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BC31「好きなことを好きなだけやり続ける〜『オトナの!フェス2015』」

2015年3月12日に開催された僕らがプロデュースした3回目になる『オトナのフェス!2015』は、
ASIAN KUNG-FU GENERATION
フジファブリック
大森靖子
the telephones
の人気アーティスト4組、さらにオープニングアクトに岩崎愛大谷ノブ彦DJダイノジで登場、さらになんと坂口恭平が飛び入りで参加しました!

当日、お台場のゼップダイバシティで2000人あまりのお客さんにもかなり熱狂していただいて、大変な盛り上がりの中無事終了いたしました。今日はそんな『オトナの!フェス』のお話です。題して“魂を揺さぶられる音楽〜好きなことを好きなだけやり続ける!”。

フェスはオープニングアクトの岩崎愛さんから始まりました。優しい歌声を会場内に響かせたのち、トラ顔セーターを着たDJダイノジが会場の通路から客中をかき分けてプロレスのような登場です。ダイノジ大谷さんは1F客席のど真ん中に作ったセンターDJブースへ行きプレイを開始します。そしてダイノジ大地さんは数名のダンサーとともに幕がしまった前方のステージの幕前で踊り、エアギターを奏でます!ちなみに、通常のライブハウスでは客中の真ん中にDJブースを設置することは無いそうです。なぜならDJブースの後ろ側がお客さんには見えにくくなってしまい、結局客スペースを潰すことになってしまうからです。ただ、DJプレイ中の大谷さんを2階からカメラで撮るときっと人の波に囲まれて壮観な映像になるに違いないと確信し、今回思い切ってど真ん中にDJブースを設置したのでした。ライブフェスの運営の素人である僕らだからこそ逆に思いつくセット配置です。でもその目論見は大成功!大谷さん選曲のアゲアゲのポップチューンの連続で、すでに場内は大熱狂!2階カメラからの映像は壮観そのものです。


そこにMCいとうせいこうユースケ・サンタマリアが客中をかき分けてDJブースに登場しました。まさかその場にMCの二人がいきなり登場するなんて思ってもいなかっただろうお客さんはDJブースに視線を向けます。会場全員で「オトナの!フェス2015」とタイトルコールすると、その瞬間に今度は前方ステージの幕が突然降り、フジファブリック「夜明けのビート」が始まります。お客さんは「夜明けのビート」の鮮烈なイントロで、くるりと体を前方ステージの方へ向き直し、フジファブリックの演奏に包まれていきます。僕も会場のセンターDJブースのところにいましたが、次から次へとめくるめく演出で、会場が一体になって熱狂の渦になっていたのを目撃しました。主催者側が言うのもなんですが、すごい熱狂と興奮です。
フジファブリック最後の曲では、いとうせいこうさんが登場、ご自身のラップをするのかと思いきや、哲学者・九鬼周造が約80年前に書いた韻文を朗読します。“フジファブリックmeets九鬼周造featuringいとうせいこう”「LIFE」を熱唱。まさにこのオトナの!フェスでしか味わえない、珠玉のグルーブ感にもう大感動。

・・・というように当日の進行は進んでいきましたが、音楽フェス等によく行かれる方ならご存知だと思いますが、普通の音楽フェスと違ってかなりバラエティに富んだ演出を加えているのが、この『オトナの!フェス』なのです。なんでそんなバラエティに富んだ演出をやっているのでしょうか?それはですね、僕がバラエティプロデューサーだからなのです(笑)。すいません、ひねりのない答えで。要するに何が言いたいというと、音楽は“ど素人”なわけです。ライブ運営とか、全然全くわかりません。
ですが音楽は大好きです。もうほんと大好きです。そんな音楽素人な僕が、尊敬する大好きなミュージシャンとごいっしょできる、その場で音楽を楽しめる、そんな“ただ好きな音楽”のフェスティバルを開催したらおもしろいだろうなっていうコドモみたいな発想でこの「オトナの!フェス」をやり続けているのです。

