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映画、演劇、書籍、音楽を中心にエンターテインメント全般についての発信を続けています。 …

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映画、演劇、書籍、音楽を中心にエンターテインメント全般についての発信を続けています。   鎌倉ペンクラブ幹事

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  • 源氏物語(再掲)

    源氏物語にかかる記事一覧です。再掲になります。

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    映画、演劇、書籍(文学)等、文化全般にわたるレビューを書いています。ランダムにマガジンにまとめてみました。

最近の記事

  • 固定された記事

再掲:のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて

一部からご要望賜りましたので、再掲させていただきます。 幻冬舎webコンテスト 第二回 エッセイ 優秀作受賞作です。 よろしければご一読ください。 https://kamakurah.wordpress.com/wp-content/uploads/2017/05/e7acacefbc92e59b9ee38080webe382b3e383b3e38386e382b9e38388e38080e382a8e38383e382bbe382a4e3808ce382a4e3838

    • 「新しい人」―未来のためにできること

      きっかけは大江健三郎の訃報だった。  還暦で教職を定年退職し、その後、縁あって東京から移り住んでいた鎌倉市で文化担当の責務を担っていた。  50歳を迎えた頃、自分自身には教員の経験・世界しかない、とその狭量を顧みて、しばらく呻吟していた。たまたまその時期募集のあったweb新聞文化欄担当に手を挙げ、映画・演劇等のレビュー執筆によって、未知の畠を耕し始めることになった。それ以降、活動範囲が思っていた以上に広がった。定年後の第二の人生として教職以外の道が拓けたのは、十年間ささ

      • 観るべきは河合優美のみ:映画『あんのこと』レビュー

         「かぞかぞ」や「不適切」での河合優美推しとしては、公開前情報を見聞した時点でパス決定の一本だったが、amazon primeでの配信が開始されたので鑑賞。  河合優美の演技力の確かさは、もはや周知の一般常識(!)。キネマ旬報9月号の特集「河合優実の時代はもう、はじまっていたんだ。」さえ遅いくらい。申し分のない本作の人物造形力に付言不要。本年度各映画賞で候補、受賞は確実だろう。しかし、である。  冒頭、事実に基づく物語である、とエキュスキューズされるが、監督・脚本の入江悠は何

        • 極上のスポーツエンターテイメント:映画『ボストン1947』レビュー

           実話に基づく予定調和、ステレオタイプな内容である。そうと分かって観続け、観終わった後の爽快感が素晴らしく、エンターテイメント映画としての全てを兼ね備えた仕上がり。朝鮮半島を占領した日本や、南北に分断して一時期支配していたアメリカへの悪意や怨念が強調されるわけではなく、歴史の一コマとして淡々と描かれている。  なんと言っても圧巻は、マラソンシーン。諸経緯乗り越えボストン行きを目指す母国での厳しいトレーニングパートとボストン入りした後のエピソードと優勝を期してのレースパートの、

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        再掲:のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて

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        • 源氏物語(再掲)
          15本
        • kamakurah_review
          24本

        記事

          「発願」ー柳田國男と大江健三郎

           「未曾有」の三文字をまさか体感することになろうとは思いもしなかった。  この一語を自分自身で意識的に使ったのは高校一年の夏だった。夏季課題でもあった読書感想文コンクールに応募すべく選択した井伏鱒二の『黒い雨』について作文用紙に文字を並べていた時、小学生の時の漢字練習で覚えたこの三文字を鉛筆で書いたことを明瞭に覚えている。近代の歴史において最も無残で非道な広島への原爆投下をめぐる傑作を評するにこそふさわしい単語を、のどかかに戦後を生きていつのまにか還暦を過ぎた人生のこの局面で

