日銀の金融政策決定会合を受けて

日銀は金融政策決定会合で追加緩和を決定しました。今回の決定のポイントは二つで、ひとつは政府の新型コロナウイルス感染対応に関わる財政政策拡大で予想される赤字国債の発行に備えて国債買い入れ上限を撤廃したこと、もうひとつはCP、社債など企業金融の直接の買い入れ額を増やした一方でマイナス金利の深堀は避けたことです。簡単に言うと、前者は緊急の財政拡大を支援すること、後者は銀行システムの安定を支援することといえそうです。どちらも前もって新聞などで観測記事が流れていたためサプライズはありません。しかし、後者は銀行に良いと考えられ、株式市場にポジティブな面があります。

まず、国債買い入れ上限の撤廃は、もともと買い入れ上限までかなり余裕がある中でアナウンスメント効果を狙ったといえそうです。長い目で見て金融正常化で買い入れを減らすときにも目途がないほうが良いという考え方もあるようです。しかし、今回の追加緩和では、政府が今後どのように大きな政策を出し国債発行額を増やしても日銀が買い入れに限界がないことを表明したという面が重要でしょう。

次に、CP・社債の買い入れ枠をそれぞれ1兆円から7.5兆円に拡大したことは、危機時の企業金融を直接日銀が支えることで、間接的に銀行システムをゆるぎなくしようとしていると考えます。CPや社債の取引は緊急時には売買が難しくなりがち(流動性低下)で、発行体は売上げ減でキャッシュフローが減少する中、オープン市場での資金の再調達も難しくなるという二重苦に襲われます。このような場合(CPや社債は大企業の発行が多いのですが)、発行体企業は銀行貸し出しに依存しようとすることになります。仮に銀行が融資を渋るとCPや社債の保有者のみならず融資をしている銀行自身も不良債権として引当金計上を迫られる恐れがあります。まず日銀が大企業、オープン市場での企業金融を安定させて、銀行には中小企業の資金繰りに注力してもらう必要があります。もちろん中小企業に関わる支援特別オペも銀行業務を支援します。また、マイナス金利はもともとインフレ目標達成のための政策で、現実的に預金金利をマイナスにできない銀行としては収益減少要因でした(製作の副作用とされていました)。つまり、マイナス金利の深堀りはこの緊急事態には似合わない政策で、これを行わないことも銀行支援的といえます。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58528280X20C20A4000000/

古い経済学の教科書とは異なり、低金利が常態化した後の「Withコロナ」という緊急事態における中央銀行の金融緩和の意味は、設備投資などの刺激ではなく、金融システムの安定を主眼とするものに変わったと考えていますが、今回の政策もその線に沿ったものと考えます。もともと金利が低いほど設備投資が増えるというには先進国の金利は低すぎ、インフレ期待が低い中で金利操作による景気調節の有効性が疑われてきていました。リーマン・ショック後の金融危機では、金融システムのほころびから実体経済を悪化させたと考えられたため、その後金融機関の健全性やクレジット市場を守ることが中央銀行の重要な仕事となってきました。今回のコロナ・ショックでは財政政策の重要性が高いことが明らかで、各国中央銀行は銀行システムを守り企業や政府の資金繰りの面倒を見る役割を重視していると考えます。

〔チーフ・ストラテジスト神山直樹のレポート等は下記URLからご覧いただけます〕

■KAMIYAMA Reports http://www.nikkoam.com/products/column/kamiyama-reports
■KAMIYAMA Seconds! ~90秒でマーケットニュースをズバリ解説 http://www.nikkoam.com/products/column/kamiyama-seconds
■「投資ってなんだ!?」 http://www.nikkoam.com/products/column/kamiyama-investment

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?