色褪せない。好きな人に触れられない恋「蛍火の杜へ」
みなさんは、愛する人や恋人に触れることができますか?
はじめまして、noteド初心者のうかです。好きな作品や好きなものに対して想いを拗らせがちなため、このクソデカ感情を昇華させたいと思い、ひっそり始めました。記念すべき第1回目の投稿です。まずは、私の中で最もアツいジャンル「触れられない恋」特集をしようと思います!といっても、かなり特殊性癖…ゲホォ!かなりコアなジャンルなので、お友達を増やすためにも「蛍火の杜へ」という作品を、私のヤジを交えながら紹介させてください!
「蛍火の杜へ」作者:緑川ユキ
漫画(2002年)、アニメ(2011年)
夏目友人帳でおなじみ、緑川ユキ先生が描いた読み切り作品です。原作は2002年、アニメは2011年に制作されていることもあり、作画や世界観は、原作よりもアニメのほうが分かりやすいかもしれません。アニメ→原作の順に観るのをオススメします。声優は、内山昂輝さん(ギン役)と佐倉綾音さん(蛍役)です。
あらすじ
夏休み、祖父の家に遊びに来ていた蛍は、行ってはならないと言われていた、妖怪の住む山神様の森に迷い込んでしまう。そこで、狐のお面を被った少年ギンに助けられる。それから蛍は、毎年ギンのもとを訪れるようになり、2人は惹かれあってゆく。しかしギンは、妖怪でも人間でもない、人に触れると消えてしまうという不思議な存在だった。
以下ネタバレを含みます↓↓
ともに時を重ねる、ギンと蛍
ギンは成長が遅いのか、蛍は森に訪れるたび、ギンの背丈に近づいていきます。蛍は小学生、中学生と大人の女性になってゆくのに対し、ギンの外見は出会った頃とあまり変わりません。この対比の描写も、人間と妖、2人が異なる存在であるという事実を突きつけてきて、胸が苦しくなります。
そして蛍が高校生になった夏、ギンは自分のことを打ち明けます。人の子だったが、赤ん坊の頃にこの森に捨てられたこと。本来ならその時点で死んでいたが、山神様が憐れんで妖術で生かしてくれていること。ギンが「蛍、忘れてしまっていいんだよ。妖術で保たれている体はとても脆い。そんなあやふやな存在に君がいつまでも」そう言いかけたところで、蛍は遮るように言います。「触れると消えてしまうなんてまるで雪のようね」「私ねギン、冬の間もギンのことを考えていた」「ギン、忘れないでね、私のこと。忘れないで」
ヤジ あぁ…。ギンが自分のことを打ち明けたのは、きっと蛍を想ってのことですよね。高校卒業したらこっちで就職する、そしたら秋も春も冬も一緒にいられるねと言う蛍に、ギンは彼女を縛ってしまっていると申し訳なく感じたのだと思います。それでも蛍は、ギンの存在の儚さを雪のようだと言ってみせます。彼女の忘れないでという言葉からは、別れの時を覚悟しているようにも感じますし、なんて強くて優しい子なんですか蛍…!
