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クラウドキッチンの可能性に関して考えてみる!

クラウドキッチンは、固定費を抑えることができ飲食業の営業レバレッジ低下を助ける

クラウドキッチンは、共有型のキッチンスペースであり、「外食産業のコワーキングスペース」といえます。
別名ゴーストキッチン、シェアキッチン、ダークキッチン、バーチャルキッチン、スマートキッチンとも呼ばれており、主にオンラインで注文・宅配される飲食品の調理に必要なすべてのインフラを提供しています。

クラウドキッチンを運営する事業者は、キッチンスペースを使用する独立系飲食店(テナント)から徴収する毎月の固定賃料、または飲食店の月売上の一定割合を収益源としています。
固定賃料は、各飲食店が使用する厨房の面積に応じて決まることが多く、提供するサービスに応じて、固定賃料と売上の一定割合の両方を徴収する場合もあります。
また、提携形態によっても料金が異なり、飲食店ブランドがライセンス料やフランチャイズ料を支払い、クラウドキッチン事業者に事業運営を委託する場合もあったりします。

飲食店オーナーへの主な訴求ポイントとしては、費用対効果の高さとスペースレンタルにおける柔軟性であります。クラウドキッチンは、人通りの多い通りに面した高価な店舗立地ではなく、工業団地や空き倉庫・駐車場などに設置されることが多いため、飲食店に対して比較的安価な固定賃料で経営できます。
また、施設内には平均10~15の厨房ステーションがあり、個々に短期または長期のレンタルが可能であります。このため、飲食店はクラウドキッチンの利用により不動産賃料や厨房インフラへの設備投資を抑えることができ、デリバリー専用の飲食店ブランドであれば利益率の向上にもつながっていきます。

クラウドキッチン事業者の視点でみると、飲食店オーナーから譲渡された施設などを活用し、厨房ユニットの設置やその他必要な調理機器・道具など施設内を整備するために多額の設備投資を行う必要があるためリスクが大きいといえます。
他に、オンライン注文プラットフォームや注文情報の処理などを支援するテクノロジーへの投資も必要になってきます。 

クラウドキッチンと一般的な飲食店の比較
クラウドキッチンの注文処理の流れ

 最も一般的なコミッサリーキッチンとは!?

クラウドキッチンは、運営モデルによって様々な種類に分けられます。そのうち、コミッサリーキッチンが最も一般的な運営モデルであります。
この運営モデルは、同一施設を利用する複数の飲食店ブランドや個人の料理人にサービスを提供するため、よりスケーラブルであると考えられております。
また、DoorDashやUber Eatsなど、オンライン飲食宅配プラットフォームが食材の一次加工を中心とする川上業務を統合して所有・運営するクラウドキッチンもあります。
他には、クラウドキッチン事業者が所有するブランドや、外部の飲食店との提携により、単一の飲食ブランド向けの調理に特化した運営モデルもあったります。

 クラウドキッチンの運営モデル

ミレニアル世代を中心としたオンライン飲食宅配の人気がクラウドキッチン需要をけん引

オンデマンド配車サービスを支えるテクノロジーは、タクシー業界だけでなく様々な分野に波及しております。
Uberは、当初シェアードモビリティで市場基盤を築き、その強みを活かしてUber Eatsを立ち上げ、オンライン飲食宅配の分野にも参入していきました。こうしたトレンドの流れを受け継ぎ、クラウドキッチンのコンセプトが拡大しつつあり、これは、オンデマンドの交通インフラの発展により、飲食宅配の利便性が増したことが大きな要因ともいえます。

Uber Eats、DoorDash、Grubhub、Postmates、Caviarなどのオンライン飲食宅配プラットフォームが消費者に広く受け入れられたことで、食品サービス事業者は新たな市場の開拓や大量注文の管理が容易になっていきました。
米国では、プラットフォームを通じたオンライン飲食宅配(Platform to Consumer Delivery)の分野は2015-20年にかけ約25%成長したとされているほどであります。これに伴い、飲食店による出前を含むオンライン飲食宅配市場全体でのシェアも拡大したと考えられます。

