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自作小説

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#短編小説

かわる

僕は眠るのが嫌いだ。目を閉じるという行為がどうしようもなく嫌いだ。なぜ人は眠るために目を閉じる必要があるのだろうか。事件、事故、天災。危険はどこにでも、いくらでもある。それなのに、なぜ周囲の状況を見えなくする必要があるのか。これまで無事だったからといって、今日も無事とは限らない。寝ている間は何もわからないのだから。

瞼を開くと、いつもの景色がある。モニターとしてのテレビ。サーキュレーターを兼ねた

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それは、誰のためのアヤメ

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島を間違った。
そう思った。

港には楽しげに会話をし、写真を撮る老若男女で溢れている。島民たちと思われる人々は出店の呼び込みをしたり、歓迎を示すホワイトボードを掲げ、商売に忙しい。中には動画投稿者なのだろう、自分でカメラを回して、レポーターのようなことをしている若者もいた。
そして歌。乳幼児向け番組で流れそうな、軽快で妙に韻を踏んだ歌が島のスピーカーから大音量で繰り返し流され、その音楽の切れ

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君と一緒なら

君と一緒なら

「メアド、交換しよー!」

 そんなことを言われた時代もあったものだが、気がつけば、そのEメールは仕事以外では使うことがなくなり、アプリケーションソフトウェアでの短いやり取りが主流になった。仲の良い間柄ですらメールアドレスは知らないし、電話番号も知らない。このアプリを失うと、僕は一緒に人間関係の大半を失くすだろう。
 それは過去の清算に他ならず、「煩わしさを感じながらも最低限の人間関係を維持する」

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