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石丸伸二の出現が意味するもの:デジタルイノベーショングループの出現なのか?

東京都知事選挙は、7月7日に投票日を迎える。小池百合子都知事が国政復帰するのか否かから始まり、過去最多の56人が立候補して選挙ポスター掲示板の数が足りなくなったこと、その掲示板にわいせつと疑われる写真や、候補者と直接関係のないポスターが多数貼られた問題、「学歴詐称VS二重国籍」と揶揄された小池百合子・東京都知事と蓮舫・元参院議員の「女の闘い」など、話題に事欠かない選挙戦となった。
 
特に、選挙戦を盛り上げることになったのは、石丸伸二・前安芸高田市長や人工知能(AI)エンジニア・安野貴博氏、作家・YouTuber・ひまそらあかね氏らの立候補だ。SNSを駆使した、新しい選挙運動スタイルや、既存の政治の常識を覆す選挙公約の打ち出し方で、当初の予想を超えて大健闘しているといえるだろう。
 
個人的に、特定の候補を支持するつもりはない。ただ、この現象は「変わった個性を持つ人」が立候補したという一過性のものだとは思わない。
 
私は、今後の政治の対立軸は、「ネオ55年体制」という保革対立が復古するものであるとは思わない。次第に「社会安定党VSデジタルイノベーショングループ」という、新しい対立軸が浮上してくると主張してきた。

 

 
言い換えれば、共産党から自民党までを含む「既存の政治」の外側に、新たな対立軸が現れてくるということだ。
 
石丸氏、安野氏、ひまそら氏らは、新しい政治勢力「デジタルイノベーショングループ」なのだろうか?私の過去稿と、彼らの言動を比べて検証してみたい。
 
私は、「デジタルイノベーショングループ」を以下の通り説明してきた。
 
『「市場での競争に勝ち抜いて富を得ようとする人たちの集団」である。具体的には、SNSで活動する個人、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどだ。
 
彼らは政治への関心が薄い。「勝ち組」を目指す人たちにとって、社会民主主義的な「格差是正」「富の再分配」は逆効果になるからだ。彼らの関心事は、日本のデジタル化やスーパーグローバリゼーションを進めることである。
 
そして彼らは、政治を動かす必要があると判断すれば、現政権を批判する政党を時と場合に応じて支持する。その支持政党が「野党」となる。』
 

 
いかがだろうか。今回、特に石丸氏に注目してみたい。京都大学経済学部卒、三菱UFJ銀行入行。為替アナリストとして、子会社・MUFGユニオンバンク初代ニューヨーク駐在として赴任。文句なしに「市場での競争に勝ち抜いて富を得ようとする勝ち組」である。
 
そんな人が、大企業を退社し、2020年7月、安芸高田市長に転身した。当時の市長が、衆院議員だった河井克行から現金60万円を受け取った責任で辞職し、市長選が行われた。副市長が立候補を表明し、無投票当選が予想される故郷の状況に危機感を感じ、石丸氏は立候補を決断して、当選した。
 
石丸氏は安芸高田市長を1期務めたが、徹底して議会と対立姿勢を貫いた。市議会で居眠りをした議員を「恥を知れ!恥を!」と批判した。それがSNSを通じて全国的に広がり、大きな話題となった。
 
石丸氏は、「議会を敵に回すとマズイ」「議会に従わないと、政策に対して一方的な反対を受けるだろう」「市長が議会に大人しく従っていれば、議会は政策を通してくれる」という考え方は極めて不健全と主張した。
 
地方自治体は、首長と議会議員をともに住民が選挙で選ぶ「二元代表制」という制度だ。市民の代表である市長と議会議員が、議論を重ねて自治体運営にあたることができる仕組みで、市長と議会が対立することは、本来のあるべき姿とも訴えた。安芸高田市長時代、馴れ合いの既存の政治を一貫して否定してきたということだ。


 
都知事選でも、完全な無党派を貫いてきた。例えば、地方主権を主張してきた日本維新の会は、石丸氏と政治的主張が似た部分があると思われたが、石丸氏はその支援をきっぱりと断ったという。
 
