見出し画像

自己肯定感を高めて変化志向になる(どうぶつ別) 組織編

自己肯定感x変化志向で人と組織を眺めてみる、という記事を書いた。

自己肯定感と変化志向のマトリックスを作り、結論として、<あらゆる人と組織の課題は、自己肯定感の充足を軸に課題解決を図るべきである>と訴えた。

自己肯定感と変化志向


そのうえで、個人の場合はどうすべきか、というテーマで
自己肯定感を高めて変化志向になる(どうぶつ別) 個人編
という記事を書いた。アルマジロ、コウモリにおいて個人が何をするとよいか、という観点だ。

ここでは、ストーリーを作るということを方法にしながら、個人の場合は現状の経済活動への影響を許容できる、ということを組織との違いとし、対応を考えた。

組織の場合

当然、組織の場合は経済活動への影響を許容できないことになる。つまり現状のメカニズムをリセットせずに、自己肯定感を持ち前向きな組織に変えていく必要がある。これを無視して改革だけをやってしまうと、組織や経済面が崩壊してしまう恐れがある。実際にそういうケースは多い。曲がりなりにも組織が成立しているということは、そこに秩序があり、活動があるのだ。壊滅的な状況の組織であれば話は別だが、その場合はより即物的な対応が求められることが自明だろう。

一方で、こうした自己肯定感の変化には時間がかかる。改革やスピード感のある変化に価値があるとみなされがちな現在(もちろん、価値はある)、変化に伴うマイナスの影響を考慮すること自体が、改革に対する後ろ向きな姿勢や優柔不断さ、八方美人の表れであるととらわれがちである。

事実は逆であると言いたい。組織における変化への需要度合いを高めることなく改革を進めることは、自転車で言えば体を起こしたままペダルを漕ぐような行為だと思ってもらえばよい。空気抵抗は速度のおおよそ2乗に比例するから、速度が上がれば上がるほど空気の抵抗が増し、エネルギーを使って改革がとん挫してしまう。

したがって、組織を変えたい場合は特に自己肯定感の充足が重要である、という認識に立つことが重要だ。

組織をどうぶつに例えること

組織をどうぶつに例えることは少々乱暴ではある。個人の集合体である組織が、ある特定の性質だけを示すことはないからだ。だが、実は個人も同様であって、一様にライオン様だけを示し続ける個人もいない(いるかもしれないが、すごく少ない、あるいはその人を知り尽くしていない)。状況や環境によって様相が変わるのが人間であり、その意味で個人も組織も同じように「擬人化」してとらえることが可能である。

組織において、例えば「ライオンのような組織」という場合は、ライオン的な行動が支配的であり、ライオン的価値観が肯定され、特に公的な場で肯定的に語られる、というイメージだ。ただし、気を付けるべきは自己肯定感の低さは自明のものではないため、アルマジロ組織は表面上、ライオンのようにふるまったり、ライオン的価値観を是としている場合も多い。(例:改革を叫びながら全く旧態依然として変化の起きない硬直した伝統的企業等)

ティール組織とどうぶつ組織

さて、ここで組織の評価という観点からティール組織との関連を考えてみたい。ティール理論ではティールに至る組織の段階が5つあると言われているが、そこにアルマジロ組織やコウモリ組織、ゾウ組織やライオン組織はどう結びつくだろうか?あるいはまったく関係のない議論になるだろうか?

結論的には、ティール理論におけるOrange型組織(達成型組織)を詳細に考える際に、どうぶつ四象限がもっとも有効に機能するのではないかと考える。双方の適応関係を一覧にすると、おおざっぱではあるが以下のようになるのではないか。

ティールとどうぶつ


つまり、コウモリやアルマジロ型では、GreenやTealにはなりえず、またゾウやライオン型ではRedやAmberのままでいることもない。ただ、一般企業にもっとも多いといわれるOrangeの場合は、どのどうぶつ型でも成立しえる。逆に言うと、ティール理論で言うところのOrangeに該当すると思われる場合に、その解像度を上げるために使えるのではないだろうか。

さて、本題に入りたい。

アルマジロ:組織の場合

画像2

アルマジロは、「自己肯定感が低く、変化志向が弱い」。

アルマジロは自己防衛のために、外見上はプライドが高かったり、高慢に見えることが多い。組織の場合はそれが権威付けや業者に対する大仰な態度、「伝統」という言葉による変化の停止などに見られる。あるいは、「お客様が変化を望まない」といった言葉に現れることもある。しかし内実はお客さまにも評価されなくなりつつあることがわかっており、現状維持に汲々としているのだ。

こうした組織の場合においても、各構成員には目標が設定されており、その達成に対するプレッシャーは相応に強い。ただ、その目標自体が硬直的であったり、組織内部での政治力によって達成が見られるなど、会社が本来求めるべき目標でなくなっている場合が多い。例えば、売り上げ目標はあるが、その目標達成が難しい場合は後輩の売り上げをとってくることが容易だったりする。あるいは利益目標がないため、売り上げのために大幅な値引きをしたり、次の期初に在庫を戻すような売り方をしたりする。

ではこうした組織の自己肯定感を上げるにはどうすればよいのだろうか?