僕はただの音楽好きなので、よくライブに行きます。年齢を重ね、年々体力の衰えを感じて、夏フェスなんかほんときついですが、それでも毎年結構行っています。それもシゴトというより、ただ自分が好きだから行っています。今回3回目になる『オトナの!フェス』の具体的な出演者等を考え始めたのは昨年秋くらいですが、そのきっかけになったのは、まさに昨年経験した夏フェスからなのでした。


昨年の2014年夏は7月12日13日に横浜アリーナで行われた『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES.2014』、7月25日26日27日に苗場で行われた『FUJI ROCK FESTIVAL‘14』、8月29日30日31日に山中湖で行われた『SWEET LOVE SHOWER 2014』に行ってきました。NANO-MUGENで、最後に登場したアジカンのボーカル“ゴッチ”こと後藤正文さんが、ある曲の前に話していた言葉に、僕はあまりに感動してその場で恥ずかしながら号泣してしまったのでした。ゴッチは確かこんなことを言っていました。

「僕はロックミュージシャンだから知ってしまったら黙っているわけにはいかない。
いいものを作り続けるしかない。そうすれば、ちょっとだけでも世の中が変わっていく。だからみんなはこれからも僕らにいいものを作れと、言い続けてくれ。
だけどそのいいものはこの4人にとってのいいものだから、もしみんなのいいものと違ったら、そんときは勝負だ。」

この言葉に感動した僕は、僕も作り手の端くれとしていいものをこれからも作り続けようと思い、自分が思ういいもので皆と勝負しようと固く誓ったのです。そしてますますアジカンが好きになりました。アジカンにぜひ僕らの『オトナの!フェス』にも出演してもらって、多分普通のライブの放送だったりDVDではカットされてしまいがちな、こんなゴッチの思いを僕らの番組でぜひ放送しちゃおう!そう思ったのでした。

そして苗場のFUJI ROCKではとんでもないステージを見ました。大森靖子さんでした。なんだこの人の奏でる音楽は・・・情念がほとばしっている。圧倒的な彼女のパフォーマンスに僕はノックアウトされたのでした。

さらにSWEET LOVE SHOWERで見たフジファブリック。志村さんが亡くなられて3人体制になってからというもの僕は、自然と彼らの音楽を聞く機会が減っていました。今思えば本当にもったいなかったなと後悔していますが、でもこの日、富士山を望む山中湖前のステージで演奏する新生フジファブリックを見たとき僕は激しく心を打たれてしまった。ボーカルの山内さんが歌う声には、亡くなった志村さんの魂が宿ってくるのです。この日の「夜明けのビート」で僕はまた泣いてしまいました。そしてこれからも真剣にフジファブリックのファンであり続けよう、そう決心したのでした。

こうして秋になり、せいこうさんユースケさんとフェスのキャスティングや演出のことを収録時にいろいろ相談するようになりました。多忙な二人のスケジュールを調整して今回は3月12日にやることになり、過去2回はTBSお膝元の赤坂ブリッツで開催していたのですが、ブリッツはキャパが詰め込んでも1200人くらいです。この際もっと大きいところで!と各所を探し始め(今や各ライブハウスは結構スケジュールが埋まっていて半年前でもなかなか空いていないのです)、奇跡的に空いていたゼップ・ダイバシティで開催することになりました。そして僕の夏からの思いをMCのお二人に説明して快諾をいただき、(特に大森靖子さんはユースケさんの方からむしろ先に名前があがりました)、アジカン、大森靖子さん、フジファブリックの出演を各マネジメントに打診しました。というより、正確にいうと“打診”なんてかっこいいもんじゃなく、僕が夏フェスで体験した熱い思いをただ、マネジメントの方に熱く語っただけなのですが(笑)。
・・・ほどなくして3組とも出演を快諾してくださいました。ただの音楽好きプロデューサーの想いだけで出演していただけるなんて、プロデューサー冥利に尽きます。

