見出し画像

不器用で良かったね

お医者様は「不器用の方が先へ進むよ」と言った。

器用なら満足して先へ行かないが、君は不器用だから満足せず先へ先へ進んでいくので大丈夫だと。

恐る恐るお医者様を見ると、目が合った。

ピカソも満足せず不安であれこれやって「こんなの変」って言われて、そしてしょげたんだよ。ピカソでもしょげたんだから。

そうか〜ピカソもしょげたのか〜と思ったら、肩の力がスルスル解けた。
ミスばかりで馬鹿でデリカシーがなく、酒に頼り死にたいから貯金もできない自分のことを、まぁピカソでもしょげるし仕方ないか、と許せる気がした。

お医者様は続ける。
友達の為じゃなくて、折角だから写真を撮らなきゃ。良い目を持っているから。君の癖は、君の目は、写真にはとても向いている特性なんだよ。

本当だったらいいな〜と思う。

初めてこのお医者様に会った時、ざっと現状を話したら、君にはこういう癖があるね?とポンポン当てられた。それは皆にあるような物ではなく、自分だけ何故…と思っている癖たちだったので驚いた。占い師かよ。

精神科医は占い師であり、占い師は精神科医なのでは無いか、と思う。この世で唯一信じている占い師もそうだった。医者かよ、と思った。

自分が何かを得れば得るほど、お前の力じゃない、と八つ当たりされるのは続くし増えるだろう。置かれた環境がラッキーだっただけ、顔が家庭がちょっと良かっただけ、自覚しろよお前がいると迷惑なんだよ、これまで浴びた言葉は入れ墨のように身体に入っている。自分でも、自分は無価値な人間で、存在するだけで人に不快な思いをさせる嫌な奴だと思う。めちゃくちゃになって精神科にいる。

でも写真に向いてたらいいな〜と思う。
満足はなかなか来ず、次は次はと考えが浮かぶ。最近は一周回って優しくてポップな物になってきた。優しくなりたい。自分が見たいものを見ている。自分の写真のために考えることが一番大事で、それ以上難しいことを考えるのは辞めようと思う。

個展「街の模様展」は、ポップだと思う。街の中に意図せず出来た模様のようなものを撮った写真を、模様として楽しむ。入り口はポップで楽しく、とにかく優しくしたいと思った。自分が会場に入って苦しくないように。

作っていくうちに、地面の写真がとても多いことに気がついた。しかも全然ピントは来てないし、ブレてるし、写真としては結構駄目なものも多い。

でも、それこそが見えている模様にも思える。カメラを丁寧に構える余裕がなく、ただ溺れる中で藁を掴むように撮っている。人の目を見るのが怖くて、何を目指せばよいか分からなくなって、会社から最寄りまでの道すら迷う方向音痴が、街の中で頼る模様たちが、その様なんじゃないか。

個展「街の模様展」は、人物しか撮って来なかった自分が、気を病んで縋るように辿り着いた初めてのスナップ写真の集まりだ。まさか自分がスナップをやると思ってなかった。そもそもこれはスナップか?最早写真も良く分からない。紙じゃない物にもプリントしている。意味がわからない展示だ。飾ってみないと全容は自分にだって分からない。どうなるんだろう。楽しみな気もする。こわい気もする。

書きかけだけど、書き終える気がしないので一旦おしまい。こういう訳分からないものがあってもいいでしょう。

サポートされた資金で卵を買って、燻製にします。