個人の場合は、

現状に重なっているプライドを、外面的な事実ではなく資質に置き換える

だった。

組織の場合はこれは難しい。組織の資質とは活動そのものが源泉だが、ここで問題になるのは活動自体が硬直化し、本来の自己評価とギャップのある活動になっているからだ。ここではむしろ、

現状、外部からまだ(相対的に)豊富にある評価や信頼を軸に、それをよりストレートに拡大再生産する目標を地道に立て直す

ことが近道になるだろう。つまり、プライドのよりどころとなっている伝統や今までの遺産である顧客からの信頼などを自己肯定感のよりどころにしつつ、それを正しい形に見直していく作業をする、ということだ。この作業にはどうやっても痛みを伴うが、それを抜きにいきなり目標を見直そうとすると、大きな抵抗にあう可能性が大きい。いわゆる抵抗勢力は、自己肯定感の低さの裏返しだと認識すべきだ。

ここでもストーリーが重要だ。我々は間違っている、硬直化している、ということを正面から問いかけるのではなく、我々が今まで顧客に提供してきた価値、過去起こしたイノベーションやオペレーショナルエクセレンスの数々を素直に認め、その遺産が存在することを認めたうえで、それを再度、顧客や関係者に訴え、価値を提供するにはどうするか、という議論をしていくべきだ。

コウモリ:組織の場合

画像3

コウモリは、「自己肯定感が低く、変化志向が強い」。

組織で言えば、常に流動的かつ高い目標を与えられ、活動的な、いわゆるブラック企業などがこれに該当する場合が多いだろう。組織の人員に対してネガティブにプレッシャーを与え続けることで成長を促す。

短期的な業績目標が達成でき、その仕組みを回し続けることで長期にわたって繁栄する企業もある。一方で、高い離職率と、低い多様性が必然的に生じるため、変化に弱かったり、トップが交代することで突然瓦解することもある。本質的な強さでないため、興奮剤を打って活動しているようなものだ。

コウモリが個人の場合は、

一度、頑張ることを手放す

が解だった。

組織の場合は、これができない。強いプレッシャーをなくせば、売り上げは達成できず、安全は確保できず、顧客満足は著しく落ちる。大概の場合、高い目標が設定されていることが多いので、その軸はぶらさずに、少しずつ目指すものを変えていくのだ。

具体的には、上長に対して部下のメンタル面を含めたケアを責任範囲として明確にすること、コンプライアンスやダイバーシティ自体を目指すべき目標に掲げ、一つずつ実現していくことである。

今までは売上だけ上げる組織や個人が素晴らしいという価値観だったものを、それだけではない全人格的な組織や個人が素晴らしいという目標に少しずつ変えていくのだ。

コウモリ組織の場合は、すでに何か達成できている事柄があると思われる(逆に、それが粉飾やコンプライアンス違反などで内実を伴わない場合は、組織の存続はほぼ絶望的である)。その事実を軸に、自己肯定感を満たす範囲をより広く、プレッシャーによらないものに変えていくのだ。

ストーリーとしては、やんちゃだった企業が、お客様に育てられる中で成熟し、社会的責任を負うようになっていく、といったところになるだろうか。トップの語るストーリーを少しずつ変えていく作業が必要で、これにはまずトップの気付きが必要となる。



おまけ:ゾウ組織

画像5

個人のゾウタイプはわかりやすいが、ゾウ組織はイメージがわきにくいかもしれない。端的には、少人数精鋭で高い収益性と完成度の高いビジネスモデルを持つ企業を考えるとわかりやすいだろう。たとえばグローバルに展開するヘッドハンティング会社や、デザイン事務所など。

そうした企業の場合は、変革の必要性が出てきた場合には適切に変革を行える可能性が高いと言えるだろう。たとえば世界的に有名なコンサルティング会社であるマッキンゼーは、コンサルティングによるフィービジネスから協調投資や企業価値向上から利益をシェアする形態にビジネスモデルを変え、収益性や社会的インパクトを大きく変えている。意図的にゾウからライオン的にふるまいを変えたと、外からは見える。

反面、ゾウ的組織がその安定的な立場に安住しているうちに組織的に硬直しアルマジロ型になってしまうと、変化に対応できなくなるリスクが高まる、ともいえるだろう。

まとめ

以上、組織の場合の対応方法を見てきた。

前段の議論として、組織の場合は経済的な状況を変えずに自己肯定感の充足をしなければならないということ、合わせて、一足飛びに無視してはならないことを説いた。

そのうえで、ティール組織との関連を考えてみた。オレンジ型組織を考える際に解像度を上げるのに有用である。

そうして各論に入った。アルマジロ組織の場合は、現状、外部からまだ(相対的に)豊富にある評価や信頼を軸に、それをよりストレートに拡大再生産する目標を地道に立て直すことが重要だ。それには、ある種過去の栄光を美しく振り返るようなストーリーが有用でもあるだろう。

コウモリ組織の場合は、自己肯定感を満たす範囲をより広く、プレッシャーによらないものに変えていくことが重要だ。新しい挑戦の範囲を、自己肯定感を充足できる領域に拡大していくのだ。

ゾウ組織は変化に対応できる、という点にも留意したい。またゾウ組織が気づいたらアルマジロにならないように、ということも、長く企業を存続させるためには重要な点になるだろう。


神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/