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世界チャンピオン

この写真を見て、誰だかわかるアーチャーは大したものです。

1967 Amersfoort  World Championship

1967年アマースフォルト世界選手権チャンピオン、レイ・ロジャース(USA)です。僕がアーチェリーを始めて、最初に知った世界チャンピオンです。とはいえ、アーチェリーを始めた1969年はバレーフォージ世界選手権で、チャンピオンはハーディ・ワード(USA)の時代でした。

1969 Vallet Forge  World Championship

ハーディ・ワードはアマースフォルトでは3位に甘んじているのですが、バレーフォージでレイは7位です。そしてジョン・ウイリアムス(USA)が、2位で1971年ヨーク世界選手権でチャンピオンとなります。

1971 York  World Championship

ところで、表が黒、裏が白のコインがあるとして、コイン投げをします。すると、表が出る確率は1/2、裏が出る確率も1/2です。
このコインを1枚投げ、表か裏かを記録する実験を1000回くり返したそうです。

最初の10回は、裏・表・裏・裏・裏・表・裏・裏・表・裏となり、表の割合は3/10、裏の割合は7/10となり、本来の確率(1/2)からかなりずれました。
では、最初の100回の結果はどうか。表が45回、裏が55回となり、確率1/2に近くなったことがわかります。そして1000回の結果は、表が508回、裏が492回で、割合を百分率であらわせば、表が50.8%、裏が49.2%と、本来の確率(50%)へとさらに近づいています。
このように、ある偶然のできごとをくり返した場合、その結果は本来の確率に近づいていき、これを「大数(たいすう)の法則」といい、確率論の基本的な法則だそうです。コインを無限回数投げれば、表と裏の確率はちょうど50%ずつになります。
また、この実験では、表か裏のどちらかが意外なほどに連続して出ることもあったようです。例えば43回目から50回目までは、裏が連続して8回出ました。744回から752回目にいたっては、表が9回連続出ました。
このとき、ある人は「9回もつづけて表が出たのだから、次は表は出にくいだろう」と考えるかもしれないし、別の人は「次も表が出やすいだろう」と考えるかもしれません。しかし、これらの考えはいずれも誤りで、表と裏の確率が1/2ずつのコインであれば、過去の結果に関係なく、いつでも1/2の確率で表(あるいは裏)が出る。コインやサイコロでは、過去の結果は未来に影響しないのです。
このように確率というものは、短絡的にみる(コインを投げる回数が少ない)と、本来の確率からかけはなれた結果が出て「あれる」ことがしばしばあようです。しかし長期的にみる(コインを投げる回数が多い)と、本来の確率に近い「落ち着いた」結果が出るため、確率論の恩恵を受けるには長期的な視点が必要ということになります。

どう思いますか? アーチェリー競技がサイコロやコイン投げと同じとはいいません。ましてや、アーチェリー競技は「当たった」と「外れた」の1/2の確率でもなければ、みんな10点を狙って10点に当てようとしているのですから、「まぐれ」や「確率」で単純に論ぜられないことは知っています。 
しかし、しかしです。1987年から始まった、それまでのシングルFITAやダブルFITAラウンドを改革する「グランドFITA」「ニューオリンピックラウンド」、そして現在にいたる「マッチ形式」の流れは、「あれる」ことをこの競技に持ち込んだことは事実です。言葉を変えれば、意外性であり、観ておもしろいハラハラドキドキの展開です。そして「288射」と「12射」なら12射が「あれる」のは当然です。それこそが確率です。逆に言えば、真のチャンピオン(的中精度と技術を競う意味において)を決めるルールは、限りなく無限回数に近づくべきであり、それが「4日間288本」だったはずです。
我々は部外者として競技を観る、楽しむのであれば「オリンピック」は最高の場面です。だからこそ、今のアーチェリー競技も他の競技にならって今日のルールへと変遷を遂げてきました。観ておもしろい、絵になる、音になる、そして金になる競技形態です。 しかし、その競技を行う当事者として、そのことがイコール最高のステイタスであるかといえば、そうではありません。
サッカーがオリンピックより上にワールドカップがあるように、陸上でも水泳でもテニスでも、そこでプレイすることが許される者にとっては、最高のステイタスはオリンピックのタイトルより「世界選手権」でのタイトルです。そしてそれらの多くの競技は、オリンピックと世界選手権をルール上区別しています。あくまでオリンピックは、観る側のルールであり、世界選手権はする側のルールです。
ところがアーチェリー競技は、その一線を引かずに試行錯誤がくり返されました。結果、今も世界選手権とオリンピックは基本的に同じルールです。新ルールとして1987年世界選手権で導入された「グランドFITA」は、翌1988年ソウルオリンピックのリハーサル大会でした。ダブルFITAラウンドは、オリンピックへの試行と同時に世界選手権からもオリンピックからも消えたのです。
そろそろ、やる側の人間として「真のチャンピオン」を見てみたいと思いませんか。世界チャンピオンを決める場面だけは、「あれる」ことを見たいのではなく、世界最高の技術と技とパフォーマンスを見たいと思いませんか。部外者ではなく、同じ競技を志す者として。


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