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親は、愛情を伝えるためにそこにいる

前編「親の一番大事な役割、しっていますか?」はこちら

「しゅくだいやる気ペン」のゴールは、子どもたち自身が勉強の楽しさを発見すること。
学歴や偏差値にとらわれず、生涯勉強しつづけ、「最終学歴を更新しつづける」という「学習学」の提唱者でもある本間正人先生に引き続きお話をうかがいます。

教育は、親のエゴのためにあるんじゃない


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本間先生親の役割をね、いちばんシンプルに言うと「愛すること」なんです。それ以上でも以下でもありません。

子どもに勉強をさせたいとか、宿題を早く終わらせたいとか、いろんな思いが親にはありますよね。でもね、そのほとんどが親のエゴだと思いませんか?

どうして子どもに勉強させたいのかっていったら、先生に注意されたら自分が恥ずかしいとか、よその子に負けていて悔しいとか。
早く宿題を終わらせたいのも親だけで、子どもは全然そんなこと思っていないかもしれない。

「教育虐待」っていうショッキングな言葉がありますが、そうならないためには、親のエゴを子どもに押しつけていないかという振り返りが必要です。

目の前に宿題があると、それを「やる」か「やらない」かが問題になってしまいがちだけれど、じつは些細な問題です。親がするべき大事なことは他にたくさんあるんですよ。

かきほめ:学校でも「勉強しなさい」と先生に言われ、家でも「勉強しなさい」と親に言われたら、子どもはたしかに疲れますよね。

本間先生:学校が学力をつけるところだとしたら、家庭は、やる気を引き出す場所であってほしいと僕は思っています。

今の学校は、だいたい1クラス40人で1人の先生がクラスを受け持つわけです。子どもの1日の活動時間を15時間とか16時間だとしたら、学校で授業を受けている時間は5時間程度です。低学年だったらもっと少ないかもしれない。圧倒的にお母さんやお父さんと過ごす時間のほうが占める割合が大きいですよね。

だから、親御さんが日々の生活の中で、やる気を引きだす工夫をすれば、子どもは劇的に変わります。

二者択一は、コミュニケーションの黄色信号


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かきほめ:しゅくだいやる気ペンは親子で「ごほうび」を設定し、それを獲得するために頑張るという、最初は「外発的動機」から勉強にむかい、最終的には「学習そのものが楽しい」という内発的動機を引き出すことを目標にしているのですが、外から内へ、どんなきっかけがあれば子どもは変わっていけるのでしょうか。

本間先生:そこには、いくつかの段階があるでしょうね。最初の段階では「親が子どもを公園に誘う」ように親が具体的な行動を示すのも有効かもしれません。その次は「公園か買い物かおばあちゃんの家か、いくつかの選択肢の中から子どもに選ばせる」。最後は、「何も言わない」。

かきほめ:子どもの中には、自分で選べない子、自分の意見をなかなか言えない子もいますよね。「しゅくだいやる気ペン」でいう「ごほうびの設定」も、子どもから「好きなもの」や「やりたいこと」を引き出せないと成立しないという難しさがあります。

本間先生:子どもが親に自分の気持ちを言わないというのは、何らかの原因があります。たとえば、つねに2つしか選択肢を与えられていない子どもは、自発性の成長という点では黄色信号です。
親が用意した「A」や「B」の選択肢のほかに「C」や「D」も選んでいい。そういうことを親が示していかないと自発性は育ちにくい。


育てるとは「待つ」こと


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本間先生子どもが答えを出すのを待つというのもとても大事なことです。
答えを与えてしまう前に親がちゃんと待つことができれば、子どもはすこしずつ自分で自分の道を選ぶようになっていきます。

待てない親は、よく子どもに「詰問」していますよね。
「どこ行ってたの?! 今、何時だと思ってるの?!」
これって、もはや質問じゃないですよね。「公園」とか「7時」ってふつう答えようものならよけいに叱られるでしょう? 詰問の答えは「沈黙」です。

相手が言い訳ばかりするときは、こちらの言い方に問題があるんです。部下が言い訳ばかりするのは上司のせい。同じように、子どもが言い訳するとしたら、わが身を反省したほうがいいですね。
「ごめん、ごめん! 今、つい責め口調になっちゃったね! 責めたいんじゃなくて、どんな気持ちなのか教えてくれる?」こういうフォローができるといいですね。


まず親が「ほめられ上手」になる


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本間先生:今、学生を教えているけれど、男女問わず、優秀な学生ほど子育てへの関心が高いんです。仕事で成功したいとか、儲けたいっていうこと以上に、子育てにちゃんと参加できる環境で働きたいと考えている。
優秀な人材を採用するためにも、企業は働く人が育児に思う存分従事できるような制度を急いで整える必要があると思います。

そして、ほめられて育った子は勉強にも前向きだし、優秀になりますよ。
「学力」と「ほめられた頻度」には、必ず相関関係があると思います。

かきほめ:ほめることは、いま目の前にある親子の課題を乗り越えるだけじゃなくって、大人になったときの子どもの力にもなっていくということですね。

本間先生:そう。子どもの基盤をつくる大事なことなんです。
ほめるのが苦手だという親は多いけれど、それはやっぱり、自分があまりほめられてこなかったからだと思うんだよね。
だから、親は自分で自分をほめて練習を積んだほうがいいと思います。
自分のいいところ、20個ぐらいリストアップできますか?

