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中学生の頃、親友がいた。(1)

中学生の頃、親友がいた。

小学4年から仲良くなって、家も近くて、中学に上がると一緒に登下校した。

彼女は周囲が口を揃えて「優しい!」というタイプで、少しふくよかな体格におっとりとした高い声、お絵描きが大好きで優しげな目を更に細くしていつもニコニコしていた。

私は彼女が大好きだった。
私たちはよく似ていると思った。お絵かきが大好きで、ノート一冊を一緒に絵で埋めた。ピアノを習っていて、同じクラブ活動に参加し、母親はいつでも厳しく、父親のことは語りたがらない、自由になる時間もお小遣いも少ない、どれだけ長く話しても帰り道は別れがたくて、二人でいれば笑い転げて時間が足りない、お揃いのモノを持ちたがる、どこにでもいる思春期の女の子ふたりだった。

様子が変わったのは、中学3年生になった頃。
中学1年、2年とクラスが離れ、3年でようやく一緒になれた。それまでの登下校だけでなく、クラスでも1日中一緒にいることが可能だ。
私は嬉しかった。ただ、彼女が毎日少しずつ変化していくまでは…。

二学期に入ると、登下校の行き帰り道の間、彼女の話題は一つだけになった。

「受験がこわい」
「勉強しなきゃ」
「あなたは頭がよくていいね」

毎日、毎日、こればっかり。最初はその話はもうやめよう!などとおどけていた私も、何度言っても同じ発言とため息のループで、会うのがあまり楽しくなくなった。話題を変えようと20~30個の話題ストックをメモして参戦した日もあった。彼女は私の話題に「へえ」と短く答えた後、またため息とともに上記のループへと戻っていった。

人生初めての受験をひかえて、ナイーブになっているのかな。

私はどうにか彼女の明るさを取り戻したかった。いくら励まそうとも、私を卑下しようとも、一緒に勉強する?と提案しても、彼女は乗らなかった。
私は、どうしてほしいのか、何が正解なのか全くわからないまま、居心地悪く彼女のとなりを歩き続けた。

ところが、クラスに到着すると、下駄箱で友達に会うと、その瞬間彼女は「優しい」彼女に戻った。「おはよう!」と明るくニコニコしていた。さっきまでのことが嘘のように。学校いるときは、いつもの明るさを失わない彼女だった。そのおかげで、私はこれまで通り楽しく過ごすことができた。

登下校の時だけ、何かナイーブになるのかな。
それだけ心労があるのか、私にしか本心が出せないのか。そんなふうに思った。彼女を助けたいと思ったし、まだ彼女を庇おうとしていた。
私も当時、担任や学校からかかる受験プレッシャー、親からの無言の圧などから塾通いを始めており、焦燥感や、周囲の学力との競争力を煽られ、精神的に疲弊していた。彼女の気持ちはわかると思った。


そんな自分の中で、違和感を覚えるようになったきっかけがあった。

朝、偶然出会った別のクラスの友達が声をかけてきて、3人一緒に並んで歩いた。私はおそるおそる彼女を気にかけていた。彼女の調子が悪そうだったら、私がフォローせねば。。
ところが、彼女は受験の「じ」の字も口にせず、クラスの「優しい」彼女だった。よく笑い、よく喋る、本来の彼女の姿だった。
帰り道、またその子が「帰りもお願い!」と一緒に帰ることになった。やはり彼女は本来の姿だった。

久しぶりに笑顔で明るくニコニコと手を降ったあと、なんだか泣き出しそうになった。

できるんじゃん。
私がイヤだなと思っていたあなたを、出さないでいること、普通にできるんじゃん。あなたにとっては、私が大切なひとだから本音を言っているのではなかったのだ。私は、その他の友達にする気遣いすらかけられてなかっただけだった。

ああ、
彼女は私にプレッシャーをかけていたのだ。

彼女は、私に学力の劣等感を(勝手に)感じている。
彼女は、かこらが勉強できるのは元々の頭がよくて、理解できるから苦労せずにすむんだよ、ズルいと言っていた。

「友情を優先するのなら、私をえらべ」
と無言の圧力をかけていたのではないか。

彼女は、いつも私の前で落ち込み、私に心配させて、その友情を増大させて、「一緒の学校」にいくから大丈夫だよと言われるのを待っていたのかもしれない。
そうすれば、「友達の行く学校に入れない自分」を直視せずにすむ。これ以上、親から比較されずにすむ。勉強する必要もないし、周囲からも、「仲良し」として見られるだけ。高校生活も安泰。彼女の心配事は一気に解決。彼女のプライドは、この問題で精一杯だったのかもしれない。

そう思って、想像してみたら、
ようやく、わかった。

彼女にとって、私の存在は屈辱的だったんだろう。
彼女はその後もたくさんこういうことを言った。
「私よりも頭のできがいいね、だから授業もすぐわかるんだよ、ズルいね。」
「私もかこらみたいな頭があれば、自然に勉強できて楽だっただろうに。」
「わからない人の苦労は、わからないでしょう?
頭のいいひとの何倍もたいへんで、がんばってもできないんだよ。」


しかし、私にも「一緒の学校に行こう?」と絶対に言えない事情があった。

(つづく)

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