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『アナと雪の女王2』感想:祖父の罪とは

アナ雪2』を観た。素晴らしかった。
作り手からの熱いメッセージを感じたので書き留めておく。
(ネタバレ含む)


本作では前作から3年後の物語。
なぜエルサだけが魔法を使えるのかその秘密が明かされていく。
いつからこの構想があったのだろうかと驚くほど、今作品もよくできている。

■悲しみの系譜

物語の冒頭はこうだ。
エルサとアナは幼少期、両親から祖父の代で起きた自国と魔法の森に住む民との対立を聞かされる。
祖父は魔法の森に住む民との友好のためにダムを作り、式典のが行われる。
だがその最中、両者で争いが起きた。森の民が突然攻撃してきたという。
以降、森の国とは断絶状態にある。なぜ、突然争いが起きたのか。
その場にいた父にも分からない。戦いの後、森は霧で覆われ誰も立ち入れなくなってしまった。

これが物語のはじまりである。
そして現在、国には地震などの自然災害による異変が起きていた。
異変は魔法の森に原因があると思われた。
原因を探りにエルサとアナは森に赴く…
そして過去自国と森の民との争いの真相を知るのである。

物語全体を通して、今回は物悲しい雰囲気が漂っている。
もちろん、アナは元気だし、オラフも面白いし、前作の雰囲気は踏襲している。
ただ、全体のトーンやメインのメロディーがなんとなく寂しい感じがする。
そこはかとなく死の気配が漂っている。
これはただの明るく単純な物語じゃない、全体としてそういったメッセージが受け取れる。

物語の確信は、祖父の犯した罪をエルサやアナが解き明かし、正していくという行動である。
森の民から不当な攻撃を受け始まったとされてきた過去の戦争は、実は祖父が未知の民への恐れより仕掛けたものだった。
祖父は森の民と魔法の力を恐れたのだ。
そして争いに怒った魔法の精霊たちに森ごと霧で封印されてしまったのである。

エルサの魔法はこの森に由来するもので
彼女の母は森の民だった。
この封印はエルサにしか解けない。
祖父が友好のためと偽って作ったダムを破壊し、祖父の罪を正していくことが森を解放し、国を救う唯一の方法である。

エルサとアナたちは、森に封印されていた森の民、祖父の部下たちと共に祖父の過ちを正していく。

■祖父の罪

では、祖父の罪とは一体なんだろうか。
もちろん、物語上では友好的な態度を取り、森の民に攻撃を仕掛けたことだ。ただ、それだけではない気がする。
この作品を現実世界とリンクさせると想像がつく。

本作『アナと雪の女王2』が説く祖父の罪とは、つまり祖父の代に作られたディズニー作品の事ではないか。
祖父の罪を私たちの代で正していく、時代の所為にしないで罪は罪と認め、身内の我々が変えていく。
これが今作の作り手のメッセージである。
それを体現したのが『アナ雪』であり、『アナ雪2』である。

かつてのディズニー作品も時代の流れに従い、現代では差別的、また文化の登用とされる作品を数多く制作してきた。
子どもの頃見て、特に覚えているのは『ピーターパン』である。
この作品ではネイティブアメリカンをステレオタイプ的に描いている。
他の作品でも今観ると差別的な表現であったり、誤った情報を再生産させる表現が見られたりする。これは時代の常識の変化と、作り手が誰に向けて作っていたかと受け取り手の変化によるものである。
表現において、そういう現象は国やジャンルに問わず起きている事だろう。
時代が違うから仕方ないとも言える。
ただ、『アナ雪2』のスタッフは時代が違うから、常識が違うからとこれを無かったことにはしなかったのである。

『アナ雪2』ではエンドクレジットにサーミの人々の名前が登場する。
アナ雪はラップランド地方に住むサーミ人の文化にインスパイアされており、きちんと使用許可と協力を仰いで制作されているのである。
かつての作品と違いステレオタイプで描くのではなく、リスペクトを持って描かれ作品に深みを与えている。
これからの私たちは、こういう作品作りをしていきます、という宣言がこの映画には込められているのである。

■プリンセスについて

思い返すと前作『アナ雪』でも、ディズニーが今まで描いてきたプリンセス像に対して新しい答えを提示していた。
つまり、「真実の愛」とは男女の愛だけではないということ。
『白雪姫』に始まり、『眠れる森の美女』『リトルマーメイド』など、姫がピンチに陥った際に最後の救済となるのが真実の愛、王子の愛である。
これは昔からのおとぎ話のセオリーで原作があるから仕方がないと言えるだろう。
ただ、この固定化された物語を『アナ雪』では打ちこわしている。
真実の愛は別に男女間の愛じゃなくてもいいじゃないかと。
『アナ雪』では姉妹間の愛だった。つまり家族愛。今後色んな愛の形が問題を解決していくだろう。
これからは色んな作品が見れますよというメッセージだ。
なんと力強いメッセージ。
作品自体もすばらしく、メッセージがうまく脚本に落とし込まれている。
さすがディズニーである。
自ら作った文化に捉われず、時代に合わせて新たな物語を生み出していく。
めちゃくちゃにかっこいい。

見逃している作品がたくさんあるのでこれから折を見て鑑賞したいと思う。

■文化の架け橋

私はこの作品で文化の架け橋を担うとはどういう事か初めて理解したように思う。映画では終盤、ダムを壊し、自国の危機も去った後エルサは森に残る。そしてアナが自国の王となる。
2人が二つの国を繋ぐ架け橋となり、それぞれが要なのである。
ああ、架け橋ってそういうことかと、この映画を観ると腑に落ちる。
物語を通して、歌や衣装、背景を通して、セリフや演出で、映画全体から伝わってくる。
この作品自体が文化の架け橋を担っており、アナやエルサの物語それ自体がまた文化の架け橋なのである。
かっこいい。
この作品を観ることができて本当によかった。
一流の人々が作った一流の作品に触れた。
何回も見直したい傑作である。

■アクションもすごい

今作品ではエルサのアクションが随所で観られるが、ディズニーのアニメ作品の中でも群を抜いてかっこいいシーンだと思う。
こんなに激しく戦う人物って他にいただろうか?ムーランでも戦っていたが、ここまで危機迫る迫力ではなかった気がする。男女問わず。
普通にアクション映画としても楽しめた。

(追記:調べてみると前作『アナ雪』ではサーミの文化へのリスペクトが足りないという非難もあったらしいですね。それもあって今回はちゃんと協力を仰いでいたという経緯もありそう)

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