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短編小説 飲むpay

彼女はボアの付いたオシャレな雪靴にタイツ、黒のコートにマフラーを巻いてやってきた。小さな顔が更に小さく見えた。下は細い脚がコートから出ているだけで何を履いているかわからないが、何だか寒そうだ。

今日はこれらを全て剥ぎ取りたい…


「寒いね〜ポケット貸して」

そう言って彼女は僕のコートのポケットに手を入れてきた。
僕は黙ったままポケットに手を突っ込み、彼女と左手を繋いだ。彼女の体温が伝わってきた。

「で…飲んだ⁇」
「うん、昨日」
「試してみようよ」

二人は「スマホ不用!飲むpay対応」とのぼりが立っているコンビニに入った。
適当に飲み物をカゴに入れ、レジに向かった。

「飲むpayで」
「ではこちらに手を乗せてください」

(飲むpayでって、僕ちょっとカッコよくね?)
そんな事を考えながら僕は右手を認証台の上に置いた。





反応しねえ!!



ちょ、どゆこと?薬飲んでから12時間以上経ってるし銀行との紐づけも完璧…現金に変えるか?いやそれも何かカッコつかねぇなぁ(汗
注意事項も読んだし良くある質問も…

「良くある質問!」
「えっ⁈」

彼女のクエスチョンマークと同時に僕は繋いでいた左手を離し、認証台の上に置いた。



コリーーン



反応した!ッッッしゃあああ!!

僕は飲み物の入った袋を手に取り満足気にコンビニをあとにした。
歩きながら彼女は再び手を繋いできた。

「どうして左手だと通ったんだろうね?」

「う〜ん、愛…とか?」
「はぁ〜⁈何それ?」



飲むpay
202✖︎年、主にSNS事業を手がける株式会社〇〇と、大手製薬会社△△が業務提携し、AIを搭載したマイクロチップの開発に成功。自発的に血管内にマイクロチップを留まらせる事が可能になる。
同年、株式会社〇〇は、契約者のデータの入ったマイクロチップをカプセルに入れ、契約者に飲んでもらう事により従来のQRコードやバーコードの役割を果たすサービス「飲むpay」を発表。



「ねぇ、知ってる?」
「ん?」
「飲むpayってラブホの決済にも使えるらしいよ」
「ええ〜💕💕」



飲むpay 良くある質問
体温の変化は影響しますか?
 
指や身体が冷たい状態で認証をおこなった場合、血管の収縮により認証が通りにくくなる場合がございます。


おわり

(この物語はフィクションです)








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