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自民党総裁選:コバホークが一番古いタイプの政治家だ

岸田文雄首相の不出馬宣言で、大混戦の模様となってきた自民党総裁選。

「岸田首相はなぜ嫌われるか?」のシリーズに続いて、立候補を表明している政治家について、いろいろ書いてみたいと思う。

まずは、コバホークこと小林鷹之氏からいこう。49歳。米ハーバード大学・ケネディ行政大学院修了。ついに、自民党にも若く新しいリーダー候補が出現したと思うだろうか。

「石丸伸二現象」が東京都知事選で吹き荒れた。既存政治を完全に否定するスタンスで、蓮舫氏を上回る得票を得て2位となった。

しかし、自民党はしたたかだ。「裏金問題」という古い政治が批判されて、ほとんどの派閥が解体に追い込まれても、人材の宝庫である。「石丸伸二現象」が吹き荒れれば、即座に小林鷹之氏が出てくるのだ。

小林氏か、同じく総裁選に立候補している小泉進次郎氏という石丸氏と同年代が首相になれば、石丸氏の「存在感」が低下するといわれている。

だが、自民党のしたたかさは、小林氏が単純に石丸氏と同年代だというだけではない。小林氏は、若手ではあるが、実は今回総裁選に出馬表明している政治家の中で、最も「典型的な自民党政治家」であり、最も「古いタイプの政治家」であることが重要なのだ。

小林氏は、開成高校、東京大学卒の財務省出身だ。

よく、ハーバード大大学院修了が強調される。だが、財務省を辞めて留学したわけではない。財務省に在籍したまま、ある意味「人事異動」として留学した。

財務省など中央省庁のキャリア官僚は、その多くが2年間海外に留学できる。民間企業がMBAなどへの派遣留学を減らしているのとは対照的だ。

いろんな形で奨学金もでる。今はどうかわからないが、かつて官僚の海外留学は出張扱いとして、手当てが出たという話があった。小林氏の留学のファンディングソースがどうだったかは知らないが。

留学先がハーバードというのは、官僚の中でも小林氏が優秀であることを証明しているのかもしれないが、明らかに私費留学よりも有利である。

私が英国留学している時、ロンドンに留学中の官僚の講演があるからと、民間企業で駐在中の知人に誘われたことがあった。その時、「普通なら会えない人が来るんだよ」と言われた。

留学中の官僚は、現地の日本人ソサエティの中心的な立場として持ち上げられる。小林氏も米国で、いい立場で快適に留学していたと思われる。

要するに、小林氏は財務省の人間だ。

確かに、小林氏が主張するように「世襲議員」ではない。「普通の家庭」の出身だ。しかし、非世襲の大蔵省/財務省出身の政治家は、戦後の日本政治の主流派の1つだ。

大蔵省出身の戦後の首相は4人。池田勇人、福田赳夫、大平正芳、宮澤喜一。宮澤氏以外は非世襲だ。

その他、総理経験者以外でも愛知揆一、津島寿一、前尾繁三郎、橋本龍伍、村山達雄、金子一平、柿澤弘治、相沢英之、山下元利、大原一三ら、庶民階級から大蔵省を経て、戦後政治の中核を担った政治家たちが多数いる。

現在も、加藤勝信、片山さつき、古川元久、玉木雄一郎と与野党に大蔵省/財務省出身の政治家がいる。

その上、小林氏は、開成高校出身だ。

開成閥については、「なぜ岸田首相が嫌われたのか」で取り上げた。

17年に発足した「永霞会(えいかかい)」という開成高校の同窓組織には、開成出身の官僚や政治家約600人が参加。岸田氏を首相にすることを目的に活動し、首相就任後も、岸田氏の有力な人脈となっている。

その岸田氏が首相を退陣する。「永霞会」が同じ開成出身の小林氏を支援するのは当然だろう。

気になるのは、小林氏が選択的夫婦別姓について「この制度改正は、ほとんど国民に周知されてない部分がある」と発言したことだ。

世論調査で6割以上が制度改正に賛成し、経団連が導入を政府に提言しているものを、「周知されていない」というのは、小林氏が自分の周りの狭い範囲の、財務省、開成閥の「男社会」の論理でしか、社会をみれていないのではないかということだ。

そして、現代の政策課題に対する小林氏の言動をさらに窮屈にしているかもしれないことがある。

それは、旧統一教会との関係だ。

小林氏は、旧統一教会と関係があることが発覚し、退任した閣僚の1人だからだ。

もちろん、総裁選出馬表明の会見で、鈴木エイト氏からしつこく質問を受けていたが、小林氏はきっぱりと関係は絶ったと言っていた。

だが、選挙の支援を依頼していなくても、勝手に応援するのを止めることはできない。民主主義社会なのだから。

表面的にはともかく、政治行政に深く浸透した旧統一教会と本当に関係を絶てるのか、私は疑問に思う。

旧統一教会の関連団体・勝共連合は「ジェンダーフリーや過激な性教育の廃止」「選択的夫婦別姓反対」「男女共同参画社会基本法の改廃」を政治目標に掲げているのは、自明のことだ。

彼らが組織として応援しなくても、地元の支援者・運動員として個人で入り込んでいれば、彼らの影響力を排除できるのかということだ。

このように、今回の自民党総裁選で、突如颯爽と現れたようにみえる小林鷹之氏だが、その出現は不思議でもなんでもない。実際は「財務省」「開成閥」「旧統一教会」がガッチリと周りを固めているのだから。

今回の総裁選に出馬を表明している政治家たちは、それぞれ古さと新しさがある。だが、90年代以降の激動の政治の中で、それなりに戦ってきた人達が多い。

一方、若手の旗手のようにみえる小林鷹之氏が、実は新しさがほぼない、古さで固まっているようにみえる。実は一番「古い政治家」なのだと私は思う。

そういう政治家が出現してくることが、良くも悪くも自民党なのだよなと思う。








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