記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『GIRLFRIEND』

ミュージカル『GIRLFRIEND』を観劇した。
以下、ネタバレありの感想である。


作品概要

『GIRLFRIEND』はトッド・アーモンド氏によるオリジナルミュージカルで、93年のネブラスカ州を舞台として物語が繰り広げられる。
メインキャスト二人と四人のバックバンドという上演形態で、全員がほぼ出ずっぱりである。
英語版Wikipediaによると、このミュージカルは2010年にカリフォルニア州バークレーで初演されたそうだ。
作品のベースとなったスウィート氏のアルバム『GIRLFRIEND』は91年10月にリリースされた作品である。

観劇のきっかけ

私は2年ほど前にOFFICE CUEのイベントであるCDJ2022で、島太星さんと彼が所属しているNORDの楽曲のファンとなった。

島さんの歌唱力は大変素晴らしく、ライブで聴く度に頭がクラクラするほどの衝撃を受けている。
その歌唱力と表現力は正真正銘のギフトであり、彼の努力の賜物であると思っている。

今回も島さんの歌に圧倒され、打ちのめされ、感動した。
興奮冷めやらぬ中、Xにポストを連投するなどしてしまったが、要するに島さんが大変よかったというわけだ。

本稿では一度平静を取り戻し、ミュージカル全体を通した所感を振り返ることにしたい。

ミュージカル全体の感想

このミュージカルは主役二人がどれだけ歌で物語を引っ張っていけるかに成否がかかっているように感じた。
吉高さんと島さんはこの技術的難易度の高い役割を見事に演じ切った。
重要なことを明示的に描かない(後述するが、90年代初頭のアメリカという設定が内包するコンテクストがある)脚本から、登場人物たちの感情の機微を引き出し、ミュージカル全体のレベルを大幅に引き上げて傑作たらしめた吉高さんと島さんは素晴らしい俳優だ。

吉高マイクはいい意味で「いいとこの坊ちゃん」感が出ていたし、島ウィルはそのキャラクターとマッチした所作がよかった。

吉高マイクと島ウィルのお二人の音程がほとんど正確だったことにも賞賛の拍手を送りたい。
確かな技術に支えられた表現力の高い歌唱に感動して、中盤からは歌が入るたびに涙が止まらなかった。

高くて優しい吉高マイクの声と、太くて伸びやかな発声の島ウィルはハーモニーの相性も最高だった。
今回が初演のミュージカルだが、このコンビの再演をぜひとも見てみたいし、他の作品でもタッグを組んで欲しい。

セットと照明も素晴らしかった。
舞台はわりと抽象度が高く、想像の余地がかなりあった。
照明は星の演出が大変ロマンチックで、二人だけの世界を空間に現出させることに成功していたように思う。
彼らが二人で会うシーンに夜が多いのはおそらく意図的なものだ。
日のある時間帯に彼らが受けた仕打ちは目を背けたくなるほどに辛いものだった。

衣装替えが頻繁にあり、先述の通りメインキャストはほとんどずっと舞台にいるので、早替えが大変だったのではないかと思う。
90年代風のファッションの着こなしは成功していたように思うが、深い演出意図を読み取ることができなかったので有識者の意見を参考にしたい。

また、これは個人の好みの問題だが、バックバンドとメインキャストの歌の音量バランスがよくないように感じた。
バックバンドもしっかり歌うミュージカルであり、重要なピースのうちの一つではあるものの、バンドがコーラスをしている時はメインキャストの声を立たせた方が歌詞が聞き取りやすい思われる。

作中では二人の社会的立場の差が明確に描かれていたこともあり、心が通じ合った時点で、この先にある破局を予感して悲しくなった。
類似の設定が出てくるバンドデシネの『ブルーは熱い色』(映画版の『アデル、ブルーは熱い色』とはかなりストーリーが違う)やミュージカル『RENT』では主要人物の死の描写がある。
この作品では二人とも生きて再会できてよかった。

ストーリー全般について、私自身がRENT-headということもあり、同作品とは年代設定も近いため、時代背景や空気感を補いながら観た部分もあった。
パンフレットに90年代アメリカのLGBTQ+の人々が置かれた状況を解説する文章があるとより理解を深めることができたかもしれない。
ウィルの抱える葛藤やマイクを取り巻く人たちの反応を読み解くには、二人の「甘酸っぱいポップでロックな」要素だけではない背景を知る必要があるだろう。

93年以降のアメリカについては北丸雄二氏の著作である『愛と差別と友情とLGBTQ +:言葉で闘うアメリカの記録と内在する私たちの正体』に詳しい。

同書には80年から90年代アメリカのミュージカルの状況や、それ以降の日本の舞台演劇に関する言及もある。
読みきれていないページの方が多いので、この機会に改めて再読しようと思う。

私が愛してやまないジョナサン・ラーソン作の『RENT』はこの文脈を抜きにしては語れないし、おそらく『GIRLFRIEND』もその延長線上に位置付けられるだろう。

おわりに

CDJ2022でNORDの島さんの歌唱力に感銘を受けてから、私はこんなことを言っていた。

その後、NORDのライブにも行き、すっかり彼ら4人のファン(ノル友)になった。

仕事が立て込んでいた時期はいつもNORDの曲を聴いて、励まされていた。
特に『"ノル友"の唄』には苦しい時に力をもらっていた。

ファンになってから2年近く経過した。
その間、島さんは劇団千年王國の『ロミオとジュリエット』で初ミュージカル・初主演を努めていたのだが、残念ながら都合が合わず観に行くことができなかった。
今回のミュージカルは念願叶っての観劇だった。
ファンとして、こんなに嬉しいことはない。

ノル友として、また一人のミュージカルファンとして、ミュージカルという場が島さんにとってハッピーなキャリアのうちの一つになることを願っている。

作品名:Pop Rock Musical GIRLFRIEND
鑑賞日:2024/6/16 13:30〜
場所:日比谷シアタークリエ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?