オンライン飲食宅配の需要の主なけん引役は、一般人口や労働力に占める割合が高いミレニアル世代になってくるかと思います。
米国のレストラン業界団体である全米レストラン協会(NRA)によると、米国内のミレニアル世代の71%が飲食宅配サービスを選好しています。
米国のレストランを対象とした調査によると、自宅で映画やテレビ番組を見る際、ミレニアル世代の57%が飲食品の宅配注文をしており、Forbes誌とUBSが収集したデータによると、ミレニアル世代は飲食宅配アプリを通じて飲食品を宅配注文する割合が上の世代に比べ3倍高いことがわかっております。

プラットフォームを通じたオンライン飲食宅配市場を世界規模でみると、2020年の中国におけるアプリのユーザー普及率(スマートフォンユーザー数全体に占める宅配アプリをインストールしているユーザー数の割合)は73%と、米国の40%を上回る形となっております。
また、同年の中国における注文金額ベースの飲食宅配アプリ市場は510億ドル規模とみられ、米国の265億ドルに比べ市場規模が大きいことがわかります。

米国:プラットフォームを通じたオンライン飲食宅配市場の成長率は出前を上回る
中国:オンライン飲食宅配アプリの注文金額ベースの売上高と普及率でリード(2020年)

外部の宅配アプリの活用は依然リスクが伴う

外部の宅配アプリと提携する場合、クラウドキッチン運営事業者やテナントにとっては利便性が向上する一方、宅配担当者の確保や配送の迅速さにおいて懸念点が残ります。
宅配業者の交渉力が強ければ、利用料が高くなる可能性もあり、飲食店はラストマイル配送を自ら管理できないため、配送時に生じる問題から料理の品質が落ち評判の低下につながるリスクも考えらます。
こうしたリスクを軽減する手段として、クラウドキッチン事業者による宅配サービスが挙げられるものの、販売費用の増加と物流の複雑さが依然課題として残ってきます。
なお、オンライン飲食宅配プラットフォームでは自社の配送業者を利用することでこれらのリスクを軽減はしております。

マネタイズ

クラウドキッチンの利用により、飲食店はより早く損益分岐点に到達できる可能性も

前述の通り、クラウドキッチン運営事業者は飲食店から施設内の厨房スペースの使用料を徴収する。使用料には、固定料金制(使用面積に基づく)と変動料金制(売上の一定割合)があります。
下に示すグラフでは、クラウドキッチンを利用した飲食店と一般的な実店舗型飲食店であるクイックサービスレストラン(QSR)のコスト内訳と収益性を比較しており、その結果、新規または既存の飲食店がクラウドキッチン施設を利用して事業を立ち上げ・拡大する場合、既存の実店舗ベースで運営する場合に比べて家賃や人件費を削減できることがわかります。
また、米国の一般的なQSRのコスト構造において営業利益率は通常10%前後であるが、クラウドキッチンを利用した飲食店ではコスト削減効果により営業利益率を29%まで引き上げられる可能性があります。

クラウドキッチンを活用すれば、コスト削減効果により高い営業利益率を得られる可能性がある 

クラウドキッチンの運営モデルでは固定費が少ないため、損益分岐点の料理注文数は一般的な実店舗型飲食店に比べて大幅に少ないです。
下表に示すように、クラウドキッチンを利用して運営される飲食店では1日60件(1週間362件)の注文で損益分岐点に到達することがわかります。
これは、一般的な実店舗型QSRの損益分岐点となる注文数1日272件(1週間1,632件)のわずか22%にあたります。