キュンときて息が止まったシーン
その夏、ギンは蛍を妖怪たちの夏祭りに誘います。その場面での神会話が以下になります。
蛍「でも妖怪ばかりの祭りってちょっと恐いかなぁ」
ギン「大丈夫、見かけは人の祭りと変わりない。人の祭りをマネして遊ぶ祭りだし、蛍は俺が守るよ」
蛍「そういうこと言われると飛びつきたくなってしまう」
ギン「飛びつけばいい、本望だ」
ヤジ 飛びつけばいい、本望だ?!んぇ~?!「蛍が飛びついてきて消えてしまうなら本望だ」に聞こえますが?すっごくよくないですか?すっごくいいのに、きっと普通の恋人同士なら抱きしめ合っているところなのに、触れ合えない2人。キュンとすればするほど、触れ合えないという事実が「忘れるなよ」と頭を殴ってきます。強制的に感情ジェットコースターに乗せられてしまって、おかしくなりそうでした。
あの頃とは違う2人
さぁ、お祭りです。ギンが言うように、妖怪が人に化けているため、その様子は人間のものと変わりありません。時には、気づかずに人が迷い込むこともあるようでした。2人は人ごみ?妖怪ごみ?の中はぐれてしまわないよう、お互いの手首を布で繋いで歩きます。蛍が「ふふ、デートみたいデスネー」と言うと、ギンは「デートなんデスネー」と返すのでした…。
ヤジ すでに観た方!覚えていますかこのやりとり!蛍が森に迷い込み全てが始まったあの日、2人は手を繋ぐ代わりに木の枝の端と端を持って歩きましたよね。そこで蛍が「ふふ、なんだかデートみたいデスネー」と言うと「色気のないデートデスネー」とギンにあしらわれていたあの頃…今となっては、これはもうギン公認の立派なデートなんですよ。このギンの反応の差から、あれから月日が流れ2人とも成長したのだなと分かります…わぁもう、大人になっちゃって…
溢れる想い、クライマックス
「蛍、おれ、もう夏を待てないよ。離れていると、人込みをかきわけてでも、蛍に逢いに行きたくなるよ」お祭りの帰り道、ギンはそう言って蛍に自分のお面をかぶせ、そっとキスをします。「その面、やるよ。」蛍は別れを予感していました。すると、2人の横を走ってきた少年が転びそうになり、ギンが腕を引っ張って助けます。蛍が少年を見送っていると、その背後でギンが消え始めていました。助けた少年は、人に化けた妖怪ではなく、妖怪たちの祭りに迷い込んだ人間だったのです。
「来い蛍、やっとお前に触れられる」
笑顔で両手を広げるギンに、蛍は飛び込んでいきます。「好きだよ」「ええ、私もよ」生まれて初めて、互いに触れ合えた喜びを噛みしめる間もなく、ギンは消えていきました。蛍は、抜け殻になったギンの浴衣を抱きしめて泣きます。森の妖怪たちは、蛍に言いました。「ありがとう。私達はずっとギンと一緒にいたかったけど、ギンはやっと人に触れたいと思ったんだね。やっと人に抱きしめてもらえたんだね」
ヤジ 咽び泣きました。せっかく触れ合うことが、抱きしめ合うことが叶ったのに、ギンはあっという間に消えて行ってしまったから。しかし同時に、2人は夏を待てないほどに逢いたくて、触れたくて、どうしようもないという苦しみからやっと解放されたんだなとも思いました。「飛びつけばいい。本望だ」や「人込みをかきわけてでも蛍に逢いに行きたくなる」というギンの言葉には、蛍を好き好きでたまらないギンの想いが溢れています。だからこそ、彼はここで消えずとも、来年の夏に蛍に逢いに行くことはなかったと思います。ギンが消えてゆく様子は、美しく光る蛍が散っていくようでした。
まとめ
1つ大切なことを言い忘れていましたが、基本的にこの「触れられない恋」ジャンルは地獄です。そりゃそうです、大好きな人に触れられないんですから…!一度この世界に足を踏み入れてしまったら最後、触れ合うことが叶わない彼らの悲恋の棘が胸に刺さって、簡単には抜けなくなります。
触れ合えない恋人同士がもし一緒に生き続けたら…そんな地獄は、坂口健太郎さんと綾瀬はるかさん主演の「今夜ロマンス劇場で」という映画で表現されています。ここで紹介した「蛍火の杜へ」がバッドエンドに見えるハッピーエンドだとすると、この映画は、ハッピーエンドに見えるバッドエンドかなと思います。このような作品にばかり触れていると、幸せの形っていろいろだな、と考えてしまいます。「今夜ロマンス劇場で」については、またの機会に紹介させていただきたいです。これを読んで胸がキュウっと痛んだあなた!一緒に地獄を見てのたうち回りましょう!
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