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【男はつらいもん】「嫌い」と伝えてこそ気づく「好き」がある
袋いらないです
今日もコンビニ店員にそう言っては、カード払いでグリーンラベルをサラッと買っていく。
山田さんとは、東京での俳優活動を始める際に、これからお世話になる事務所に入った時に出会った。
当時は芸能マネージャーというものは、いわゆるお助けマンのようなものだと思っており、会って早々、お互い身元素性も何もわからない状態で、どうすれば売れますかね、と素っ頓狂な質問をしたことから関係がスタートする。
事務所のタレント達を、特に男性をよく可愛がっているらしく、演技レッスンの後に、何人かを連れて、よくコンビニで梯子酒していると聞いた。
初めて梯子酒に先輩を通して参加させてもらってから、1ヶ月ほどは山田さんに目を合わせてもらうこともなかった。
先輩が山田さんを崇拝している理由もわからず、日に日に夜な夜な外で寒空に耐えながら、コンビニ前でグリーンラベルを飲むのが嫌になってきては、終電前にサラッと態度を変えて帰る女のように、家路に着いていた。
いつもと同じように飲んでいた下北沢で急にチャンスが来た。
先輩が、ジャンケンに負けたら、嫌いな人を言おう、というゲームを提案した。
今思うと、グループの中で浮いている自分に向けての明らかなパスでありメッセージであった。
ジャンケンに負けて、ハッキリと面と向かって、山田さんが嫌いです、と言えた。
しっかりとこちらを見るメガネ越しの目は何故か優しさで溢れていて、ようやく会話することができた瞬間は、発している言葉とは裏腹に気持ちは晴れ晴れとしていた。
今までは先輩を通して会っていた山田さんとも2人で会うことも多くなってきた。
とにかくフラフラになるまで酔っ払う山田さんは決まって最後には家に来る。
週に5日泊まっていくこともあり、酔って寝かせて放っておけばいいものを、介護している気分になって、これまた嫌気が差してきた。
畳の上に敷いた布団で寝小便をしては、朝に畳を壁に立てかけ、布団を担いでコインランドリーに行く山田さんを見送って、アルバイトに向かう。
山田さんが求めるものがなんなのか、イライラしては憧れてやってきた芸能界に必死に夢を見ていた。
そんな中、山田さんの仕事に着いていくと、普段会うことができないような人と東京の中心で会えることも多く、そして大概、山田さんの話が中心になり、たくさんの人から頼られている姿をずっと見てきた。
抜群に売れているタレントもいない弱小芸能事務所から見る光景にしては贅沢すぎて、山田さんの陰で数段レベルアップした気分になって、その中心で渦巻く戦い方、ものの見方を日々必死に身に染み込ませようとしていた。
仕事での背中、痩せたビールっ腹、交互に見ていくうちに、芸能界云々ではなくて人生そのもの、男として、山田さんを通して生き様が見えてきた。
銀座の高級クラブで、今日は大丈夫だから、と酔い潰れた山田さんの鞄からカードを抜くように大人達に言われは、財布に1000円しか入ってない自分が、山田さんのカードを使って何万円ものお会計をする。
昨日またやられたよー、とヘラヘラ笑っては横で笑うことはできず、どういう顔をしたらいいのかわからない瞬間は、一回二回ではなかった。
いつも横でキツいキツいと言う自分に、人生でキツいと思ったことは一回もないという山田さん。
俳優を諦めて、群馬県で期間工として働いている自分が、また書くことを通して、役者時代よりも役者役者しているようなクリエイティブな毎日を送れているのも、これまでと変わらず連絡をくれは、東京から近所にフラッと飲みに行くように群馬県に来てくれる山田さんのおかげであると言っても過言ではない。
神のように崇拝するわけでもないが、マネージャーとは呼びたくなくなった、山田さんに、男はつらいよ、という言葉があるとしたら、実際に言ってる人などおらず、日々の生き様から滲み出てくる言葉なのかもな、と感じている。
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