前回前々回とフェスには5組出演していただきました。今回もそう考えるとあと2組です。でも毎回フェスといってもスケジュールの都合で平日開催なので、土日のようにあまり長時間できません。組数が少ないとフェスって感じがしないし、多すぎると1組の演奏時間が減ってしまいます。毎回このジレンマに悩まされるのですが、今回もかなり悩まされ続け、決めきれずに年末になっちゃいました。そしてそんな年末の12月22日に翌日にライブをひかえたある方からLINEが来たのでした。

the telephones石毛輝さんでした。石毛さんは数ヶ月前に『オトナの!』にゲストとして出演してくださり、番組内で放送したダイノジ大谷さん出演のミニドラマ“eのスピリット”の音楽も担当してくれたのでした。
「明日のライブで来年いっぱいでの活動休止を発表します」そう教えてくれたのです。僕は石毛さんとは出会ったばかりで、the telephonesの活動休止を知り、寂しくもあるけれど、きっとそれは次への進化のための準備期間なのだろうと思ってその旨を返信しました。そしてその瞬間、それこそバラエティプロデューサーとして身勝手なことを思ったのでした。「休止する前のthe telephonesと一緒にシゴトをしたい」

彼らに『オトナの!フェス』に出ていただきたい。でも2015年はそんな活動休止をする前の大事な1年です。5月には武道館も控えています。そんな勝手な思いつきで直前になってオファーして失礼じゃないだろうか?僕は迷いに迷って年を越し、1月半ばを過ぎて、これ以上時間が経つと逆に迷惑になると思い、ようやく連絡しました。もうつべこべ言わずに正直に言いました、「僕はthe telephonesと活動休止前におシゴトしたいのです」と。
・・・急にお願いしてしまいましたが、マネジメントの方がスケジュールをなんとか調整してくれ、そしてthe telephonesの出演が決定しました。今回はメインはこの4組で行こう!そこにオープニングアクトの岩崎愛さんだったりDJダイノジさんがプレイすれば、もっと会場が盛り上がる!!こうしてラインナップがチケット発売開始直前に決まったのでした。

フジファブリックの演奏が終わり、メンバーとせいこうさんがステージをはけます。次は何をやるのかとお客さんが待っていると、すぐさま会場横の壁面に吊るされたプロジェクターに楽屋ロビーが中継され、演奏が終わったばかりのフジファブリックを待ち構えていたユースケさんの彼らへのインタビューが始まります。なかなか聞くことのできない演奏直後のインタビューで場内は盛り上がります。そしてインタビューを終えたMC二人が隣の楽屋に行くと、そこにはthe telephonesの4人がいます!彼らとのトーク中継が続いてプロジェクター画面に流れるのです。その間にステージ上では楽器セットの転換作業が行われています。そのセット転換時間はだいたい20分くらい。その間お客さんは、ただ退屈して待たされることのないように、インタビュー&楽屋中継を観られるようにフェスを構成しているのです。この構成は、ただの音楽好きの僕が、普段フェスに行って感じていたことがきっかけでした、「セットチェンジの間がたいくつ・・・」ならば、そのセットチェンジの間もなんかやっちゃおう!そしたらたいくつしないし、テンションも上がったまま次につながるぞ!そんなシンプルな思いからです。

そしてセット転換が終わると大森靖子さんが登場です!アコスティックにしっとりと歌い始めたかと思えば強烈なポップなEDMサウンドを繰り広げたりと息をもつかせません。そして『ミッドナイト清純異性交遊』では、曲間でその日が誕生日のユースケさんを呼び込み、バースデーケーキを自分で運んできて、バースデーを祝うのかと思いきや、いきなりそのケーキをユースケさんの顔にぶつけました。あまりに大きいバースデーケーキがユースケさん直撃で、場内は大盛り上がりですが、僕らはかなり仰天です。登場終了後にユースケさんの楽屋に駆け込んで行ったら、シャワー室から出てきたユースケは一言「盛り上がってよかった!身体中甘い匂いがするけど」
そのハプニングで、そのすぐ後のインタビューでユースケさんが出られなくなり、たまたま遊びに来ていた番組ナレーション担当のマギーさんが、急遽インタビューアーをやってくださったり、ステージ上はつるつる滑るようになったり、垂れ幕が下ろせなくなったりと、もうハプニング連続ですが、ハプニングこそがバラエティのまさに醍醐味なので、フェスはどんどん盛り上がっていったのでした。ちなみにユースケさんの衣装はかなりお高いスーツで、今シミ抜き頑張っていますが、多分弁償です(涙)・・・今回その分だけ赤字です。

