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あばばばば(芥川龍之介 小説 独自解釈 1)

青空文庫 芥川龍之介「あばばばば」
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 芥川龍之介先生が書いた「あばばばば」というお話について解説したいと思います。自己流ながら解釈したものをお話したいと思います。

 この物語の主人公は堀川保吉(ほりかわ・やすきち)と言います。保吉が出てくる小説は「保吉もの」と呼ばれ、シリーズ化しています。彼は海軍の学校で英語を教えています。保吉は、海軍機関学校で実際に英語を教えていた芥川先生自身を表わしているようです。

 物語は、保吉が常連の店でマッチを買う場面から始まります。店番をしている若い男の事を「眇(すがめ)の男」と表現しています。目が斜視の男なのでしょう。痩せているとか太っているとか、他にも特徴があると思うのですが、「眇(すがめ)」と言う表現をするところから、芥川先生の性格を読み取れる気がしますよね。

 この後しばらく、この店の描写が続きます。海軍の学校へ行く途中にあるようで、赴任してから半年間通い続けているから、目を瞑っていても店の中の様子、どこに何があるかがわかると言っています。また、いつも仏頂面をしている店の主人の様子も細かく描写しています。もしかしたら、芥川先生がよく行っていた店に、こういう主人が実際にいたのかも知れませんね。

 そして、話は急に変わります。いつも変化のない店だったのに、ある初夏の朝に行ってみたら、「眇(すがめ)の主人」の代わりに、西洋髪に結った19歳くらいの女性が店番をしていたと言うんですね。明治16年に鹿鳴館が作られ、上流階級で洋服が着られるようになって髪型も西洋風になりますが、この時の女性がどんな髪型だったのか、気になりますね。

 保吉はこの女性が猫に似ていると言っています。そして、朝日のタバコをくれと頼むんですが、彼女は間違えて三笠のタバコを出しました。「これは朝日じゃない」と彼が言うと、彼女は「すいません」と言って赤い顔をします。この感情の変化が気に入ったようなんですね。その様子を「現代の娘ではなく、明治の文学結社・硯友社(けんゆうしゃ)趣味の娘だ」と表現しています。これはどういう意味なのか、今後、研究したい内容です。

 その後、保吉が店を訪れる度に、この女性はいつも店番をしています。西洋髪から丸髷(まるまげ)の髪型に変わっても接客は相変わらずで、品物を間違えては赤い顔をします。そんなおかみさんらしくない彼女に、保吉は好意を抱くようになります。

 ある日の午後、保吉はココアを買いにきます。バンホーテンはないかと尋ねますが、店の小僧が「Fry(フライ)しかない」と言います。保吉は「あそこにDroste(ドロステ)もあるじゃないか」と言いますが、小僧は「ココアはFry(フライ)しかない」と言います。

 保吉は「Fry(フライ)のココアには時々虫が湧いている」と言います。でも実際はそんな事実はなくて、バンホーテンを探させるための嘘でした。女性は懸命にバンホーテンを探しますが、なかなか見つからず途方にくれてしまいます。

 彼女が困っている様子を眺めるのが彼にとっては楽しいみたいで、しばらく見ていましたが可哀想に思って、最終的にはDroste(ドロステ)を買って帰ります。

 保吉はそれからもこの店にやってきては、女性とのやりとりを楽しんでいます。ある時彼女が、夫である店の主人に「ゼンマイ珈琲(コーヒー)ってあるんですか?」と尋ねている場面があります。「ゼンマイ珈琲(コーヒー)?玄米珈琲(コーヒー)の聞き間違いだろう」と主人が答えます。

 それが保吉にとっては、何とも微笑ましく感じたようです。その後彼女に「君、ニシンをくれたまえ」と言って、彼女が「え、ニシンを?」と驚いている様子を心の中で楽しんだりしています。

 それからしばらくして、彼女が店に出てこなくなりました。いつも「眇(すがめ)の主人」が店先にいるだけで、保吉はなんとも物足りなさを感じます。それでもまたしばらくすると、彼女がいない事が気にならなくなりました。

 時が流れて2月の末、店先に若い女性が赤ちゃんを抱えているのを発見します。彼女は店の前を歩きながら「あばばばばばば、ばあ!」と赤ちゃんをあやしています。そして保吉と目が合います。その時彼は、彼女が顔を赤らめるだろうと予想しますが、彼女は恥じらう事なく澄ましています。人前でも恥ずかしがる事なく「あばばばばばば、ばあ!」を繰り返しています。

 そんな彼女を眺めながら、彼はニヤニヤと笑いだします。母になった彼女は、以前のような「うぶな女性」ではありませんでした。図々しさを身に着けた強い女性になっていたのです。

 「女は弱し、されど母は強し」

 芥川先生は、子どもを守るために強くなった彼女の成長が微笑ましくて、この文章を書いたのかなあと思います。

芥川龍之介 小説 独自解釈 1
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