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翻訳とAIと人間

最近、翻訳の仕事が増えています。とくに営業をしているわけでもないのですが、紹介や口コミでお仕事が飛び込んできます。

昨年の春に雑誌の編集と翻訳のお仕事をしました。私は編集者として、編集プロダクション会社との折衝と4名の翻訳者さんのまとめ、そして写真キャプションの翻訳と最終的な翻訳原稿の編集の担当です。

深く切り込んだ内容の濃い記事は、翻訳や編集をしていても楽しく、翻訳者さんからも「また、あのお仕事したいです」と言ってもらえました。

が〜〜〜、秋号ではお声がかからず、スルーされてしまいました。

「ギャラが高すぎたかしら? 翻訳で何か不具合があったかしら?」と、いろいろと思うところはあります。しかしながら、社員ではなく外注フリーランサーとしてのお仕事だったので「まあ、『フリーランスあるある』ね」と脳内処理していました。

ところが、今年2月に突然、大元のクライアント(編集プロダクションのクライアント)から、「編集プロダクションからも連絡が入ると思うけど、今年の春号の翻訳と編集をお願いね」と直接電話がありました。

仲介の編集プロダクションをすっ飛ばしての連絡はあり得ない状況です。おかしいなぁと思って、詳しく聞いてみると、秋号の翻訳が劣悪で、日本人担当者が「ありえない!」と激怒なさっているそう。

編集プロダクションには、昨年春号を私が担当したことを知っているクライアントから「編集と翻訳はこの人に」と私を指名する申し入れがあったそうです。

この時点で、私はもう嬉しくて嬉しくて。指名で編集と翻訳の仕事をいただけるというのは、編集者冥利に尽きるとしか言えません。

編集プロダクションから連絡があり、昨秋号の原稿も何本か見せてもらいました。

たしかに酷い……

詳細は省きますが、AI翻訳ツールをかなり使用しているのは明らかでした。

念願の戻ってきたお仕事、やや気合も入って、これまでの経緯を翻訳者さんに説明して翻訳を依頼すると、「え〜、やはりあのクライアントさんのお仕事はハードルが高いですね〜。私もAI翻訳ツールを使うことがありますけど、今回はやめた方がいいですか?」という返事がきました。

これには、私もびっくりしました。「ええっ、AI翻訳ツールを使っていたんですか?」と絶句。彼女の翻訳は、非常にこなれた日本語で、まさかAI翻訳ツールを使用しているとは思いもよりませんでした。

よく聞くと、AI翻訳ツールで翻訳したのちに、かなり修正を入れているとのこと。元々、彼女はライターさんとしても長年経験があって、文章力は確かです。

編集者として、かなりの文章を読んできているので、AI翻訳ツールを使った文章はかなりの確率で見破れると自負していました。でも、文章力のある人が修正を入れて日本語らしい日本語にすると見破れないものなのですね。

AIで翻訳者の仕事がなくなるなどという意見もありますが、現在のAI翻訳ツールのレベルは、まだまだプロの翻訳者のレベルには達していないようです。

クライアントのプロフィールや記事の背景、英語文章の雰囲気など、AIの理解を超える部分もありそうです。

「大体の内容がわかればいい」レベルなら、AI翻訳ツールは大変便利なツールだと思います。(外には出さないってことね)

ただ、ギャラをいただいて、人様に読んでいただく文章としては、まだまだなのではないかと思います。そこには、「ポストエディティング」と呼ばれる仕事をする「ポストエディター」が必要となるようです。

AIを活用することで、なくなる仕事があると思えば、新たにうまれる仕事もあるということですね。

「翻訳にAI翻訳ツールを使うな」とは言いませんが、納品前にもう一度読んでみてください。正しい日本語、日本語らしい日本語になっていますか?

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