かきほめ:え! 急には……出せないです。(慌ててみんなで目を見合わせる)

本間先生:やったことないからだよね。ぜひ、やってみてくださいね。
これはね、セルフコーチングの一歩としてもすごく重要なプロセスなんです。「自分のいいところを自分でほめる」ということ。
そして、誰かにほめてもらったら、かならずお礼を言うことも大事です。

日本には「謙譲の美」というのがあって、「すごいですね」「頑張ってますね」ってほめられても、「いえいえ、私なんか大したことないんです」って、わざと自分を低く見せる傾向があるけれど、僕はこれはあんまり良いことだとは思いません。
これって、じつは相手の発言を否定しているから失礼なことだと思うんです。

ほめてもらったら「はい、うれしいです」とか「照れますけど、ありがとうございます」と言えるほうが、ずっとコミュニケーション力が高いと思いますよ。


「ヒーローインタビュー」をやってみよう!



かきほめ:「ほめポイントがわからない」「ほめるのが苦手」という親でも、すぐにできそうな取り組みはありませんか。

本間先生ヒーローインタビューはおすすめですよ。子ども自身に「今日はどんなことを頑張ったか」とか「今日いちばんうれしかったことは何か」を話してもらうんです。そのとき、ふつうに聞いたのでは盛り上がらないから、野球のスター選手にマイクを向けるような調子でやってみてください。
「えー、放送席、放送席、聞こえますか。7回に決勝ホームランを打った〇〇選手に話をうかがいます。今日、どんなところを頑張りましたか。教えてください」

子どもが語る言葉から、親は、どんなことをほめたらやる気を引き出せるのか気づけると思います。
「ともだちにゲームを貸してあげた」とか「プリントを配るのを手伝った」とか、人の役に立ったことをほめられたい子もいれば、「クラスでいちばん早く走れた」とか「算数で100点だった」と能力をほめられたい子もいる。

大事なのは、100人の子どもがいたら、100通りのほめ言葉があるということです。

どんなほめ方、どんな言葉が、子どものやる気をくすぐるカギなのか、親は日々のやりとりを通して学んでいく必要があります。

そして、鍵が見つかったら、そこをどんどん深堀していく。子どもが興味を持ちそうなテーマについて、親みずからインターネットで調べたり、本を読んだりするのはとてもいいことです。子どもは、そんな親の姿から、自分は愛されている、気にかけてもらっていると感じます。

子どもに「ごほうび」をあげるときのコツは?


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かきほめ:子どもには、どんなごほうびをあげるのが良いと思われますか?

本間先生:それはね、子どもによって全然違うと思いますよ。あーでもない、こーでもないと親子で相談し合って決めるのが子どもにとってはすごく楽しいんだろうね。きっと、親が思いも寄らないことをごほうびだと言ったりするんだろうね。

かきほめ:そうなんです。我が家では10歳の娘が「お母さんと買い物に行きたい」って言いましたね。そんなことがごほうびになるんだ、かわいいなーって思いました。

本間先生:ごほうびをあげるときには、最初から大きなものをあげないというのはコツだと思います。そのあたりのさじ加減こそ、親の腕の見せどころでしょうね。なんでも欲しがるままに与えていたら、子どももそのうち喜ばなくなるし、お財布も破綻します。

親御さんが目の敵にしている「YouTube」や「ゲーム」だって、工夫一つでれっきとしたごほうびになりますよ。こんなわかりやすい、そして安上がりなごほうびないんだから喜んでいいと思います。
「この宿題ができたら『YouTube30分視聴券』をあげます」とかね。
特別感を出すために、ちゃんとチケットをつくるのがコツです。


「やる気」はすでに子どもの中にある


かきほめ:ただガミガミ叱るだけじゃなく、言葉のかけ方、ほめ方、勉強に向かうきっかけづくりなど、親の工夫ひとつで子どもの心は変わるんだと気づかせていただきました。

本間先生:「やる気」っていうのは、親に与えられたり、つくられるものじゃなく、子どもの中にすでにあるものなんだよね。だから、親はそれが出てくるのを邪魔しないようにするだけでいいんです。
特別なことはしようとしないこと。勉強ができなくても「食べっぷりがいいね」とか「几帳面だね」とかそれ以外のほめポイントを探すのも親の大事な仕事です。何が子どものやる気スイッチになるかわからないんだから、とにかくほめられることはなんでもほめたほうがいい。事実を細かく褒めるのを忘れずにね。

親の不安やイライラは必ず子どもに伝わります。何に取り組むときも前向きに、一緒に、楽しく。親自身が笑顔のスイッチを持って、負の感情に振り回されないようにすることが肝心ですね。


【PROFILE】
本間正人(ほんま・まさと)

京都造形芸術大学 副学長
1959年東京生まれ。
1982年に東京大学文学部社会学科を卒業後、松下政経塾へ第三期生として入塾。松下政経塾では松下幸之助の経営哲学を学び、国際連合国際青年事務局などでの実務研修を経験。
1998年ミネソタ大学にてPh.D. (成人教育学博士号) を取得。米国Coach University課程を修了し、国際コーチ連盟より認定プロフェッショナルコーチ資格を日本人初で取得。

ミネソタ大学在籍中、スカウトによりミネソタ州政府貿易局日本室長に就任。州の知名度向上キャンペーンの功績により知事特別表彰を受ける。
その後研修講師・コンサルタントとして独立。NHKビジネス英語番組講師をはじめ、多方面にわたり活躍。

現在は京都造形芸術大学副学長 (通信教育部担当)として在籍しながら、超参加型の企業研修講師 (エデュテイナー) として年間100日以上の研修や講演をこなしている。


テキスト・岡田寛子/撮影・今井美奈/イメージ写真・上野俊治

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