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書評とかレビューとか

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これまで各媒体で掲載された書評や本のレビューなどをアーカイブしております。
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2019年3月の記事一覧

角幡唯介 『漂流』

 『FlyFisher』2016年10月号掲載  シーズンが終了した。 今年は春からあまり気持ちのいい釣りに出会えず、釣行もあまり重ねられずにシーズンが終わってしまった。  例年、一回くらいは爆釣があるものだが、今年はなんとも低調であった。 ただ、爆釣が多ければ良いシーズンかというと、実はあまりあっても困るのが釣り人の面倒くさい習性である。昨シーズンは一度だけものすごく釣れた釣行があった。昼過ぎというのにライズが止まらずキャストすれば必ずヒットする。贅沢なもので、こうなると

森達也『A』『A2』

20代前半にみたドキュメンタリー映画『A』『A2』は確実に僕を変えた作品だった。 物事を一方向から見ることの危険性、日本の同調圧力の気持ち悪さ。オウムというパブリックエネミーとされた者へのヒステリックな扱い。 3.11後、公敵となった東電と原発の是非などの状況で、自分が少しばかり冷静にいられたのはこの『A』に出会っていたからかもしれない。 もしこの映画を見ていなかったら、東電=悪という図式に安易に乗っかりtwitterで嬉々として「社会正義」の名の下として安全地帯から非難ツイ

小説を書きました

小説を書きました。 朝日出版社のウェブマガジン「あさてらす」のなかで《16の書店主たちのはなし》という短篇小説の連載がはじまりました。 書店主とお客とのおはなしです。 【第1話】文庫専門書店「雀屋文庫」 ※フィクションです。出来事、人物は架空のものです。

《アメリカが銃を捨てる日》ニューズウィーク』 2018年3月13日号

※2018年3月11日の記事です 『ニューズウィーク』 2018年3月13日号 特集《アメリカが銃を捨てる日》が興味深い。 先日のフロリダの高校銃乱射事件関連特集です。 ペリスコープ「18歳でライフルを買える銃社会アメリカの矛盾」では、 連邦法で拳銃は21歳以上でないと購入できないが、ライフルは18歳から購入できるというのを初めて知った。拳銃は銃犯罪に多用されるかららしい。 ライフルは80年代から90年代にかけてアサルトウエポン(軍用の殺傷力の高い突撃銃など)が一般にも普

「うちの店を潰す気か」

注)2013年に書いた記事です。 2013年当時に私が店長をしていた書店の雑誌販売の実例です。 「うちの店を潰す気か」と思ったのは確かです。 1月から雑誌に自ら手をつけて2ヶ月、定期改正(※雑誌の入荷数を店側がオーダーする業務。あくまで希望数。)が増えない。増えないというか減る。 発売後の追加発注でなんとか数を確保しようとしているが、追加効くものも限られるし、「追加発注」が所詮応急処置なもので、雑誌売場運営では健全ではない。  現在雑誌担当として最重要の仕事は月刊誌の発売後

第六ポンプ

「ねじまき少女」があまりに衝撃だったバチガルピの短編集。この短編集を読むとバチガルピの物語は一貫して環境問題や生命倫理、貧富格差、グローバリセージョンなどを描いているのがわかる。 「ポケットの中の法」では、生きている構造物、「活建築」が空高くそびえる中国の成都が舞台で、乞食のワン・ジュンがデータキューブをある人物に渡す事を依頼される話だが、チャイナゴシックと雨降る露店の風景、そびえる高層建築などなどブレードランナーを思わせる。 「ポップ隊」は、若返りの技術が確立し事実上寿

ねじまき少女

温暖化、海面上昇、伝染病、食料不足、遺伝子操作による生物多様性の崩壊。そんな世界のなかで巨大な防潮堤を築き検疫を徹底し、かろうじて秩序ある国家を保っているタイ、バンコクが舞台のSF小説。  この世界では石油資源はほとんど喪失しており、様々な動力は「ゼンマイ」により賄われている。コンピュータは足踏み式だったり、スクーターやラジオなども「ゼンマイ」が動力源だ。また様々な伝染病のために生物、植物の多くが感染、または絶滅し遺伝子操作によって耐性をもった作物や動物のみが食糧とされる。そ

フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い

※2012年刊行当時に書いた書評です 私は脱原発派でもなく原発推進派でもない。 なにかどちらかに考えを極端に振ってもなにか居心地の悪さみたいなものがあった。 なにせ福島第一の事故以前は原発についてほとんど考えたこともなかったし、電力が当たり前のように供給され当たり前のように消費していた。 で、いざ事故が起こって「原発は危ないから脱原発だ」といっても原発立地の地域に済む人々は原発誘致によって職に付き、そこで生活の基盤を持った人々もいる訳で、当事者でない自分が簡単に原発反対と唱