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謝るっていうのは「ごめんなさい」の呪文を唱えることじゃない

(本編:約14000字)


「あなたの謝罪には誠意を感じない」
 目の前の相手は不機嫌をあらわにしている。


はあ、でたよ。こっちは謝ってるじゃん。
これ以上どうしてほしいわけ?
こういうひとって、こちらを攻撃して鬱憤を晴らしたいんだよなあ。


ほんとうにそうでしょうか。
謝っても相手が怒っているのは、あなたが「謝罪に必要なもの」を満たしていなかったからかもしれません。


ちゃんと謝ることができないと、こんなふうに人間関係が壊れます。

  • お客さんからの信頼を失う

  • 職場の人間関係がこじれる

  • 家族やパートナーから愛想をつかされる

  • 友人との縁が切れる


ちゃんと謝れないことで、周りの人を傷つけ、悲しませ、失望させてしまう。
それがいちばん悲しいことだと思います。


ちゃんと謝ってもらえれば、相手はもうこれ以上、あなたに傷つけられたぶんの怒りやこころの痛みに苦しまずにすむかもしれません。

ただしい方法で謝ることができれば、たいせつなひととの関係をうまく保つことができます。


わたしは精神疾患の当事者です。
ひとから支援を受けるなかで、残念ながらなんどもトラブルを経験しました。

だから、ちゃんと謝ってもらえなかったときの怒り、失望、悲しみがわかります。
もちろん、きちんと謝ってもらえた経験もこころに残っています。

この記事では、わたしの実体験をもとに
「こういう謝罪のここがいやだった」
「こう謝ってほしかった」
ということを深掘りして書いています。


あなたには、周りのひとに悲しい思いをさせてほしくない。
本当に謝るとはどういうことか、あなたに知ってほしいんです。


わたしの文章は「言語化がうまい」「考えさせられる」と定評があります。
ここでは、わたしだからこそできる「謝罪」の分析をして、それを言語化しています。

この記事ではほかのWeb記事より突っこんで書いています。
そして、謝罪本よりも簡潔でわかりやすく書いています。


この記事は、こういうひとに向けて書いています。

  • 「ごめんなさいって言ったならそれでいいじゃないか。なにが問題なの?」と不思議に思うひと

  • この記事のタイトルを見て「えっ、そうなの?」とギクッとしたひと

  • ちゃんと謝られなくてもやもやした経験があり、そのもやもやを言語化してほしいひと


こういうひとには、この記事はおすすめしません。

  • 他人の気持ちを思いやって寄りそうのなんて面倒でやりたくないひと

  • とにかく面倒事は避けたいひと

  • 「謝罪の内容うんぬんよりも、形式的でいいから謝ることが大事なんだ」と考えるひと

トラブルにおいてとにかく自分が手間を避けたいひとにとっては、この記事の謝罪のやりかたは乗り気になれないと思います。

ただ、「とにかく面倒事を避けたい」という考えかたは、ほんとうに面倒事を避けられているのでしょうか?

あなたが面倒を避けたぶん、相手がつらい気持ちに打ちのめされているかもしれません。


ちゃんと謝らなかったツケは、

  • 顧客を怒らせ、会社に迷惑をかける

  • 他人から恨まれ、攻撃される

  • たいせつなひとを傷つけ、見放される

というかたちで返ってくるかもしれませんよ。


人間関係は、巡るものなので。
あなたが他人を粗末に扱えば、それは必然的にあなたに返ってきます。
そんな思いはしたくないですよね。


この記事では、こんなことがわかります。

・謝罪を「ごめんなさい」ですませてしまう心理
・相手のこころに届く具体的な謝りかた6ステップと、その実例
・トラブルのときにやってはいけない対応と、その代わりにできること


ここまで読んで「ちゃんと謝る方法が知りたい」と思ったあなたは、ぜひこの記事を読み進めてみてください。






謝罪は相手のこころに届かないと意味がない



先日、こちらのnoteでこんなはなしをしました。


わたしはペーパードライバー講習を受けました。
講習中、わたしは教官の説明にたいして理解が追いつかないところがありました。

教官に質問されて、わたしは間違いを言いました。
すると教官はつよい口調でこう言いました。
「違います、ぼくはこう説明しましたよね。そうはならないです」

わたしはパニックになりました。なかなか駐車のやりかたが飲みこめないなか、きつい口調で指摘されてこわくなってしまいました。運転について考えようにも、恐怖と焦りが頭を支配して、思考が整理できません。