クラウドキッチンを利用した飲食店の損益分岐点は一般的な飲食店より低い 

クラウドキッチンは少ない初期費用で始められる

クラウドキッチンを利用した飲食店を立ち上げる際に必要な初期費用は、実店舗の立ち上げに比べ大幅に少なくなってきます。主な初期費用は、クラウドキッチン事業者へ支払う入会金と、飲食店側で別途必要な厨房機器や調理道具にかかる費用であります。その一方、実店舗型飲食店の立ち上げには、建物の建設・改装、家具・備品、厨房機器・調理道具、営業許可・アルコール販売許可の取得、注文処理システム、その他装飾品など、多額の初期投資が必要となっており、初期設備投資が少なければ、営業レバレッジや資本リスクも低くなるといえます。

クラウドキッチンを利用した飲食店の初期費用は、新規実店舗の立ち上げ費用の10分の1程度

未来への創造

クラウドキッチンブームに便乗するVCが相次ぐ

クラウドキッチンが過去2年間に盛り上がりをみせたことで、アーリーステージの資金調達を中心として業界に資金が流入し始めました。
その結果、多くのVCがクラウドキッチンへの出資を検討しており、オンライン飲食宅配に始まったブームの流れを受け継ぐとみられております。
米国におけるクラウドキッチンへの投資額は、REEF TechやCloudKitchensなどの大手企業がけん引し、2020年に前年比11%増の30億ドルに達しております。
インドや一部ASEAN諸国などの国でも同様にクラウドキッチン分野での資金調達が増えている状況です。

また、アジア市場でも多くの投資を誘引しており、中国のケータリング会社Panda Selected(熊猫星厨)は、クラウドキッチン事業を拡大するため、2019年にシリーズCラウンドで5,000万ドルを調達をしております。
2019年時点でインドの20都市で約250か所以上のキッチンを展開しているインドのクラウドキッチン・スタートアップRebel Foodsは、Go-Jekと共同でインドネシアに100か所のクラウドキッチンを立ち上げるため、2020-21年にかけ1億ドルを調達しております。
2020年の単年でクラウドキッチンへの投資と市場の拡大が最も顕著だったのはインドとみられ、これに米国、シンガポール、マレーシア、インドネシアなど一部ASEAN諸国や台湾が続くような形となっております。

クラウドキッチン事業者による主な資金調達事例(2020-21年)

有名飲食チェーンがクラウドキッチンと提携、国内外でのプレゼンス拡大を図る

既存の飲食店やデリバリー専用の飲食店ブランドにとって、クラウドキッチンは店舗の拡大や収益源の増加につながると期待されております。初期費用や不動産賃料、人件費を低く抑えられることから、知名度の高い飲食チェーンもクラウドキッチンを活用して事業を拡大し、オンデマンド飲食宅配ブームに便乗する動きが始まっております。

米国でQSRを展開するWendy'sは2020年12月、米国外でのプレゼンスを高めることを目的として、インド国内に250か所のクラウドキッチンを開設するため、インドのクラウドキッチン運営事業者Rebel Foodsとの提携を発表し、Rebel Foodsは、同事業拡大計画の一環としてWendy'sのインド国内のフランチャイズSierra Nevadaと提携するとみられております。

同様に、中東で事業を展開するファストカジュアルレストランThe Halal Guysは、米国でデリバリー専用のレストラン事業を拡大することを目的に、Kitchen Unitedとの提携を発表しており、提携により、ロサンゼルスとパサディナにクラウドキッチンを開設している状況です。
The Halal Guysは、インドでの事業拡大に向けDoorDashのクラウドキッチン事業DoorDash Kitchensと提携もしております。

クラウドキッチン事業者と飲食店の主な提携事例

 

