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パリの風景よりもすてきな宝物

ここ数年は、実家に帰るといつも父が朝食を作ってくれる。申し訳ないと思いつつも甘えている。

父が作る味噌汁は、しいたけや人参、わかめなど、色々な食材が少しずつ入っている。朝、目覚めたばかりの体に染み渡る美味しさである。

子どもの頃から、父がたまに作る味噌汁が好きだった。母が作る味噌汁よりも具沢山なのが、何となくうれしかった。

私にとって、味噌汁はおふくろの味というよりもおやじの味といえるかもしれない。

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先日、NHKのテレビ番組『ボンジュール!辻仁成の秋のパリごはん』を見た。作家・ミュージシャンとして活躍する辻仁成さんは、高校生の息子さんを育てるシングルファーザーでもある。

パリの風景や、初めて聞いた辻仁成さんの歌声もすてきだったけれど、一番感動したのは、辻仁成さんが息子さんのためにキッチンで料理を作る姿。フランスの食材を使い、手際よく作る料理はプロ並みで本当に美味しそう!

とはいえこの番組は、芥川賞作家のおしゃれなパリごはんを紹介するだけの単純なものではない。海外でシングルフーァザーとして子育てをすることの難しさや苦悩もひしひしと伝わってくる。

辻仁成さんは「キッチンは親子の関係性を作る場所」だという。「和解の場所」でもあり「未来を作る場所」でもあるのだと。

大ゲンカをしたこともあるという息子さんが料理を作ってくれたときの様子は、見ているこちらまで心が温かくなった。

親が子を思う気持ち。子が親を思う気持ち。それはパリの美しい風景よりも尊い、すてきな宝物だ。

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私は父と同じように、毎朝味噌汁を作っている。私が作る料理はどれもごく普通のものだ。

それでも日々の料理が、中学生になり口数が減った息子との関係性に少しでもよい効果を与えていると思いたい。ポトフに香りづけとして入れるローリエくらいの、ささやかな効果でもいい。


私が子どもの頃、父は仕事が忙しく、一緒に遊んだ記憶はあまりない。父は家族というよりも他人に近い存在だった。味噌汁は父との数少ない思い出のひとつだ。

大人になるにつれ、父について理解できることが増えた。子どもの頃よりも、離れて暮らす今の方が仲良くやっている。


親子関係には複雑で繊細な感情が絡み合う。料理はときに、言葉ではどうしても伝え切れないムズカシイ感情を表現し、伝えるための手段になる。

そんなことを思いながら、今日も私はキッチンに立つ。明日の朝はハヤトウリの味噌汁を作ろう。

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