そこでわたしは教官に、
「すみません、言いかたがちょっときつく感じるのでやめてもらってもいいですか?」と伝えました。
すると教官はこう答えました。

「ごめんなさい。じゃあ、進めてもいいですか?」


凍りついた。

この教官は、わたしが感じた恐怖や不安や混乱を理解していない。
彼は口で謝っただけで、申し訳ない気持ちも伝わってこない。

なにがよくなかったのかわかっていない状態で「じゃあ進めてもいいですか」と講習を進められても、きっとまたわたしはきつい言いかたで混乱する。


「いや、わたしの気持ちをわかってなくないですか?」
思わず、そう言いました。

そのとき、教官からこう返ってきたんです。

「なにがですか? ぼく謝ったじゃないですか」


謝ったんだから、もういいでしょ。
彼にとって謝ることは、「ごめんなさい」の呪文を唱えることでしかなかった。わたしの気持ちはどうでもよかったんです。



いまの事例で、教官の謝りかたのなにが問題だったかわかりますか?


「言いかたがこわくてあたまが混乱するから、きつい言いかたをやめてほしい

そんな相手の気持ちを置き去りにしてるんです。

「こわくてあたまが混乱する」と思っている相手への気遣いがない。
「きつい言いかたをやめてほしい」という相手の要望もちゃんと聴いていないんです。


「ごめんなさい」というただの6文字の呪文を唱え、
「ごめんなさいって言ったら終わりにするべき」と相手を黙らせる。

相手の文句にしっかりと耳を傾けるためではなく、相手に文句を言われないために謝る。

だから、相手は納得できないんです。



もし、教官がこのように対応していたらどうでしょうか。


「すみません、言いかたがちょっときつく感じるのでやめてもらってもいいですか?」

「ごめんなさいね。ちょっと怖かったですよね。一回ひと息つきましょうか。すみません、焦っちゃいましたよね。言いかたがきつくなってしまって申し訳ないです……。これからは、様子をみながらゆっくり指導を進めていきますね」


こう言われていたなら、安心して教習を受けられましたよね。
教官がなにが悪いのか理解していて、こちらを気遣っているのが伝わるからです。

謝罪は相手のこころに届かないと意味がないんです。



謝るとはなにか



「謝る」というのは、「ごめんなさい」の呪文を唱えることではありません。

「ごめんなさい」「申し訳ありません」

これらの言葉を言えば謝ったことになるわけじゃないんです。

これらの言葉は、「エクスペクト・パトローナム」でも「アブラカダブラ」でも「開けゴマ」でもないんです。
「ごめんなさい」「申し訳ございません」は、「これを唱えれば相手が許してくれる呪文」じゃないんですよ。


「謝る」というのは、

① 自分の行いのなにが、どう、どのくらいいけなかったのかをことばと態度で示し、
② 自分の間違った行動を改め、
③ 自分が傷つけた相手を可能な限り気遣うこと

を指します。


「誠意を感じない」というのは、

① 自分の行いのなにが、どう、どのくらいいけなかったのかを理解しているように見えない
② 自分の行動を改めようという気持ちが見えない
③ こちらを気遣おうという気持ちが見えない

のどれかを指しているのです。


「旦那から見下されるような発言をされたり、大声で怒鳴られたり、こちらが体調が悪くても気遣いのない言動をされたりする。いままでずっと旦那に不満が溜まって、やめてよって伝えつづけているのに、わたしの言ってることがぜんぜん伝わってない。こないだ怒ったら、『もう謝ったのにいつまで言ってくるの?』って言われた」