          「発願」ー柳田國男と大江健三郎

          憧れのウィーン楽友協会大ホール

           令和最初の夏、初めてウィーンに出かけた。プラハとの連泊で駆け足旅行ではあったが、永年の憧れを果たす欣喜雀躍たる時空体験だった。  いつの頃からだったろう、おそらくクラシック音楽への傾倒が始まった小学校高学年時代、年初にウィーン楽友協会大ホールでニュー・イヤー・コンサートが行われていることを知った。テレビ中継もあって、いつかこの演奏会の場のひとりとなって新春を寿ぎたい、それが大きな憧れとなった。  「小澤征爾、ウィーン・フィル音楽監督就任」という驚天動地の報が流れたのは、19

          憧れのウィーン楽友協会大ホール

          初めての指定席

           小学生のころディズニー映画『青きドナウ』に夢中になった。最初は『ピーターパン』の併映作品として観たようだが、実写映画のどこに魅かれたのだろう。また観たいと親にせがみ、二度、三度と映画館に通った。鉄道員の子の主人公がウィーン少年合唱団に入団し、団員同士の友情が主題となる内容だった。繰り返し観ることでシューベルト、ヨハン・シュトラウスが自然と身近なものとなり、この一本がわたしにとってのクラシック音楽鑑賞への入り口となった。  中学2年の時、大阪万博があり、そこでカラヤン、バーン

          初めての指定席

          鎌倉文士の嚆矢、実朝のこと

           実朝のことを考え続けている。  先年、恩師中西進先生を鎌倉市市制八十周年記念行事の特別講師として招聘した折のひと言がほどけてくれないことが大きい。本題前に先生は、鎌倉に来たからには右大臣源実朝に触れないわけにはいかない、と後鳥羽院への献呈歌として知られる「山はさけ海はあせなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも」を引かれ、実朝は『旧約聖書』を読んでいたかも知れないと言及された。『創世記』「出エジプト記」のモーセの「海割れ」のくだりとの親近性にかかる教示であった。  聴衆を驚嘆

          鎌倉文士の嚆矢、実朝のこと

          見上愛の魅力爆発:映画『不死身ラヴァーズ』レビュー

           松居大悟監督の新作という関心ではなく、大河ドラマ『光る君へ』の彰子を演じる見上愛の初主演作、劇場公開からの超速配信という興味で鑑賞。見上愛の大河ドラマでの役どころとは真逆のキャラクターデザイン、全力疾走の演技に感心するばかりの仕上がり。原作漫画未読ながら、松居監督が原作に惚れ込んで映画化した、という意欲は感取した。  生死を行き来するオチなのかと思いながらストーリーを追っていたが、ラストで主人公長谷部りの、のひたすらな一途さであることが明かされ、なるほどと納得したが、原作と

          見上愛の魅力爆発:映画『不死身ラヴァーズ』レビュー

          躍動感に脱帽!横山幸雄弾き振り「ベートーヴェンピアノ協奏曲コンサート」レビュー

           ここのところ当代一のベートーヴェン弾きとして称揚される横山幸雄が、東京芸術劇場コンサートホールで、ベートーヴェン・ピアノ協奏曲1、2、4番を弾き振りするコンサートを行なった。オーケストラは今回初共演となるというパシフィックフィルハーモニア東京。同オケは1990年に『東京で9番目のプロオーケストラ」(当時)として発足した東京ニューシティ管弦楽団を前進とする飯森範親が音楽監督を務める自主運営色の濃い楽団で、近年は東京芸術劇場を拠点に、ベートーヴェン、ブルックナーで実績を積んでい

          躍動感に脱帽!横山幸雄弾き振り「ベートーヴェンピアノ協奏曲コンサート」レビュー

          体験小説を読む至福:芥川賞松永K三蔵『バリ山行』レビュー

           今期芥川賞のもう一本、松永K三蔵の『バリ山行』は、ある意味、純文学の伝統を継承する正統作品で、おそらく多くの読者が読む喜びを体感する作品である。同時受賞の朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」を観念小説とするなら、本作は体験小説と呼称することができるだろう。個人的には、ヘミングウェイに通じる印象だった。  物語の序盤、詳細に語られる主人公で語り手である波多の現況、転職して間もない修繕工事会社の経営状況やその職場の人間関係などは、いささか退屈である。読みながら、この通俗性はなん

