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「物の価値は自分が決めるもの」(ゼロの名言)

漫画『ゼロ THE MAN OF THE CREATION』1巻「チャンカイのマドンナ」


 物語の舞台はドイツ。”この世に存在するもの全てを複製することができる”ゼロに、97歳で余命幾ばくも無く、ベッドに横たえている父の依頼を伝えるため待っていた男性。

 しかし、彼は父の依頼の内容を知りませんでした。彼の父の名は「アルフレッド・ドッセナ」。現代のミケランジェロと称される20世紀最高の彫刻家です。ゼロは「アルフレッド・ドッセナ」という名前を聞いただけで「なるほど」とつぶやき、翌日その男性と大英博物館で会うことにしました。

 ゼロと男性が大英博物館にやってきました。そしてゼロは「私の推量が間違っていなければこれです」と言いました。

 南米ペルーにチャンカイ谷という砂漠地帯があります。そこで栄えたチャンカイ文化は、インカ文明よりも前だったため、「先インカ文化」とも呼ばれます。

 こから出土する土器は高値で取引されるのですが、ある一人の遺跡盗掘者が高貴な人間の墓で一体の土人形を見つけました。それが、後に「チャンカイのマドンナ」と名付けられ、ゼロたちの目の前にある土器でした。

 しかし、男性は「チャンカイのマドンナ」と父との関係がわかりませんでした。ゼロは言います。

「チャンカイの谷から『彫刻』は一切発見されていない。発見されているのはすべて『土器』です」

 ゼロは、「チャンカイのマドンナ」を初めて見たとき、「焼物ではない」と直感しました。これは土器に似せて作った彫刻だと。

「この土器に似せた彫刻の腕は見事です。いや完璧だ。これだけの彫刻の腕を持つ者は世界広しと言えど、アルフレッド・ドッセナしかいない」

 このことはゼロの心の中に留めていたのですが、依頼者がアルフレッド・ドッセナと聞き、確信に至ったのです。ゼロの推量では、ドッセナ氏がチャンカイの谷を旅したとき、偶然それを見つけてしまった。

 しかしそれは、残念ながら遺跡盗掘者によって叩き割られていたか、ゴミ同然に捨てられていたのだろうと。ドッセナ氏はそれを持ち帰り、朝な夕なに眺めていたのだろうと。

「そして魔がさした」

 つまり、アルフレッド・ドッセナの依頼は、自分が彫刻で作った「チャンカイのマドンナ」を、焼物で作った本物とすり替えてほしいというものでした。

 実は、ゼロの父である榊万作は陶芸家でしたが、美術商の日陰に騙されて須恵器の贋作を作ってしまい、芸術家としての名を汚されたことが原因で自殺したのです。「芸術家は命より名を惜しむ」と言って自らの命を絶った父とドッセナ氏の想いが重なり、痛いほどその心情がわかったのです。

 そしてゼロは、試行錯誤を繰り返しながらついに本物を完成させました。
ドッセナ氏はゼロに「あんたはなぜ、贋作家の道を選ばれた」と尋ねました。

 ゼロは答えます。

「…本物が見えるからです!」

 自らの手で「ニセモノ」を叩き割ったドッセナ氏は、満足そうに息を引き取りました。ドッセナ氏の息子は、一体百億で譲ってほしいと言われる作品群が置かれた場所にゼロを案内し、小切手に好きなだけ金額を書いてくださいと告げました。

 しかし、ゼロはお金ではなく、ドッセナ氏が行き詰ったときに作る不格好なネズミの像を報酬として選びました。ドッセナ氏「そんなもの一銭の価値もありませんよ。もし父の彫刻が欲しいのでしたらあなただけは特別です。この中からお選びください」

 しかしゼロはこう答えます。

「物の価値というものは人が決めるのではない。自分が決めるものなんだ」


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