マガジンのカバー画像

中編小説

4
3000~10000字の中編小説を収めています。
運営しているクリエイター

#小説

『線の引き方』

『線の引き方』


 ぼくは、人生十年目にして早くも警察に追われている。誘拐する側される側。不幸なのはどっちだろう。

 ダンボール内の捨て猫のようにこちらを見つめる瞳。アルカイックな微笑みが張り付いた顔。そして、弱い握力で強く握りしめてくる小さな手。

「おなかすいた。豆乳ヨーグルト食べたい」
 さっきから五度目の発言。

 とにかく遠くへ──。無心で歩いてきたが、落ち着きを取り戻した幼稚園児は、空腹を思い出し

もっとみる
『僕たちは嘘をついている。』

『僕たちは嘘をついている。』

 嘘が僕を作っている。言ってしまえば、僕は嘘だ。
 親子ほど離れている僕たちは、まぁうまくやっている。過去は気にしないし、嘘をつくのは、簡単だ。

 夕方チャイムが鳴り響く。このチャイムって全国共通なのかな。メランコリックなメロディをかき消す喚き声が聞こえたので、読んでいたカフカの「変身」から視線を上げた。小学校の教室にいたような気がする数名が、滑り台やらブランコやら鉄棒やらで駆け回って遊んでいる

もっとみる