「ほんとうに傷つくことを言われた。自分の人格を否定するような発言で、自分が生きていることを否定されているように感じた。こころにトゲが刺さって、抜けない。トゲが刺さったところから、血が止まらない。向こうは一応『ごめんなさい』って言ったけど、謝罪が軽すぎる。震える声で自分の怒りや悲しみを伝えたけど、相手はうっとうしそうに『わたし謝ったじゃん』って言った。なんで『ごめんなさい』の一言だけで許さなきゃいけないの。こころのこもっていない謝罪じゃ、許す気にならない」


こんなふうに相手に感じさせてたら、嫌でしょ。


だから、自分が傷つけた相手に。

「自分の行動にこういう問題があって、あなたを傷つけてしまったんですね。あなたはこんなに苦痛を抱えていたんですね。自分はそれがわかって、悔やんでいます。ごめんなさい」

そう伝えることばと態度が、必要なんです。



なぜ「ごめんなさい」は魔法の呪文になってしまったのか



でもね、あなたが「謝る=ごめんなさいと言う」ことだと勘違いしてしまったのは、しかたがないんです。


子どものころを思い出してください。
ほかの子にいじわるされたとするでしょ。
すると先生がやってきてこう言いますよね。

「ごめんなさいして」

それで、相手はごめんなさいって言うじゃないですか。
そうすると、「いいよ」って言わなきゃいけない空気になる。
そしたら先生がこう言います。

「はい、じゃあこれで恨みっこなしね」


「ごめんなさい」だけ、言わせるんです。

謝罪会見を思い出してください。誠意のある謝罪会見は、「申し訳ございません」だけで済ませないでしょ。迷惑をかけた経緯とか、なにが悪かったのかとか、どのくらい迷惑をかけたのかとか、申し訳なさそうな顔で説明しますよね。

でも、教育現場では口だけで「ごめんなさい」しか言わせないんです。


それで、「恨みっこなしね」って言っちゃうんですよ。

謝られても許せなかったこと、いままでにひとつやふたつありませんか? 

なのに、「謝ったら許すもの、相手が謝ったらそれ以上文句を言ってはいけない」ってすりこまれるんです。


許すことを強要し、文句を言わせない。
これが「ごめんなさい」の呪文の効果です。


ほんとうは、
「相手が許す気になったら文句を言わなくなる(=相手が許していないなら真っ当な文句は言われてもしょうがない)」
というのが自然な謝罪なんです。



「ごめんなさい」の呪文を悪用する方法



「ごめんなさい」の呪文は”悪用”ができてしまいます。


ひとつは、さきほど呪文の効果を説明した通り、
「ごめんなさい」と言うことで相手を黙らせることができます。

まるで黄門様の印籠のように「ごめんなさい」を掲げることで、相手に文句を言わせないようにすることができるのです。

相手が文句を言ってくるなら、こう言えばいいのです。

「もう謝ったでしょ」


これで相手を「謝ったのに攻撃してくる悪者」に仕立て上げることができます。
ほんとうは自分がちゃんと謝っていないから、相手の怒りが収まっていないだけなのに。許すかどうかを決めるのは、相手なのに。



もうひとつの悪用方法は、
「ごめんなさい」と言ったことを「歩み寄りの指標」にするんです。


自分が「ごめんなさい」と言って、相手が許さなかった。
すると、「わたしは謝ったのに相手は譲らなかった」と主張します。

これで、あたかも「自分のほうが努力して相手がそれを怠った」かのように演出することができます。これは「ごめんなさいマウント」と呼べるでしょう。


こうして偽物の相手の非をでっち上げて、相手を責めることができます。
ただ真っ当に怒っている相手にたいして、口だけ呪文を唱える。
そして、許してもらえなかったら相手の「落ち度」を責めるんです。


「ごめんなさい」という呪文を唱えて、相手を黙らせたり非難したりする。
本来自分が許されなくてもおかしくないことをしたのに。
傷つけた相手に埋め合わせを「させてもらう」立場なのに。


これって、相手を自分の都合のいいようにコントロールしようとしてるのとなにがちがうんですか。
こういう謝罪が、まかりとおってしまっているんです。



「謝ったじゃん」と言ってしまうのは、想像力と聴く力が足りないから



「謝ったじゃん」ということばが、口をついてでてしまう。
その理由は、謝ることを「ごめんなさい」の呪文を唱えることだと思っていて、自分がきちんと謝れていないことに気づいていないから。

