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農業ベンチャーでのお話【5】:トマトの葉かきと作業方向


葉かき

【葉かき】とは、無駄な葉を取り除く作業
トマトは毎日少しずつ成長し、新たな葉をつけていく。
定期的に葉を取り除いてあげないと、あっという間にモサモサになる。

モサモサのままだと、風通しが悪くなる。
多湿の状態が続くとカビが繁殖。
カビが葉を覆うと、光合成の場が奪われ、結果として樹が弱る。

また、一日中日陰になっている下葉は、殆ど光合成せずに呼吸消耗だけをする。
こういう葉はない方が良い。

更に、果実に葉の陰が落ちると、果実の温度上昇を妨げ、果実の肥大や着色まで阻害してしまう。

以上のような訳で、1株につき週に1回程度、その時の日射量に対して適切な葉の枚数(葉面積)になるよう、余分な葉を【葉かき】をするのだ。

収獲・選果・パッキングと違い、【葉かき】は、裏方で樹を管理する作業。
任されるようになった時、なんだかちょっとだけ、プロに近づいた気がした。

剪定ばさみを右手に、左手で葉の付け根を掴んで根本から切っていく。
たまに間違えて左手をハサミで切って、大出血、、、
慣れないうちは絆創膏が手放せなかった。

葉を切られた方のトマトにも傷口ができる。
彼らに貼る絆創膏はない。
傷口から病原菌が侵入しやすいので、葉かきはトマトの感染リスクを高めてしまう作業。
基本的に傷口が直ぐに乾く条件下で行い、ハサミもエタノールで消毒しながら行っていた。

1株につき2~3枚の葉を切り取っては、隣の株へ進んでいく。
慣れてくると調子が出てきて、スピードも上がる。
前へ、前へ。

農作業は、マインドフルネス的な集中ができ、私は育児ストレスの発散ができた。


作業方向の統一

右利きの人、左利きの人が混在し、手の動かし方も違う。
レーンの右から入る人もいれば、左から入る人もいて、創業期は作業の進行方向が統制されていなかった。

管理作業が増え始め、スタッフも数名新たに加わり、様々な年代、境遇の人が集まった。

統制のない中の作業。
隣り合った人同士がぶつかったり、他の人が作業した続きに入る時、どこまでやったのかを見失う、、
葉かき作業が本格化した頃から、スタッフ間で微妙にイライラした雰囲気が漂うことが多くなっていった。

そんな時、同じ市内で大規模なトマト栽培をされている先輩農家さんが、当農場に見学に来てアドバイスをしてくださった。
私も偶然その場に同席する機会を得て、先輩農家さんに葉かき作業が効率よく進まないことを相談してみた。

先輩農家さん:『作業は利き手によらず、全員一方向に進めるのが原則ですよ。病気を広げる方向も作業の進行方向と一緒なので、病害虫管理の意味も兼ねてね。あと、どんな作業も遅れを出さない事が前提ですよ。』

教科書には載っていない、リアルなアドバイス。
鳥肌がたった。

私は農業に対して、天候任せで、悠々自適なほんわかとしたイメージを持っていた。

でも、工場のように作業の標準化をしたり、植物生理を勉強しながら、人間主体で植物の生育を管理していくスタイルがあることを、この日初めて知った。

今はパートだけど、もっと勉強して社員として働きたいと思うきっかけとなった。


(参考1)残渣の処理

切り取った葉、【残渣(ざんさ)】は、一旦ビニール袋へ入れ、ハウス外へ搬出していました。
ビニール袋は勿体ないので数回使います。
機械を使わず、人が持ち運びする際、ビニール袋が一番持ちやすいという事で。

創業当時から数年間は、【残渣】を【産業廃棄物】として、業者へ高額な費用を払って廃棄していました。

【残渣】を敷地内に廃棄することは、リスクがあるからです。

残渣の廃棄場所が残渣についていた病気や虫の温床になると、残渣を捨てに行く度に、病害虫をハウスへと連れて帰る事になります。

でも、廃棄に毎月何十万も支払うのは金銭的に大きな負担になっていましたし、廃棄場所を定期的に手入れしたり、ハウス入口に消毒マットを設置したりすることで、実際は大きな問題は起きませんでした。


(参考2)トマトの生育と温度について

トマトは、【温度】に依存して新しい葉が出てきたり、花房(のちに果実をつけることになる果房になる)が出てくるスピードが決まっています

単純な比例ではなく、光合成の適温となる日平均気温が17~23度くらいの範囲では比例し、この範囲を外れると生育が低下してしまうと言われています。

1段目の花房が出てからは、葉が3枚出たら1つの房という一定のリズムで規則的に育っていきます。
なので、春から秋までの温かい時期は順調に葉や花が出てきますが、日平均気温が維持できなくなる冬には、一気にスピードダウンしてしまいます。

周年栽培と言って、一年中出荷をする施設では、暖房機を稼働させてハウス内の温度を維持するのですが、、
冬に夏のような温度を維持する事は難しいです。
灯油や重油等の燃料費がビックリするくらいかかりますので。。

また、トマトは絶えず呼吸をしています。
この呼吸によるエネルギーの消耗も、【温度】に比例して増加します。
なので夏場、夜温が20度を下回らない熱帯夜の時は、ヒトと同様、トマトも暑さで消耗が大きく、生育が大きく阻害されてしまいます。

商品となる良い果実を安定的に実らせるためには、適正な温度で管理することがとても大事になってきます。

当たり前ですが、愛情だけでトマトは上手く育ちません。
植物生理に基づいた栽培戦略を立て、農家さんは日々、観察をしながら育てています。

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