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映画館で映画を(2)

一度やってみたかったんですよねー。
連載みたいなこと。
というわけで、タイトルにたどり着くまで
何話になるのかわかりませんが
今日も続きを書いてみようと思います。

1話めはこちら

***


2021年春。
新型コロナ感染症……
患者さんは減る気配を見せない。
今、何が起きているのか、
これから先どうなっていくのか、
先がまったく見えない。

病院としても
どれだけの患者を受け入れられるのか、
スタッフをどう配置するのか、
毎日、雲を掴むような会議が開かれた。

くだんの病棟は
今入院している患者さんすべて
他の病棟に移っていただくか
退院してもらうことになり
完全に隔離された。

真っ赤なゾーニングのテープが物々しい。
あちこちに立ち入り禁止の札や
看板が立てられた。


スタッフは2グループに分け、
1つは残る組、
もう1つは他の病棟へ異動するする組。

病棟が解体される、
仲間が散り散りになる。

それをスタッフに告げたときの
みんなの悲しそうな目。
「やっぱりそうなりますよね」

残る組は、使命感に支えられていた。
「ホテルに泊まり込んで、頑張ります」
「大丈夫です、しっかりやります」

どちらかというと
病棟を去る組の方が心配だった。
「残りたいんですけど、
 家族の理解が得られなくて」
と悔しそうなスタッフもいた。

4月に入ってきたばかりの新人は、
どうしていいか分からず
常に目が泳いでいた。
彼女たちのメンタルケアも
早急にしなければならない。

まずは全員
精神科の医師のカウンセリング。
すでに赤信号の子もいた。

並行して新人の異動先の希望を取り、調整した。
配属されてまだ日も浅いのに、もう異動だ。

4月といえばどの部署も
大量の新人を抱えて大わらわ。
これ以上の新人を受け入れることに
いい顔はしない。
みんな自分のことで精一杯なのだ。

それでも時は待ってくれない。

一人ひとり、新しい病棟へ案内し、
くれぐれもよろしくと
看護師長に託す。

居場所を失った新人たち。
丁寧に説明して、
精一杯配慮したつもりだった。

それでも泣きながら戻ってきて
「行きたくない」という子がいた。
休みを取らせ、勤務先を変更して、
あのとき、できることをした。

しかし彼女の母親から
パワハラで訴えるという電話が
くるようになり
その対応にも追われる。


感染症病棟は病棟で
患者はひっきりなしに
運ばれてきた。
患者もストレスからだろう
いろんなトラブルを起こした。

室内での喫煙…
 酸素使っているのに危ないだろ!

こっそりギターを持ち込み
夜通し弾きまくる…
 個室とはいえ、ここは病院だ!

コンビニであれを買ってこい、
それじゃないとクレーム…
 看護師を何だと思っているんだ!

恐怖からの患者の暴言、セクハラ、
などなど。


スタッフは
自分たちも感染のリスクを抱え、
不安にかられながら、
本当によくやったと思う。

手を上げてくれたスタッフは
誰一人感染することはなかった。
メンタルを病むこともなかった。

いつものことだが、
彼女たちの使命感や
献身に支えられて
最初の大きな山を
乗り切ることができた。

本当はそんなものに
頼りたくはないのだが、
結局、最後はそういうものでしか
太刀打ちできないことが
残念で仕方なかった。

たった数ヶ月のことが、
途方もなく長い時間に思えた。


<つづく>

***


タイトル画像は”麦田ひかる”さんにお借りしました。


コメントは……いりません。(笑)
そんなことがあったのかぁと
読んでいただけるだけで、嬉しいです。

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