しかしじつは、もうひとつ理由があります。


想像してみてください。

友達との待ち合わせで、友達が前もって連絡せず遅刻した。

あなたはこの友達にどのくらい怒りを感じますか?
0から10の数で答えてください。


これ、周りのひとに聞いてみると面白いですよ。
自分とぜんぜん答えが違うんですよ。


じつは、いまの問いをカードゲームにしたものがあります。
「アンガーマネジメントゲーム 怒りのツボ・当て~る!」です。



ある出来事が書かれたカードを読みます。
その出来事にたいして、1人のプレイヤーがどのくらい怒りを感じたのか、0から10点の点数で考えます。
そしてほかのプレイヤーが、そのひとの点数を予想します。


このゲーム、わたしもやったことあるんですが、難しいですよー。
一番難しかったのが一個あって。

「夜となりの部屋から騒音が聞こえる」

それはけっこうイライラするな~、夜くらいはゆっくりおだやかに過ごしたいもんな。9点くらいかな?って思ったんです。

それで、自分の点数を答えたひとが、点数を見せるじゃないですか。
0点だったんですよ。

マジで!?と思って理由を聞いたら、
「自分が耳栓するか音楽聞けばいいし、自分もよく夜ゲームやっててひとりごと言ったり通話したりするから、ひとのこと言えない」
だそうです。


では、さっきわたしが出したシチュエーション。

友達との待ち合わせで、友達が前もって連絡せず遅刻した。

これ、遅刻したひとと待ってたひとで怒り度合いの認識が違ってたら、こうなりません?



「謝ったじゃん」と言ってしまう。
その根底にあるのは、感情の認識の差です。

「そんなに怒ること?」

「なにに怒ってるの?」

相手がどんな感情を抱いているか、認識がズレているんです。


だから、こっちから見れば「なんで理不尽に怒られているんだ」と感じます。

でも相手は、「なんできちんと謝ってくれないんだ」と思っています。


「えー、じゃあ相手の機嫌次第ってこと?」

いまのたとえを聞いて、そう思ったかたがいてもおかしくはありません。

たしかに、自分がおなじことをしても、相手がぜんぜん気にしていないこともあれば、すごく嫌な思いをしていることもあるし、はたまた病的に気にしすぎて粘着してくることもあります。


ここでわたしが問題にしているのは、想像力が足りないことです。


「旦那から見下されるような発言をされたり、大声で怒鳴られたり、こちらが体調が悪くても気遣いのない言動をされたりする。いままでずっと旦那に不満が溜まって、やめてよって伝えつづけているのに、わたしの言ってることがぜんぜん伝わってない。こないだ怒ったら、『もう謝ったのにいつまで言ってくるの?』って言われた」

「ほんとうに傷つくことを言われた。自分の人格を否定するような発言で、自分が生きていることを否定されているように感じた。こころにトゲが刺さって、抜けない。トゲが刺さったところから、血が止まらない。向こうは一応『ごめんなさい』って言ったけど、謝罪が軽すぎる。震える声で自分の怒りや悲しみを伝えたけど、相手はうっとうしそうに『わたし謝ったじゃん』って言った。なんで『ごめんなさい』の一言だけで許さなきゃいけないの。こころのこもっていない謝罪じゃ、許す気にならない」


ここで登場する、相手を傷つけたひとたち。
ぜんぜん相手の痛みを理解してないじゃないですか。それが問題なんです。


自分がしたことで相手を怒らせてしまったら、相手を傷つけてしまったら。
なにを傷つけたのか。どう傷つけたのか。どれくらい傷つけたのか。

想像力を働かせて、相手の声にしっかり耳を傾けるんです。
そして、そこから理解したことを、ことばと態度で相手に返してあげる必要があるんです。


例外として、たいしたことではないのに病的に怒りを膨らませてしまうひと、相手の非を自分が攻撃する理由に使うひとがいます。
このひとたちは、「怒って当然のことに怒って取り乱したり語気が強くなったりするひと」とはまったくべつです。


