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シンデレラのあなたにガラスの靴を履かせたいぼく #超短編小説

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かめがやひろしの超短編小説マガジンです。
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#超短編

ぼくらの「ずっと待ってるから」はどこへ行ったのだろう(超短編小説#27)

土曜日の午前中に車のなかで 彼女は目に涙をためてぼくにこう言った。 「ずっと待ってるからね。」 想いをこめたということが 渡されたときから伝わってくる手紙には こう書かれていた。 「ずっと待ってるね。私がそうしたいし 身勝手でごめんね。」 日曜の午後の渋谷の喫茶店で ぼくは何食わぬ顔でこう言っていた。 「きっとずっとこのまま 待っているんだと思う。 結婚しても子どもが生まれても。」 どれも今ではその 「待っている」という状態は もうどこにもなくて お互いがお

彼女はすでにブラを外していた。(超短編小説#22)

時計を外して 顔を上げる。 そのまま90度の角度に 左向け左をすると 彼女はすでにブラを外していた。 「縛られるの好きじゃないんだ。」 そう口にした彼女の左手には 外したばかりの 黒いブラジャーが握られていた。 狩人に捕らえられた動物のように だらりと精気を失っている 黒いブラ。 薄暗くて狭いその空間で 二人が居直るときにだけ 音が空気に触れる。 その革張りソファーの鈍い音が 二人がここにいることを 唯一証明している。 彼女の唇がまたぼくの唇に触れる。 その

星の流れない空。(超短編小説#10)

ふと空を見上げたときに流れ星を観て それ以来なんとなく夜は空を見上げて帰るのが習慣になった。 けれど、あれからまだ1度も流れ星を観れていない。 あのときはなに流星群だったっけ。 思わぬところで手に入れたものは 意外と尊いもののようだ。 高校生のころ、中学の同級生から女の子を紹介された。 紹介された女の子とは別の高校に通っていたけれど、毎日メールをしていた。 もう顔も名前もはっきり覚えてないけれど 嘘のように毎日メールをしていた。 自分の通っていた高校は海の近くにあって

信号は青く続く。(超短編小説#9)

明るい時間に走るより、夜走る方が好きだ。 それもできるだけ遅めの方がいい。 冷え切った空気と、暗くてキレイな空に包まれながら、自分の足音と口から出る荒い呼吸が、さらに孤独を深めていく。 今日は青信号が多く、差し掛かった横断歩道で 止まることがない。 LINEがなかなか既読にならなかったり、 映画や食事に誘っても断られたり、 誘われてもその日仕事が入っていたり、 お気に入りの下着を身につけていってもホテルに誘われなかったり、 こんなに青信号が続いているのとは裏腹に、 日

ディスタンス。(超短編小説#8)

さすがにクリスマスの有楽町はすごい人ごみで、日比谷口の狭い改札を抜けるのにも一苦労だった。 まさかクリスマスに遅刻なんて、と梨絵は自分を呪ったが、 『レストランのカフェスペースでコーヒーを飲んでるから、ゆっくり来なよ。』 と隆が言ってくれたので、少し気が楽になった。 日比谷口の目の前にあるレストランに入ると、入り口すぐのスツールに座ってこちらに手を挙げる隆と目があった。 『いやーこのレストランの雰囲気がすごい好きでさ。』 と子どものように少しはしゃいだ