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【杜若日記】ご近所猫とのお別れ①

ご近所猫の死

飼い猫でもない。野良猫でもない。
地域猫という存在の猫がいる。

特定の場所に住むけれど、誰かに飼われているわけではない。
かといって、自力で獲る食べ物だけで生きているのでもなく、地域の住人からエサを貰っている。
そんなご近所猫が我が家の近くにいた。

10年前、12〜3年くらいだろうか。
住まいの通りに猫が住み着いた。
面倒を見てくれる人がいたようだ。

なかなかヤンチャな気性のようで、動きがすばしっこかった。当時赤ちゃん連れだった私はその猫を見かけると静かに立ち止まって観察したり、構ったものだった。
出入りする場所が定まっていたので、ある程度お世話をしてくれるお家がどこかも分かった。

子どもたちの小学校の登下校時、よく路上にいた。猫の居場所はちょうど通学路上だった。
子どもを見送っていると、猫を見つけた子どもが振り返り、表情で(ネコ!ネコがいるよ!)と教えてくれたものだ。
下校時は、私と同じようにそーっと観察したりして気にかけ、ちょっかいを出したりしていたようだ。そのせいで少し帰宅時間が遅くなったり。
それが何気ない日常だった。

当時の赤ちゃんは、今年小学5年生になった。

「あのね〜お母さん。最近ね、あのネコちゃんね、ワタシが通りかかるとミャーって鳴いて近づいてくれるようになったの!」
娘はおしゃべりだ。
一緒の入浴中、学校や塾のアレコレ、友達の話、面白かった事など矢継ぎ早に話す。
その中にご近所猫が登場したのだ。

私は、嫌な予感と、
…やはり、という気がした。

最近そのご近所猫は随分痩せて、路上の滞在時間が長くなっていた。
人気を感じてもすぐさま逃げなくなっているのだ。

つい先日、私はご近所猫の異変を感じ、じっと間近で見つめ様子をよくよく窺った。
動くのがだるそうだ。逃げない。
猫も私を見つめている。何か言いたげだ。
もう10年。私が敵ではない事を知ってくれているのだろうか。それとも、逃げたくても体が辛いのだろうか。
目やにが出てこけた頬。毛並みはツヤがなくボロボロだ。いたたまれなくなる。
少なくとも病気か老衰か…そんな雰囲気を瞬間的に察知できた。

(あぁ、死期が近いかもしれない)

実は娘は以前、獣医になりたいと言ったことがある。
私は嘘が嫌いだ。手遅れになる前に、感じた事をそのまま話す事にした。

「そっかぁ。○○ちゃんのこと、ご近所に住んでる子としてちゃんと認識してくれてるんだね。お母さん最近思うんだけどね、あのネコちゃん、ちょっと弱ってきてると思うんだ。随分痩せて、あんまり動かなくなったよね…」

娘はすぐには分からない様子だったけれど、明るい表情は消え、私の目を見ていた。

「もしかしたら、もしかしたらだけど、もうすぐ死んじゃうのかもしれない。だから、○○ちゃんを頼ってるのかな。ちょっと心細いのかもねぇ。」
娘は何と言えばいいのか分からないようで黙っていた。
彼女はお喋りだけれど、自分の感情を言葉で表現するのはあまり得意な方ではない。
けれど、心はしっかり感じているのだろう。

私は、親として、人として、このご近所猫と娘に何かしてやれないかと思案した。
娘にとっては、ご近所猫は生まれた時から既に先住民だったのだ。
何より、少しでも楽に、この世界は悪くなかった、楽しかった、人は優しかったという思いで旅立って欲しい…

そう思った。
私の中の、一番純粋な部分の心が。

※明日に続きます(=^x^=)

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