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チョコに包まれるイチゴ。(超短編小説#12)

新泉から道玄坂にぶつかる狭い通りを抜ける。
この一方通行を通るのにもずいぶん慣れた。


道玄坂にあたると右折して246号線に出る。
いつも日付けが変わる時間に通るこの通りも
今日は違う通りのように交通量が多い。


助手席で彼女はふいに

『エッチしてからごはん食べるのってなんか嬉しいね。』

と言った。

確かにいつも夜ごはんを食べたあとは
ほぼ決まった円山町のホテルに向かっていた。


唇を重ね
体を重ねて束ね
愛を確かめ
そしてシャワーでそれをより濃いものにする


台本など用意していないのに
この一連がとても心地よいものであると二人は知っていた。


いつもはこのシャワーで温まった体のまま
彼女を家に送り届ける。



でも今日はこのままレストランに向かう。
246号線沿のレストランはサラダバーがあって
なんだかよいことをしてる気に勝手になれた。


デザートにはチョコレートマウンテンがあり
好きな果物をそれに付けて食べることができた。


デートのデザートはエッチなのか。




そんな誰が決めたでもない定義を頭に浮かべ
尖った金属で刺したイチゴをチョコにからめていた。



ホテルの無機質なシーツはチョコレートで
イチゴは二人のように思えた。


無機質なチョコに包まれたさっきまでの二人は
とても甘くて噛むたびに甘みがまして
チョコと一緒に溶けていたように思う。




席に戻ってフルーツを食べる彼女を眺める。

普段家に送り届けてからは見れない
彼女の笑っている顔を
イチゴを咀嚼しながら見つめる。




またすぐ一緒にイチゴになって
チョコをまとって
溶けたくなるだろうなと思いながら

お皿についたチョコを尖った金属で剥がしていった。

かめがや ひろしです。いつも読んでいただきありがとうございます。いただいたサポートは、インプットのための小説やうどん、noteを書くときのコーヒーと甘いものにたいせつに使わせていただきます。