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就活で出会った、あの人。

実は、今から5、6年前、大学3~4年生だった頃、就活が全く上手くいかなかった。

全く柄に合わずマスコミ業界(特に放送局)を志望し、あちこちの会社を受けていたが、あまり良い線いかなかったのだ。

いつまでもマスコミ業界ばかり受けていても就職先が決まらないので、別の業界のセミナーや面接にも、少ない余力で足を運んだ。

ある時、とあるIT会社のセミナー兼一次面接のような催しに参加した。
IT業界は、数ある業界の中でも特に興味が全くなかった。
そんな業界のセミナーに何故参加したのかは覚えていないが、偶々時間が空いていたか、仲良しの先輩に参加を頼まれたか、確かそんなところだったと思う。

最初に、その会社に関する説明を受けた。
他のIT会社の事を全く知らないので比較対象がないが、初めて聞く限りでは、知的好奇心を刺激される、中々面白そうな仕事だと感じた。

その後、別の部屋に移動し、学生2名に対し面接官1名で、面接のような雑談が始まった。(正式な面接ではなく、その前段階の面談のようなものだった。)

興味のない業界に対する事を聞かれるほど、苦痛な時間はない。
おしゃべりは好きだけど口下手な私は、こういう時どうして良いか分からない。
兎に角「気まずい」のだ。

その上、大してモテもしないくせいに、
「自分が興味ない人から好かれても困る」
というような、自意識過剰な感情まで出てくる質なのだ。

だから、面接官にあまり好かれないように、ITには興味ないと失礼のない言い方で伝え、
後は、最近読んで面白かった本の話をつらつらと述べ、当時ハマっていたK-POPの話までした。

もう1人の学生からは、やる気のなさそうな奴だと思われていたかもしれないけれど、
面接官が思いの外楽しそうに聞いてくれるので、私も饒舌になって気持ちよく話をした。

「やっぱりIT業界には興味が無いけれど、楽しくお話出来て、良い気分転換になったな。」と思いながら、その日は帰途についた。

次の面接も希望しなかったし、この会社とはもう縁がないだろうと思っていたら、翌日、面談をしてくれた方から、メールが来ていた。

「昨日は、本や音楽の話など、面白い話をありがとうございます。○○さんには、是非次の面接に進んでもらいたいと思っています。
次の面接にはプレゼンがあり、ここが非常に難関ですが、私がサポートさせて頂きます。
本当は、昨日の面接官と次の面接のサポーターは、別の人が担当する決まりですが、○○さんのサポートは私がしたいと、会社に申し出ました。是非、よろしお願いします。」

求められて嬉しかった反面、どう返信したら良いのか、困り果ててしまった。

これがマスコミ業界の方からのメールであれば飛びつくけど、興味のないIT会社からのラブコールは、私が求めていたものではない。

まさに、「自分が興味のない人から好かれちゃった。どうしよう。」の感情だった。

いくら興味がなくても、無視するのは失礼なので、取り敢えずES(エントリーシート)は、後日提出する旨を伝えた。

だけど、マスコミ業界の就活に手一杯、教育実習も控えていて大忙しだった事を言い訳に、
その会社のESには全く手をつけないまま、
提出の締め切りがあっという間に近づいた。

その後、ESを出したのか出さなかったのか、
出したけれど遅れて出したのか、兎に角、あのメールのやり取り以降、私とそのIT会社の縁はなくなった。
勿論、あのセミナーの時に面談をしてくれた社員さんからも、メールが来ることはなかった。

何となく印象に残った出来事ではあったけれど、就活に教育実習と多忙な日々の中で、この出来事は、私の頭の中から、一旦は消されてしまった。

結局私は、マスコミ業界への就職には失敗し、
IT業界に目覚めた訳でもなく、念の為取得した教員免許の資格を生かす事もなく、2.3社受けておいた違う業界の会社へ就職した。

入社してからも時々、あのIT会社の面接で出会った方の事を、時々ふっと思い出した。
何故思い出すのかも、思い出した瞬間に、自分がどんな感情を持っているのかさえも、よく分からなかった。
そんな時、あの時頂いたメールをもう一度見たくて、メールBOXを振り返る事もあったけれど、いつの間にか、そのメールもフォルダからなくなっていて、そのうち、その方を思い出す事もなくなった。


今日また何故か、あの人の事が思い出された。
今日は、「あの人にもう一度会ってみたい。」
そう感じた。

やり取りしたメールがない今、私の記憶の中にあるのは、あの人の名字と、ぼんやりとした風貌だけ。

今どこで、何をしているのだろう。

何を話しても違和感ばかり感じていた私の就活人生で、唯一私の心の中に入ってきてくれたあの人に、もう一度会うことは出来ないだろうか。





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