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絵の具は全色パレットに出しなさい。

 「こうしたほうがいいよ」とか「そのやり方はよくないね」といったアドバイスと思われるものの類が、実はアドバイスを言っている人自身が自分のために言っているということはある。

 教えたいと思っている人は、往々にして流派や哲学というものをもっている。それ自体は、仕事や趣味との関わり方として褒められたものだろう。しかし、その関わり方を他の人にも求めてしまうというのは、その人の「愛」が強すぎたりするから起こることであり、誰かに自分の哲学を教えることで、自分自身を認めてもらおうとする行為でもある。

 小学生のころ、よく絵の具をパレットに全色だしなさいと言われてきた。赤から白、黒やら緑。それらの色全部をパレットの小さい溝に貯めておきなさい。そう教えられた。

 だけどぼくにはその理由がよくわからなかった。使うつもりのない色までパレットに出しておくのはもったいないと思ったし、べつに必要があればぶにゅっと出すだけだ。先生にその理由を聞いても、納得できるような答えは返ってこない。「そういうものだ」の一点張りである。

 おそらく、その先生は、ぼくが先生から教えられていない方法で絵を描くことが困るのだろう。それは教える者としてのプライドもあるだろうし。先生のやり方でやってもらわないと先生自身が困るのからなのかもしれない。

 絵の具とパレットの関係における、ほんとうに正しいやり方は知らない。もしかしたら先生は正しかったのかも。けれど、あの教えがぼくのためにやってくれかどうかについては、ちょっと違うんじゃないかと思っている。


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