コロナ禍で実店舗に代わるクラウドキッチンが登場も、長期的な成長可能性はいまだ不透明

世界の外食産業は、新型コロナ感染症拡大に伴い店舗営業の休止を勧告されるなど、深刻な打撃を受けております。全米レストラン協会(NRA)によると、2020年12月時点で米国内すべてのレストランのうち17%がすでに無期限の店舗閉鎖を発表しており、テイクアウトや宅配サービスの増加に伴い、店外での飲食サービスへの移行が進んでいることも既存の飲食店に対する圧力となっております。
消費者が店外での食事や非接触型の注文方法を選好するようになれば、モバイルアプリやモバイル決済、飲食宅配サービスを利用したオンライン注文が増加すると考えらます。

クラウドキッチンは、需要が増加しているデリバリー専用の飲食サービスへ迅速に移行し、新たな顧客層へリーチするうえで有効なサービスといえます。しかしながら、クラウドキッチンのトレンドはいまだ黎明期にあるため、施設やユニットの数が需要増加に対応できないことが短期的な課題となる可能性もありのが現状です。

また、新型コロナ感染症による長期的な影響が不透明であることから、クラウドキッチンの増設に慎重な事業者もおります。米シアトルを拠点とする調査・データ・テクノロジー企業Pitchbookによると、長期的な影響はパンデミックが収束するまでわからないが、クラウドキッチンに入居した飲食店はコスト削減や幅広い顧客層へのアプローチといった利点から収束後もテナントとして残るとみられております。

クラウドキッチンを運営する米国のKitchen Unitedは感染拡大が始まった当初、市場の需要が不透明であることや一部の州で法的規制があることから、事業拡大に懐疑的でありました。しかし、2020年5月には拡大戦略を再開し、同年下半期にはテキサス州やシカゴにも施設を立ち上げ、他方で、ドバイのクラウドキッチン事業者Kitopiは2020年5月、感染拡大を理由にニューヨーク進出からわずか半年後にニューヨーク拠点の従業員124名を解雇したと報じらております。同年6月には、当面の間米国と英国での事業を中断し、中東での事業拡大に注力するとしており、2021年現在、中東での事業拡大を継続し、さらに東南アジア市場にも進出するためさらなる資金調達を行っております。 

新たにフランチャイズモデルが登場

クラウドキッチン業界内では、事業者が飲食店へ厨房スペースを貸し出すのに加え、自社のデリバリー専用ブランドの運営を独立系飲食店に委託する動きが広がってきております。(すべてのクラウドキッチン事業者が自社のデリバリー専用ブランドを持つわけではない)。この運営モデルはフランチャイズシステムとして知られており、独立系飲食店は、クラウドキッチン事業者のブランドコンセプトを取り入れることで、既存メニューの拡充や顧客層の拡大が可能となってきます。また、フランチャイズ契約先の飲食店は自社の空いた厨房スペースを利用することもできるため、クラウドキッチン事業者はデリバリー専用ブランドの運営用に新たに厨房スペースを確保する必要がなく資本支出を抑えることができてきます。

フランチャイズモデルは、The Local Culinary、Creating Culinary Communities、Franchise Creatorなどのクラウドキッチン事業者によって2020年に米国で普及してきました。
他社に先駆けてフランチャイズモデルを導入したとされるThe Local Culinaryは、デリバリー専用ブランドを約50種類扱っており、同社は、2020年6月にフランチャイズを開始して以来、同年11月時点で3つの州で5件のフランチャイズ契約を締結したとしております。
The Local Culinaryの加盟店は、フランチャイズプログラムへの参加料5万ドルと、その後は契約ブランドでの営業から得られる月粗利益の7%を支払う形をとっております。

同様に、米国のビジネスコーチング・コンサルティング会社Franchise Creatorは、2020年6月にフランチャイズベースのクラウドキッチンCombo Kitchensを立ち上げており、The Local Culinaryと同様に、独立系レストランは複数拠点での事業拡大や販促活動によるブランド認知度の向上を図ることができております。

今後ますます目が離せなくなるクラウドキッチン事業ですが、うまいことコロナ禍を追い風として、ビスネスチャンスを掴んで頂けますと幸いです!

 

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