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弁護士をテーマにしたドラマっておもしろくて勉強になる!でも、有罪率99.9%って何か問題なの???

 最近弁護士をテーマにしたドラマ、多くないですか???
 しかもおもしろいもの多くないですか???
 松潤の「99.9」、常盤貴子さんの「グッド・ワイフ」、織田裕二さんの「スーツ」、堺雅人さんとガッキーの「リーガルハイ」などなど挙げればキリがないですよね!

 弁護士ドラマの一つの傾向

 その中では、一つの傾向として「刑事事件」を扱う弁護士が主人公のことが多かったように思います。多くの人がニュース等で触れる機会が多く、親しみやすいイメージがあるというのがその理由なのかもしれません。
 キムタクの「ヒーロー」は弁護士ではなく検察官の話ですが、これはまさに刑事事件にスポットを当てたドラマで、今もなお絶大な人気をほこっています。最近では、松潤の「99.9」は、民事事件が扱われた回もありましたが、メインはやはり刑事事件でした。

 松潤主演ドラマ「99.9」の名前の由来、皆さんはご存知ですか???

 この「99.9」という数値は、日本の刑事事件における有罪率です。戦後、この数字はほとんど変わっていないようです。
 この数字を見て皆さんはどう感じますか???「高すぎる!」とか「できレースか!!!」とか「刑事弁護人(※)っている意味なくない?」とか思います???
(※刑事事件において被告人の代理人に就任した弁護士のことを「刑事弁護人」と呼んだりします。刑事事件特有の呼び方で、民事事件では訴訟代理人とか原告(被告)代理人と呼び、被告弁護人とは言いません。ちなみに、民事事件では原告によって訴えられた人を「被告」と呼ぶのに対して、刑事事件で検察官によって裁判にかけられた人のことを「被告人」と呼びます。)

 有罪率99.9%はどのように導かれる???

 有罪率とは、刑事裁判にかけられた刑事事件のうち有罪になった割合を言います。ここで注意が必要なのは、分母です!分母の数値は「発生した事件数」や「警察が発生を把握した事件数」や「被疑者が特定された事件数(検挙数)」ではなく「刑事裁判にかけられた事件数」であるということです。
 結論を言ってしまえば、日本全国で発生して警察等の捜査当局が被疑者を特定した事件のうち、(主要犯罪(刑法犯)だけ見ても)刑事裁判が開始されるまでに至る事件数は、その約3割程度です。残りの約7割は刑事裁判にかけられる前段階で、有罪とならずに終了しているということです。刑事裁判にまで至ったある意味選抜された約3割の事件のうち、有罪になるのが99.9%というわけです。

 事件発生から有罪判決言渡しまでの流れ

 1 事件発生、警察等の捜査開始
 事件の発生を警察等が認知すると、警察等(薬物事犯の場合には厚生労働省地方厚生局の麻薬取締部等の特別な部門が捜査を開始することもあります。)による捜査が始まります。
 警察が事件の存在を認知する場面は様々で、通報や警察官のパトロール、自首等があります。もっとも、事件が発生しているのに誰も気づいていないということもあり、その場合にはそもそも捜査の始めようがありません。そのため、実際の事件発生数は正確には把握できません。
 また、関係者からの相談等で警察が認知したとしても、人的リソースを割いて今捜査を開始する必要まではないと判断されれば捜査は開始されません。これはよくストーカー殺人等でニュースになることが多いですね。

 2 捜査を経て被疑者(※)を特定し、取り調べる
 警察等による捜査の結果、被疑者が特定されると、被疑者を警察等に呼んで取り調べが行われます。
 被疑者が特定できないまま時間が過ぎると、捜査が打ち切られるか、ほそぼそと捜査が続けられ、最終的には「昭和・平成の未解決事件」となります。事件発生を捜査当局が把握した事件の内、被疑者が特定されるまでに至るのは50%くらいのようです。
(※ 被疑者とは、「犯人」ではなく、あくまでもこの時点で「犯人の可能性が高いと捜査当局が考えている人」に過ぎません。被疑者は刑事裁判が始まると「被告人」と呼ばれるようになりますが、刑事裁判の判決においてその被告人が犯人であると認定されると「犯人」となります。)

