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悪魔(芥川龍之介 小説 独自解釈 1)

引用:青空文庫 芥川龍之介「悪魔」
芥川龍之介 悪魔 (aozora.gr.jp)

 芥川龍之介先生が書いた「悪魔」というお話について解説したいと思います。自己流ながら解釈したものをお話したいと思います。

 「伴天連《ばてれん》うるがん」と言う人が主人公です。この人は本名を、ニェッキ・ソルディ・オルガンティノと言います。1533年、イタリアで生まれたオルガンティノは、22歳でイエズス会に入会します。そして1570年、日本の熊本県天草にやってきます。1577年から30年にわたって京都地区での布教責任者を務めました。

 オルガンティノは1576年に、京都に「聖母被昇天教会」いわゆる「南蛮寺」を完成させます。日本語や日本の習慣を学び法華経を研究し、パンの代わりに米を食べお坊さんのような着物を着て日本に馴染もうとしていた事と、持ち前の明るい人柄が日本人に受けて、着任3年で1500人だった信者を15000人に増やしました。

 1587年、豊臣秀吉による禁教令が出されると、京都の南蛮寺は打ち壊されました。オルガンティノは小豆島に逃れた後、翌年には九州に向かい、1609年には長崎で76年の生涯を終えました。

 日本人が好きだった彼は「宇留岸伴天連(うるがん・ばてれん)」と呼ばれ、多くの日本人から慕われました。京都で30年過ごす中で、織田信長や豊臣秀吉ともよく交流していました。

 そんなうるがんには、他の人が見えないものまで見えたそうです。そして、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿まで、ありありと見えたそうです。彼は信長に、自分が京都の町で見た悪魔の様子を話しました。

 それは「人間の顔と、コウモリの翼と、山羊の脚とを備えた、奇怪な小さい動物である」と。この悪魔が「塔の九輪(くりん)の上で手を打って踊り、四つ足門の屋根の下で、日の光を恐れてうずくまる恐ろしい姿をたびたび見た」と。そしてある時は「山の法師の背にしがみついたり、女性の髪にぶら下っているのを見た」と。

 うるがんの話の中で最も興味深いのが「ある姫君の輿(こし)の上に、悪魔があぐらをかいていた」と言う話です。うるがんについて書かれた本の作者は、これは彼が遠回しに信長を諭(さと)しているものだと考えています。

 信長はその姫君を恋慕い、自分の意に従わせようとしました。ですが、姫君も姫君の両親も、信長の望みに応えたくありません。そこでうるがんは「姫君の為に悪魔に言葉を借りて、信長の暴挙をいさめたのだろう」と。この解釈が正解かどうかはわかりませんが、我々には関係のない話だと芥川先生は言っています。その時の話は以下の通りです。

 ある日の夕方、南蛮寺の門前で、その姫君の輿(こし)の上に一匹の悪魔が座っているのをうるがんは見ました。この悪魔はほかの悪魔とは違って、玉のように美しい顔でした。その悪魔は、何かを深く思い悩んでいるようです。

 両親と共に熱心なローマ・カトリックの信者である姫君が、悪魔に魅入られていると云う事は只事ではないと、うるがんは考えます。そこで彼は、輿の側へ近づき、尊い十字架の力によって難なく悪魔を捕まえると、南蛮寺の中へ連れていきます。

 キリストの絵の前には、蝋燭の火がくすぶりながら灯っています。その前で「何故、姫君の輿の上に乗っていたのか」追及します。すると悪魔はこう答えました。

「私はあの姫君を堕落させようと思いましたが、同時に堕落させたくないとも思いました。あの清らかな魂を見たら、地獄の火に汚(けが)す気にはなれません。しかしその一方で、堕落させたいと言う気持ちも沸いてきます。

 相反する気持ちで迷いながら、しみじみ私たちの運命を考えていました。そうでなかったら、あなたに捕まる前に逃げていたでしょう。私たちはいつも、堕落させたくないもの程、ますます堕落させたいのです。

 これ程不思議な悲しさが他にあるでしょうか。私はこの悲しさを味わう度に、昔見た天国のほがらかな光と、今見ている地獄の暗がりとが、私の小さな胸の中で一つになっているような気がします。どうかそういう私を憐れんで下さい。私は寂しくて仕方がありません」

 美しい顔をした悪魔は、こう言って涙を流しました。この悪魔のその後については明らかになっていません。それは我々には関係ないと芥川先生は言います。芥川先生はこの話を読み、ただこう呼びかけたい、と言っています。

 うるがんよ。悪魔と共に我々を憐れんでくれ。我々にもまた、それと同じような悲しさがある。

 私たちの心の中でも、天使と悪魔がいつも闘っています。そういう人間の弱さを、この作品を通して伝えたいのではないかと思いました。

芥川龍之介 小説 独自解釈 1
尾形了斎覚え書
悪魔
あばばばば



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