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映画館で映画を(1)

7月14日から10年ぶりにジブリ新作映画の
放映が始まったらしいですね。
これまで秘密裏に制作され、いろんな噂のあった映画で
あの宮崎駿さんの自伝なのかな?

あちこちから、ネタバレなしだの、
ネタバレありだの、
感想書きたいけど書けないだの
いろんな情報が流れてきて、そわそわします。

これまで大抵のジブリ作品は映画館で見てきました。
映画館じゃなきゃ、あの臨場感と美しさは味わえない。
だから、今度も絶対!見に行く!と言いたいところですが。
映画館にはちょっと苦い思い出があって、
ちょっとためらうのです。

ここからは、少し長い思い出ばなし。
気の向くまま何回かに分けて書こうと思います。
(実は7月19日から下書きに残ったままだった)


***


あれは、現役最後の年の春の朝のこと。

担当する看護師長から一本の電話が入った。
「駐車場まで来ているのですが、そこから足が動きません。
 すこし遅れるかもしれませんが、必ず出勤しますので」
という内容。

「しまった!!」という思いが走った。
震える手で受話器を握り直して
「今日はそのまま帰りなさい。
 そしてゆっくり休みなさい」と指示した。

彼女は「大丈夫です、少しだけ時間をもらったら」
と抵抗したが、私は断固それを受け入れなかった。

たくさんのメンタル不調の人と接してきて、
この会話の下りはかなりまずい。
ここで無理をさせてはならない。
とにかく休養が必要だ。


その朝から彼女は、先の見えない療養休暇に入った。

この出来事で私は自分を責めた。

彼女は1年目の看護師長で
いっぱいいっぱいになっていたのを
知っていたから。

昔からまじめで、
いつも笑って「大丈夫です、頑張ります」という人だった。
人懐っこくて、私のことも慕ってくれていた。

なのに……、私は厳しかった。
強くなってほしくて、
早く自立してほしくて、
敢えて厳しく接した。
叱咤激励というつもりだった。

しかし、それは彼女を追い詰めていった。
私は彼女を突き落とした
最後の一押しを自覚している。

「それでも、やるのよ」

今考えれば、なんて残酷な一言だったろう。
今でも思い出すと、こみ上げるものがある。


彼女の状態は予想以上に深刻だった。
ご主人とも面談し、全力でサポートすることを伝えた。
彼は心から感謝しながらも、心細そうに帰っていった。

「そうさせたのは、私なのに。
 憎まれこそすれ感謝されるなんてありえない」

ご主人の後ろ姿を見送りながら、
その場に座り込みたくなるのを必死に堪えた。


彼女の担当していた病棟は、
COVID-19患者を受入れる感染病床を併設していた。

新型コロナ感染症も2年目に突入し、
いよいよ受け入れ病床が足りなくなってきた。
病院は病棟全床をCOVID-19患者用にすることに決めた。

しかし、病院としても前代未聞の一大事に
リーダーとなる病棟看護師長が不在だ。
さすがに副看護師長に任せっぱなしというわけにもいかず、
私もいっしょに病棟運営することになった。


落ち込んでいる暇はない。


< つづく >

***


タイトル画像は”麦田ひかる”さんにお借りしました。


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