大森さんのインタビュー中継終わりで、続いてアジカンのトーク中継。それをプロジェクターで観る会場のお客さんは割れんばかりの拍手。そしてトーク中に突然一人の男がギターを持ってステージ上手から現れました。坂口恭平です。これも開催2週間切った頃Twitterで彼が前日から東京にいることを知り、ならば翌日何やってるのか聞いてみたらなんとその時間ちょうど空いていたのです。なので急遽リハ無しで出演が決まったのでした。
坂口恭平がステージ上に現れると、彼を知っている人からは歓声があがり、知らない人は誰なんだ?と何をやるんだ?と注視しています。そして坂口が突然歌い始めたのがブルーハーツの「TRAIN TRAIN」、そして立て続けに明治大正のアナキスト大杉栄が獄中から娘へ送った手紙の一節から作った「魔子よ魔子よ」をアコスティックで熱唱。彼のほとばしる演奏を会場は固唾を飲んで見守ります。客中にいた僕はあまりの感動に彼の演奏終わりすぐ、ステージ横に走って戻り、彼を出迎えました。そこにはゴッチもいました。ゴッチと僕とで歌いきった坂口恭平を出迎えました、本当に素晴らしいパフォーマンスだったと。ゴッチは頷きながら彼を祝福していました。

ステージ上にはミラーボールが降りて、いよいよthe telephonesのパフォーマンス。もう会場はディスコです!「猿のように踊ろうぜ!」の石毛さんの掛け声で「Monkey Discooooooo」で始まり、最後の「Love & DISCO」ではダイノジ大地さんがエアギターで乱入!盛り上がりは最高潮です!そして続けさまにDJダイノジの2回目のパフォーマンスが始まり、そしていよいよ最後のASIAN KUNG-FU GENERATIONです!
「ソラニン」から始まり、新曲「Easter」や初公開の「猿の惑星」もプレイします。会場は熱狂に沸き立ち、一体感に包まれました。そして曲間には照れながらも言うゴッチの真摯な言葉がありました。

「俺たちはなんも飛び道具もない、不器用に実直なものをやるしか能がないバンドです。例えば自分が凡庸だとしても、なんかうまくいかないと思ってもやるしかないんだよ。だいたい世の中に出てる人って何が凄いかって、みんな続けるんだ、やめないんだよ、そこだけなんかネジが外れてるんだよ。俺らも昔いろいろ言われたよ、こんなバンド売れるかよ!ってさ。でも続けたらなんとかなったんだよね。絶対いつか伝わると思ってやってたんだよ。誰かが見つけてくれるってずーっと思ってたんだよ。」

僕はこのゴッチの言葉を聞いて確信しました。好きなことは好きなだけやったほうがいいんだ。いや、そうするといろいろ難しいことだっていろいろあるし、周りからはなんか文句もいわれるし、それを続けていくってのはやっぱそれだけでも厳しい。だけどその思いだけが結局人の魂を揺さぶることができるし、それを見て魂を揺さぶられた人が、またいろんな物を産み出していこくことで、また次のいろんな人の魂を揺さぶることができる!それってなんて素晴らしいんだろう。僕も自分自身が、今日のフェスの出演アーティストを始めそこで熱狂するお客さんの姿を見て、こんなに魂が揺さぶられたのならば、その揺さぶられた魂で、これからもバラエティにいろいろ作り続けていこうと、そう確信したのでした。

気恥ずかしそうな表情をしてゴッチは語ります。「今日はありがとう。なんか熱いMCしちゃったね。Twitterにダサかったって書いといて」と。
「みんないろいろあるけどさ、明日からもポップにいこうね」と言って最後の曲「今を生きて」の演奏を終えました。

・・・僕は、本当よく泣きますが、僕はまたゴッチの言葉を聞いて、「今を生きて」を聴いて、泣いてしまいました。本当に本当に最高のライブでした。
読んでいただきありがとうございました!

[水道橋博士のメルマ旬報 vol.58 2015年3月25日発行「オトナの!キャスティング日誌」より一部改定]


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