たとえば、飲食店で男性客と女性の店員とのコミュニケーションにちょっとした行き違いがあったとします。男性客は女性の店員を怒鳴りつけます。そこに男性の店長が現れます。男性客は店長のまえでは紳士的に振る舞いました。これ、カスタマーハラスメントですよね。パワハラもおなじです。部下がミスをすると、威圧的な言動で責め立てる。これは怒りや傷つきの表現として許されるものではなく、暴力じゃないですか。


だけど、「怒って当然のことに怒って取り乱したり語気が強くなったりするひと」を“攻撃的なひと”扱いするのも違います。
強い怒りをあらわにするほどの相手の痛みにたいして、わたしたちは理解を示し声を聴く必要があります。



謝罪はこうする



では、具体的にどういう謝罪をすればいいのでしょうか。

①なにが悪かったのか
②どう悪かったのか、相手のなにを傷つけたか
③どれくらい悪かったのか、相手をどれくらい傷つけたか
④どうすればよかったのか
⑤どう埋め合わせするのか
⑥つぎからどうするのか


これらのことを、言葉と態度で表すのが適切な謝罪です。


いまから具体例を出します。

「有名配信者が難病と闘うかたを深く傷つけるような失言をした」としましょう。この配信者になって謝罪文を書いてみます。


このたびわたしは、難病を忌避する発言をしてしまいました。(①なにが悪かったのか)

わたしがあまりにも想像力に欠ける発言したことで、難病と闘われているかたが生きていくことを否定するメッセージを伝えてしまいました。(②どう悪かったのか、相手のなにを傷つけたか)

わたしの発言によって、いまなお難病を抱えながら懸命に生きていらっしゃるかたが深く傷つき、怒りと悲しみで打ちのめされています。(③どれくらい悪かったのか、相手をどれくらい傷つけたか)

軽率な発言をしたことを後悔しています。日ごろから相手の立場に立って考えるようにしていれば、こんなことにはならなかったと反省しています。(④どうすればよかったのか)

わたしは自分を見つめ直すために、無期限で活動休止いたします。そのあいだ、自分の理解のなさを改めるために勉強してまいります。(⑤どう埋め合わせするのか)

今後はおなじ過ちを繰り返さず、あらゆるかたが安心して配信を楽しめるよう努力を重ねてまいります。(⑥つぎからどうするのか)

このたびは誠に申し訳ございませんでした。


本気で怒っている相手には、考えてことばを尽くさないと「誠意」が伝わらないんです。

話しことばの場合はもっと柔軟な感じになりますが、伝える必要のある内容は基本的に同じです。


それでは、①~⑥の項目についてひとつひとつ具体的に見ていきましょう。


①なにが悪かったのか


なにが悪かったのかを自分の口で説明せずに謝られても、相手からするとなににたいして謝っているのかわからないですよね。
「このひとは心にもないのにその場しのぎで謝っている」と受け取られかねません。


ペーパードライバー講習の例でいくと、
「なにが悪かったのか」は「言いかたがきつかったこと」です。
教官から「言いかたがきつくなってしまってすみません」という一言があれば、「このひとはなにが悪かったのか理解しているな」と感じたと思うんです。

なにが悪かったのかをことばで説明しないと、ほんとうに悪いと思っていることが伝わりません。



「自分が悪いことはわかるが、なにが悪かったのかはわからない」

こういう場合は、

「わたしはあのときあなたにいやな思いをさせたのではないかと思って、申し訳なく思っています。わたしにたいしていやだと思ったことがあれば、教えていただけないでしょうか」

と伝えてみましょう。



②どう悪かったのか、相手のなにを傷つけたか


あなたの行いはどうして悪いのですか?
どうやって相手に悪影響を与えたのでしょうか?
相手のなにを傷つけましたか?


