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そこに愛はあるのか?

2000年までのアマチュアは金銭はもちろんのこと、弓具の提供も無償で受けることはできませんでした。プロフェッショナルとみなされたのです。そんな中で、ヤマハから弓を貰っていた選手たちがいました。実はあれは、貰っていたのではなく借りていたのです。ヤマハはそれらの選手から借用書と報告書を受け取ることで、全ア連とも承諾のうえで弓を貸していました。日本を強化し、弓を実射テストし、宣伝するための「選手対策」です。
1976年モントリオールオリンピックで白塗りのホイットを使ったダレル・ペイスも$1 を支払ってそのリムを使っていました。

ところが、現在の競技者規定には、プロフェッショナルという言葉も金銭の授受や物質的便宜の禁止といった文言も出てきません。「自分の氏名、写真又は競技実績をアーチェリーに関する広告に使用すること。」のみが禁止されています。ということは、してくれるかは別にして、メーカーやショップがあなたに弓や道具を無償で提供しても、あるいは金銭を伴って渡しても問題はないわけです。問題はそれを広告に使ってはいけないということで、あなたが使っている弓具を見せびらかすのはまったく問題がありません。広告にはしなくても、メーカーやショップにとってこれほどいい宣伝はないからです。
では、日本でプロ宣言をした選手はいませんが、ならば、みんなアマチュアかというと、その言葉はもう死語となっています。日本のみんながアマフェッショナルというわけです。そして企業に所属している社員は、今も昔もプロチュアということになります。

では、タダなら何でも使うのかというとき、「そこに愛はあるのか?」という疑問が残ります。プロフェッショナルは、金さえ貰えば使う。金のためなら使うのがプロです。しかしそれでも点数を出してのプロです。当たる弓具、自分に合った弓具である必要はあります。そのうえでの金です。
ではアマフェッショナルはというと、残念なことにタダなら使う、貰えるなら使う、好きでないけれど使う、何でも使うという選手が多くいるのが現実です。しかし道具を使うアーチェリーでは本来、当る道具、自分に合った道具を使うことがプロ、アマを問わずに重要です。ところが近年、メーカーによる選手対策も変化し、ある意味バラマキが増えたのが事実です。そんな時、金の力に負けてタダなら、くれるなら何でも使うというアーチャーが増えています。
弓具を選ぶ時の一つの基準に、「トップアーチャーが使っているから」というのがあります。そんな時、我々は「そこに愛はあるのか?」を見極める必要があります。

そしてもう一つ、そんな時のために知っておく必要があります。白塗りのリムや誰々仕様とか誰々モデルと書かれていれば分かりやすいのですが、市販商品の外観をしながら、中身が違うモデルをプロなら使っているかもしれません。これはアーチェリーに限らず、他の競技においても使われる技です。同じロゴ、同じデザインであっても、プロが使っているものがショップで売っているものと同じとは限りません。

バルセロナではヤマハ「Eolla」を使う。

1992年バルセロナオリンピックでセバスチャン・フルートは、ヤマハ「Eolla」を使いゴールドメダルを手に入れます。そしてこの後も彼はヤマハを使い続けるのですが、1997年にヤマハは鍛造ハンドルの「Forged」を発売します。しかし彼は左射ちで、Eollaに左用ハンドルはあっても、Forgedにはありませんでした。理由は、鍛造のプレス型には多大なコストが掛かるため、ヤマハは左用を断念していたのです。にもかかわらず、フルートはこの後も仕様にない左用のForgedを使っています。
その秘密は名前はフォージドでも、中身はNCハンドルだったのです。Forged のような曲面を多用した形状を削り出すのは大変な作業で、コストも半端ではありませんでした。しかしそれでもプレス型に比べれば安いものです。

1997年ヤマハカップでは「Forged」を使う。
しかし中身はForgedではありません。

プロフェッショナルやプロチュアが、カタログに載っている商品と同じものを使っているとは限りません。そして高いお金を払ったからといって、彼らと同じものが手に入ると思うのも大きな勘違いです。彼らは商品や金銭を受け取っている広告塔です。大事なのは、「そこに愛はあるのか?」ということです。 

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