『パワー・オブ・ザ・ドッグ』|感想
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』をNetflixでみた。
1920年代のモンタナを舞台にカウボーイの兄弟を描いた映画。
西部劇かと思ったら舞台は1920年代でもはや西部開拓時代ではないし、銃撃戦ももちろんないです。
親の代から引き継いだ牧場主のフィル・バーバンク(ベネディクト・カンバーバッチ)とその弟ジョージ(ジェシー・プレモンス)を軸に、ジョージと結ばれた未亡人のローズ(キルステン・ダンスト)とその連れ子のピーター(コディ・スミット=マクフィー)の関係などが静かに描かれているのですが、なんとも得体の知れない緊張感や先行きの危うさなどがジワジワと伝わってきて、もしかしてこの映画はホラーなの?と何度か思ってしまいました。
カンバーバッチ演じるフィルのストイックなまでの自己規範というか俺ルールは、ある意味『ノーカントリー』の殺人マシーン、アントン・シガー並みの不気味さを醸し出していて、本当にホラーに転じてもおかしくないです。
対して、ドラマ『ブレイキングバッド』に登場後、なんとも危なっかしい役柄が似合っていたジェシー・プレモンスが本作ではとても素晴らしい。その積み重ねてきたキャリアを昇華させたと言ってよいほどに抑揚を抑えながらも複雑で繊細なフィルの弟であるジョージという人物を演じていて、最近では映画で彼を観ない年はないほどにバイプレーヤーとして存在感を際立たせていましたね。
なかでも本作の見どころはその映像美。かつて映画人は映画を“写真”と呼んでいた時代がありましたが、そこには多分に“絵”としての美しさが含まれていた言葉であったとおもうのです。本作はまさにその雄大な景色とフレームの端々まで丁寧に作られている“写真”の美しさに息をのみます。
とはいえ、高揚感やカタストロフィのある映画ではないし、はっきり言って地味で、かなり作家性の強い作品であるため、このような賞をターゲットにした映画を予算をかけて作れるのはNetflixの強さではありますね。
ああ、この作品をNeflixで観ることのなんと皮肉なことか。
大きなスクリーンで観たかった。
こういった得体の知れない映画にたまに出会うと、長らく記憶のどこかにこびりついてなかなか忘れられない映画となることがあるので、本作も2、3年後には何かしらで引き合いに出されるかもしれない。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は第94回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚色賞、美術賞、撮影賞、編集賞、音響賞、作曲賞と11部門12ノミネートというノミネート数では最多の作品ですけど、そんな映画が家にいながら観ることができるというのも、まあ凄い時代になったものです。
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