 3 被疑者の取り調べと検察官送致
 捜査を経て特定した被疑者を取り調べる段階では、既に客観的証拠は揃っていて、あとは被疑者の自白を得るだけということが多いように思います。
 逮捕されていない被疑者の場合には任意で呼び出して話を聞くというということも多いと思いますが、当局が逮捕に踏み切るのは、言い逃れができない程度に客観的証拠が揃ったタイミングです。誤認逮捕は警察の信頼を低下させる絶対に避けたい事項だからです(客観的証拠が揃っていないと裁判所が逮捕状を出してくれないという事情もあります。)。
 カルロス・ゴーンさんの逮捕も当局(この件では、事案の重大さから、警察ではなく東京地方検察庁の特別捜査部(通称「特捜」)が動きました。)が客観的証拠を掴んだ上でのものであった可能性が高いです(後で誤認逮捕だったということになったら大惨事ですので周到な準備が行われたことが伺われます。)。
 そして、警察等での捜査を終えると、次は、その被疑者は検察庁に送られます(検察官送致と言ったりします。)。検察官は、弁護士や裁判官と同じく司法試験に合格した法律の専門家で、被疑者を刑事裁判にかけるかかけないかを決める権限を持っています。「ヒーロー」でキムタクが検察官を演じたことで認知度はかなり上がったのではないでしょうか。検察官は警察が収集した証拠や被疑者の供述等を基に、ときには追加捜査を警察にお願いをしたりして被疑者を刑事裁判にかけるか否かを最終的に決定します。

 4 起訴するか否かの判断
 収集した証拠から判断してその被疑者が「犯人」である可能性が非常に高いと判断できる場合(刑事裁判で有罪判決を獲得できると確信を持てる場合、より正確に言うと「今ある証拠で、その被疑者が犯人であることが合理的な疑いを超えた程度に立証されている」と言える場合)、に限り、検察官は、その被疑者を刑事裁判にかける判断をします。
 そして、起訴するか否かの判断は、担当検察官一人で行うものではありません。検察官は官僚組織ですので(法務省の事務方のトップは事務次官ではなく、検察組織のトップである検事総長です。)、その検察庁のトップ(検事正)の決済を得て、その検察庁全体の判断として起訴するか否かを決めています。そして、無罪判決が出た場合には被告人への謝罪や補償の話が出てきますし、何より国民に対する検察庁の信頼の低下を招きかねないという考慮から、被疑者を裁判にかけるか否かの判断は非常に厳格に行われているのが実情のようです。

 5 刑事裁判の開始と判決
 ここまででもわかるように、法律の専門家である検察官が、何回にもわたるスクリーニングや決済を経て、検察庁として確実に有罪判決を得られると確信した被疑者だけを刑事裁判にかけているのですから、当然、高い有罪判決が出ることも多くなります。日本の有罪率が高いのは、今まで見てきた捜査の構造上当然のことなのです。

 6 有罪判決までの流れのまとめ
 ここまで見てくると、「あれ?」と気づくことはありませんか???そう!警察等が事件の発生を把握して被疑者を特定した事件数のうち、刑事裁判にまで至るケースというのは、予想以上に少ないということです!主要犯罪(刑法犯)の場合、だいたい3割くらいです!刑事裁判に至ればほぼ有罪になるとしても、刑事裁判にまで至っていないケースが7割ほどあるということです。
 警察等が事件発生を把握しても被疑者を特定できないケースもありますし、特定できても被害が軽微等の理由で捜査が開始されなかったり、検察官に送致されないケースもあります。検察官に送致されても不起訴処分や起訴猶予になるケースも相当数存在するのです。そもそも捜査当局が把握していない事件数もたくさんあると思います。
 仮にこの数字が、「警察が被疑者を特定した事件数の内99.9%が有罪になっている」ということを表していたとしたら大変な異常事態ですが、主要犯罪(刑法犯)だけで見ても、警察が被疑者を特定した事件数のうち有罪になるのはだいたい30%くらいなのです。

 有罪率99.9%って何か問題なの???

 こうしてみると、「有罪率99.9%って高すぎ!」という批判は、分母に置くべき数値に関する理解が不十分な批判である可能性があります(分母の数値を適切に把握した上でも「なお99.9%という有罪率は高い!」という批判は成り立つところですが、その議論はここで問題にしていこととは別の問題です。)。
 今回は有罪率という数値を題材にしてみましたが、より一般的にも、ある数値を分析・評価する際には、その数値が何を示しているのかということを適切に把握することが非常に重要であると思います。
 そうしないと議論が噛み合わず、ポイントを得た批判ができなくなってしまう可能性があるからです。

 刑事弁護人の役割

 ここまで見てきたことを前提にすると、「99.9」で松潤が演じた敏腕弁護士は無罪判決を連発していましたが、現実の刑事裁判で無罪判決が出ることは非常に稀ということになります。
 そうすると、「じゃあ被告人を刑事裁判で弁護する刑事弁護人って何のためにいるの???」とか「必要ないのでは???」という疑問が聞こえてきそうです。
 長くなってしまったので、私が考える「被疑者・被告人のために弁護士に期待される役割」については、次回お話することとします。

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