          体験小説を読む至福:芥川賞松永K三蔵『バリ山行』レビュー

          志高い失速作:芥川賞・朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」レビュー

           『文藝春秋』9月号掲載の今期芥川賞二作の内の一本、朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」は、久々に充実した読後感だった。  「胎児内胎児」と「結合双生児」という稀有な設定を通して、語り手をどうするか、という作家にあっての創作最大案件に、ひとつの型を提示したことで、本作は、こののち暫く独自の位置を保持し続けることになるだろう。  一人称でありながら、同時に三人称であるとの視座、さらに言えば、そのふたつが自由に行き来する融通無碍な結構はきわめて魅力的である。これまでなら、やや大雑

          志高い失速作:芥川賞・朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」レビュー

          清原果耶を観る一本:映画『青春18×2 君へと続く道』レビュー

           5月のGW公開で、藤井道人監督の抒情作、客足好調と聞き、気にかけているうちにNetflix8月配信の情報が届き、配信待ちしての鑑賞。社会派監督の抒情味満載作品と言うより、ただただ清原果耶を観るためだけの一本だった。  おそらくこれは評価二分かと思われるのだが、藤井道人監督自身による脚本を、個人的にはいささか難ありと評したい。台湾発の原作があるようだが未読。それゆえ正当でない採点かも知れないが、岩井俊二や井上雄彦にかくまで寄りかかっての展開、そして何より、終盤まで想い人の現況

          清原果耶を観る一本:映画『青春18×2 君へと続く道』レビュー

          選ばれなかった過去の手触り:映画「PAST LIVES」レビュー

           人生は選択の連続である。あの時ああしていれば、と詮無い思いが脳裏をよぎり小さな後悔をして、ため息をつく。長く人生を歩き続けていれば、誰しも何度かはそんな感慨に心揺らすことがあるはず。昨年の全米映画批評家協会賞で作品賞を受賞したアメリカ・韓国共同製作の映画『PAST LIVES /再会』は、普遍的とも称しうるわれわれのそうした内奥の襞を、繊細なタッチで描き出した秀作である。  作中の時間軸は3つ。12歳、24歳、36歳である。本作がメジャーデビューとなった脚本・監督のセリー

          選ばれなかった過去の手触り:映画「PAST LIVES」レビュー

          傑作であることを再認識:映画『落下の解剖学』レビュー

           昨年のカンヌ映画祭パルムドール、アカデミー賞脚本賞ほか名だたる映画賞で高評価を得たジュスティーヌ・トリエ監督・脚本、ザンドラ・ヒュラー主演の『落下の解剖学』が配信開始(unextなど)となり、あらためて詳細に鑑賞してみると、本作の映画ならでは仕上がりの素晴らしさに心底感歎せざるを得ない。  事実とフィクション、創作と日常、夫婦関係、親子関係という誰もが自分事にしうるテーマが複合的に法廷劇として描き出されれ展開は、往年のヒッチコックやビリー・ワイルダーをも彷彿とさせる上質さで

          傑作であることを再認識:映画『落下の解剖学』レビュー

          足立紳版『スタンド・バイ・ミー』、映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』レビュー

           足立紳版『スタンド・バイ・ミー』、そのひと言に尽きる一本。既視感満載、内実ステレオタイプ、結末予定調和の仕上がりながら、子どもたちの生硬とさえ評したくなる立ち居振る舞いが、かえってリアルを生み出し、深く胸に沁みいって来る。原作の『弱虫日記』を足立紳自身で映画の尺に納めるべく色付けして、説得力豊かにまとめている。 自己嫌悪に苦しむ語り手である主人公と、彼の牽引役となり仲間たちの中心を担う友人の普通の子になりたいとの切望とが鮮やかに対比され、リーダーの涙の心情吐露は、原作同様、

          足立紳版『スタンド・バイ・ミー』、映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』レビュー