しかし、石丸氏は徹底的にSNSを駆使する戦略で、急激に支持を拡大している。そして、その支持はSNS上にとどまらず、街頭演説でもすさまじい聴衆を集める盛り上がりを見せている。そして、蓮舫氏を上回る得票を得る可能性も出ているという。
 
このように、石丸氏は「勝ち組」の中から、既存の政治を徹底的に否定する存在として登場した。だが、おそらく石丸氏は都知事選に勝利することはできないだろう。その意味で、少なくとも現時点では「野党」的な存在だ。
 
本来は自らのキャリアアップに関心がある人ではあるのだろう。しかし、キャリアアップの邪魔になりかねない古い既存の政治に危機感を感じ、それを変えるために勝ち組から政界に参入したといえる。その意味では、まさに「デジタルイノベーショングループ」の政治家が現れたといえるのではないか。
 
そして、もう1つ興味深い現象が起きている。私は「デジタルイノベーショングループ」の台頭に関して、以下のように指摘してきた。
 


 
『昨年放送されたインターネットテレビ番組『ABEMA Prime』で、実業家の堀江貴文氏が注目すべき発言をした。具体的な発言内容は以下の通りだ。
 
「(自民党に対抗できる勢力は)マネーと志と戦略があったら作れる」
「前明石市長の泉房穂さんは、次の総選挙で政権を取れるぐらいの発言をしている。(中略)彼のところに前澤友作のような人が1000億円を入れると言ったら政治は変わる」
「そこにインフルエンサーも絡んできたら、小選挙区も比例も一気に獲得して、政権交代する可能性はあると思う」
(※詳細は、23年12月1日付のニュースサイト『ABEMA TIMES』を参照した)
 
 堀江氏による一連の主張は示唆に富んでいる。
 
「デジタルイノベーショングループ」が後ろ盾となって、自分たちの思想に合う起業家や無所属の政治家などを擁立し、資金・集票力の両面で支援する。同グループのインフルエンサーが影響力を生かし、支援したい人物の認知度向上に一役買う。この動きが本当に実現すれば、自民党に取って代わる第三勢力が、既存の対立項の「外側」から突然やって来るかもしれない。』
 
 もちろん、これは私が言ったというより、堀江氏の主張に、なるほどと思っただけだ(笑)。
 
 都知事選で完全無党派を貫く石丸氏だが、勝手に応援する人たちが現れているのは興味深い。例えば、ドトールコーヒー創業者・鳥羽博道氏が石丸氏の支援者となっていることはよく知られている。
 
鳥羽氏は、石丸氏について以下の通り語っている。
 
「私はかねて国の少子化や財政破綻に危機感を感じていました。石丸さんを動画で知り、あっ、この人だと。都知事選に出るという話を聞き、“あなたこそ日本を変えられる人だ”と手紙を書いて、3週間ほど前、6月初旬に都内で会いました」
 
「僕はいくらでも献金していいと思ったのですが、友人から弁護士に相談しろと言われた。それで弁護士に聞いたら(個人献金は)150万円を超えては駄目だということでしたので、150万円だけ寄付しました。また以前、僕が副会長をやっていたニュービジネス協議会の人々が4000万円、私も1000万円、合計5000万円を法律に沿って貸付けてもいます」と語っている。
 
そして、鳥羽氏が、各種メディアが“選挙の神様”と持ち上げる選挙プランナーの藤川晋之助氏を石丸氏に紹介し、その藤川氏が選挙本部長を務める小田全宏氏に声をかけ、選挙態勢を整えたという。

 
また、前述の堀江氏や、ひろゆきしなど多くのインフルエンサーが、石丸氏にエールを送っている。
 
これは要するに、「デジタルイノベーショングループ」の政治家に、資金・集票力の両面で支援する。同グループのインフルエンサーが影響力を生かし、支援したい人物の認知度向上に一役買うという動きが起こってきたといえるのかもしれない。
 
この動きが本格化すれば、自民党に取って代わる第三勢力が、既存の対立項の「外側」から突然やって来ることは、リアリティを持ってくる。その意味で、むしろ都知事選の後の石丸氏の動向に注目だ。後に続く人も次々と出てくるかもしれない。本当に政治がダイナミックに動き地殻変動が起きるのは、むしろ都知事選の後なのかもしれない。

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