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「胎内の雪」改訂版について


6年前に作った「胎内の雪」という本を改訂することにしました。

きっかけとなったのはプリンターの故障です。
新しいプリンターの新しいドライブの仕様上、今までのデータで同じように刷っても、刷り上がりが少し違ってしまう、という事態に陥りました。
胎内の雪は、生まれて初めて作った本。
思えば当時は製本のことなんて何一つ知らなかったし、この本をどのくらい作り続けてゆくのかとかも全く考えていなかった。
なので、当時使っていた機材でしか成立しないデータを使って、今までずっと作り続けてきた。

ありがたいことに、この本はほとんど手売りで200冊くらい買っていただいており、たぶんまだまだこれからも作り続けていく感じ。
きっとそのうちパソコンも買い替えるし、ひとりで本を作っていると、またどんなきっかけで仕様変更が必要になるかわからない。
だから、これをいい機会として一回データを整えよう、と思い立ったのでした。

改訂版をいつか出すかも、という気持ちは、実は前からうっすらあった。
初版への愛着はそれはそれはすごいあるけれど、一点だけ、「文字が小さい」というところだけ、後から気になっていた。
判型は絶対に文庫サイズが良かったので、大きめに刷ることはしたくなくて、けれど、年配の方だけでなく、色々な事情で小さい文字の本を避けている方に何人か会うことがあり、いつか調整したいと思っていた。

ページのサイズを変えずに文字サイズを変えることになると、一行あたりの文字数が変わってくる。
今回の改訂は主にそこで、文字のレイアウトを全体的に組み直したものです。文章の内容はほぼいじっていません。

しかし、レイアウトも改めて見直してみると、ちょっとした余白や改行の具合に、6年前の自分の意思が詰まっていて、それと向き合うこの作業には、思ったより時間がかかりました。
子供の頃、ノートに小説を書いたりしたことはあったけれど、それとは違う「ページ」というステージ。そこに初めて自分の文章を乗っけることに、当時の自分が大興奮していたのが各所各所から伝わってくる。
余白にこめられた沈黙やためらい。時間の経過、あるいは停止。改行にこめられた息継ぎや目線の切り替わり。たたみかけ。
今まで何度も読み返してきた作品だけれど、あれからいくつかの小説を書いてきて今、レイアウトの組み直し、という視点で読み返すと、わ、ここで改行しちゃう?フウー!みたいな謎興奮がありましたね。

そういったレイアウト面に関していえば、改訂版と初版とでは結構変わったところも多いです。
とはいえ、初版を買ってくださったみなさまにくれぐれも言っておきたいのは、初版は初版で素晴らしいです。胸を張って言えます。めちゃくちゃ気に入っていますし、本当はこっちも売り続けたいくらい。ややこしいし未練たらしいのでやりませんが。

というわけで、「胎内の雪」はちょっぴり文字が大きくなって生まれ変わりました。
あと、初版に比べて表紙がさらに白くなりました。具体的には、マーメイド紙の「白」から「スノーホワイト」に変わりました。 

左が初版。右が改訂版。


以前からお客様に「汚しそうで怖い」と言われていましたが、さらに汚れが目立つ表紙になりました。どうぞ汚してください。汚くなって古びていくのも本の美しいところ。
でも焼肉のタレとか、すごいイヤな汚れがついてしまった方はご連絡ください。表紙だけ綴じ直したりもできます。手作りなので。

改訂版「胎内の雪」の記念すべき一冊目が完成した時は、手の中にあるそれがじんわりと愛おしく、いちばんはじめ、初版の一冊目が完成した瞬間を思い出しました。あのとき、子供が産まれたみたいな気持ちだった。


改訂版は5月1日からオンラインショップで販売を開始します。
また、
5月19日の文学フリマ東京。
5/22〜5/28の丸の内丸善「ペンフェス」。
6/22・6/23のクリエーターズマーケット(名古屋)
にも持ってゆきます。
どうぞよろしくお願いします。

そしてそして、今まで初版を買って読んでくださっていたみなさま、本当にほんとうにありがとう。色んなことが、みなさまのおかげです。

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