金調達をする。通常の販売との最大の違いは、正常化が来ない、あるいは正常化が遅れ倒産するなどの場合返済しないと約束をする点だ。金融の観点から、通常顧客の前払いは負債として引き当てるが、このような資金調達ならば「うまくいえば割安で高級な食事が獲得できる」権利と解釈でき、エクイティ型のクラウド・ファンディングと見ることができる(くれぐれも不特定多数に証券を売り出して出資法違反に問われないように)。応援する気持ちをうまく資金の動きにつなげることは、人々の好意を経済につなげる方法といえそうだ。このような方法は、緊急事態終息後の自分たちの仕事があることを自ら認知する一方で負債を背負うという感覚を減らし、心理的に自分の社会における「需要」を感じることができる。これが「仕事を守る」ということではないか。


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