【軽羹読書録】人間失格
ご機嫌よう。kalkanです。
今回は太宰治の『人間失格』を読了しました。
私の記憶だと中学か高校のときに、当時ジャンプに連載していた漫画家さんたちが表紙絵を描いたシリーズが角川から出ていて、それを手にとって読んだことがあります。
それから15年ほど経った今、改めて感じたこと、そして更に太宰に対する熱が上がってしまったこと← などを書いていけたらなと思います。
それでは今回もお付き合いください。
【あらすじ】
【読書感想録】
この作品を書き上げた一か月後、太宰は入水自殺をしたという。
太宰には当時3人の女性がおり、まず一人は正妻である美知子。前回読書録を綴った『ヴィヨンの妻』その人。
二人目は『斜陽』のモデルとなった静子。彼女から受け取った手紙がモチーフとなって書かれたのが『斜陽』。
そして三人目が太宰と共に身を投げた冨栄。彼女だけ、太宰の子供を授かることが出来なかった。
『斜陽』が空前のヒット作となり、更に酒に溺れるようになった太宰に、「不倫なんかよりも、自分の贓物を引きずり出したような作品を書け。」と、同じく堕落した生活をしていた盟友、坂口安吾に諭され、そして書き上げたのが『人間失格』というわけなのだけれど、なるほどそういわれてみれば太宰のドロドロとした中身がすべて吐き出された作品であることに納得がいく。
この作品の面白いところは、【神の目】があるというところ。
『人間失格』は、
①はしがき
②第一の手記
③第二の手記
④第三の手記
⑤あとがき
の五部構成から出来ているわけだけれど、①と⑤の書き手と②から④の書き手は異なっている。
この『人間失格』の作者が①と⑤。その作者が②から④の手記を受け取って『人間失格』を書き上げた、という設定なわけだが、あくまでそれは設定であり、本当は①~⑤のすべてが作者であり「太宰治」そのものである。
②から④に関しては、大庭葉蔵という人間の幼少期から現在にいたる『恥の多い生涯』についての記述であり、つまりは太宰の人生録。これを①のはしがきと⑤のあとがきで俯瞰し、つまり【神の目】目線で太宰自身が見つめている。
まさに、坂口安吾のいうところの「贓物を引きずり出した作品」にふさわしい書き方。しかもそれを引きずり出したあとに自分で隅から隅まで見つめているから非常にグロテスク。絶対に逃げられない。逃げることは叶わない。
だけど逃げるつもりが無かったからこそ、自分の内にあるすべてを吐き出し、吐き出した暁には身を投げたのだろう。後悔しないように。
もともと希死念慮が強く、生きるということに対して浅薄なタイプだったが、自分の内にあるものを吐き出すのが苦手で道化になっていた太宰にとって、自分のことを隅から隅まで見つめて、それをアウトプットする作業は地獄のように辛かったのではないだろうか。
そう考えれば考えるほど、『人間失格』の執筆を決めた覚悟の大きさは計り知れない。酒が入っていたとはいえ、毎度のこととは言え、その一か月後に富栄と心中した気持ちもわかる気がする。
そして私は女性3人に着目する。
『ヴィヨンの妻』執筆の際は正妻である美知子が。
大ヒットを生んだ『斜陽』執筆の際は美しい愛人、静子が。
そしてその集大成ともいえる、自分の人生を書き綴った『人間失格』執筆の際は、最後の愛人である富栄が。
それぞれ実在した女性たちが、常に太宰の作品の傍らにいたわけだけれど、『人間失格』において、実際の3人とはタイプも何も違うのはわざとなのだろうか。
あくまでもフィクションであることを助長するためのものなのか。
それとも「こうあってほしかった」と思い描いた太宰が生んだ女性像なのか。
最後のマダムの台詞は、「そう思われていたかった」という、太宰の思いだったのだろうか。
そして、この作品の主人公はあくまで「大庭葉蔵」であり、「太宰治」及び「津島修治」ではないのだけれど、やはり私は「津島修治」の独白として最初から最後まで読んでしまった。
仕方ない。太宰沼にハマっているのだもの。
学生時代に読んだときには「わかるわかる~!」的なライトな感想を抱いたと記憶しているけれど、30代になった今、改めて読むと感慨深いものがある。太宰のバックグラウンドを知ってしまったからこそ余計に。
作品自体は陰鬱で、灰色で、ジメッとしていて、決して楽しい気持ちにはならないはずなのに、読了後は読み終わってしまった寂しさを引きずってしまう。
今まで短篇を含めて何本か作品を読んできたけれど、こんなに読み終わった後に「太宰ロス」になったのはこの作品だけ。
読んだら前向きになれるかと言ったらそんなことはない。
夢中になって読めるわけでもない。
だけど、太宰のことが気になって仕方なくなると思う。
そんな作品でした。ああ、太宰、好き。
そんなわけで、今回はここまで。
いつも以上になんだか長くなってしまいました…。
また次回、飽きずにお付き合いいただければ幸いです。
それでは!kalkanでした。
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