ペーパードライバー講習の例でいくと、
「どう悪かったのか、相手のなにを傷つけたか」は、
「きつい言いかたによって恐怖と不安と混乱を与え、教習に集中できない状態にさせた」となります。


ここを間違えるとかえって相手を怒らせてしまいます。

よく有名人が「誤解を与えるような表現を使ってしまい申し訳ございません」と謝って、炎上しています。
これは、まったく誤解ではない問題のある発言を「そんなつもりはなかった」と言い逃れしているからですね。
そんなつもりがなかろうが人を傷つける言葉を言ったことに変わりはないわけで……。


また、臨床心理士の信田さよ子先生が「不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません」「傷つけてしまってごめんなさい」という謝りかたの問題点を指摘しています。

このような謝罪は、自分がやったことにたいしてではなく相手が不愉快な思いをしたこと、相手が傷ついたことについて謝っているのです。


相手が不愉快な思いをしていなかったら、相手が傷ついていなかったら自分の行いには問題がないのでしょうか?

もしそう考えるなら、「事故を起こしかねない危険な運転をしたけど誰も被害に遭わなかったから問題ない」と考えているのとおなじです。
「ケガをさせてしまってごめんなさい」じゃなくて、「危険な運転をしてごめんなさい」と謝るべきです。




相手がこちらの言動をどう受け取っていたのか、相手がどんな感情の動きをしていたのか。
相手の視点に立って、想像してことばにすることがたいせつです。


可能であれば相手の気持ちをことばで聴き取って確認してもいいでしょう。
ただし、相手が自分の気持ちをうまく説明できなくても不満をぶつけないでください。



③どれくらい悪かったのか、相手をどれくらい傷つけたか


あなたはどれくらい悪いことをしたのですか?
相手をどれくらい傷つけましたか?


ペーパードライバー講習の例でいくと、
「どれくらい悪かったのか、相手をどれくらい傷つけたか」は、
「本来安心して教習を受けられるはずなのに、客に怖い思いをさせ、教習に集中できなくさせ、信頼を裏切った」となります。


自分がどれくらい悪いことをしたかによって、謝りかたが変わってきますよね。

自分の行いがどれくらい悪かったのか、ことばで表現するのも大事です。
一方で、この点に関しては非言語の態度が重要になってきます。


精神疾患のあるわたしは、以前相談員の担当さんがついていました。

そのかたはよくわたしとの用事に遅刻しました。
そのときは、「まあ忙しいかただししょうがないか」と思っていたんです。


あるとき、わたしは病気の症状で死にたい気持ちが強くなりました。
そんなとき、その相談員さんはわたしを追いこむようなことばを放ちます。
わたしは怒っていました。


その相談員さんからの提案で、後日話し合いをする約束をします。
相談員さんは「月曜日に話し合いましょう」と言いました。

その相談員さんは、何食わぬ顔で火曜日に家にやってきました。

「月曜日ってはなしだったと思うんですけど」

わたしはそう指摘します。

「ごめんなさい」

その相談員さんは一言そう言いました。


腹が立つ。
その相談員さんが、普段遅刻したときとおなじように謝るものだから。

わたし、あなたの対応に怒ってるんです。
それでもなんとか関係修復しようとして、時間を作ったんです。
その大事な時間の日付をあなたは間違えました。

謝罪、軽すぎませんか。
「日付間違えるのくらいいつものことでしょ」って思ってるのが、透けて見えてるよ。


「今日は話し合いをする大事な日だったのに日付を間違えてしまいました。信用を損なうようなあり得ないミスをして本当にごめんなさい。それでもわたしはあなたとしっかり話し合いをして信頼の回復に努めさせていただきたいです。どうかお時間をいただけないでしょうか」

そう言って深々と頭を下げるところだよね?


やってしまったことにたいして謝る態度がズレていると、軽く扱われていると相手に思われてしまいます。



④どうすればよかったのか


問題があったときにさかのぼって、どう行動するのが適切だったのか。
それをことばで伝えましょう。
こちらが問題を深く理解していることが相手に伝わります。


ペーパードライバー講習の例でいくと、
「どうすればよかったのか」は「やわらかい言いかたをすればよかった、普段からやわらかい言いかたを心がければよかった」になります。



⑤どう埋め合わせするのか


謝ることそのものが埋め合わせのひとつではありますが、ほかにも相手に埋め合わせをする方法があります。

どう埋め合わせするかは状況によりけりです。
必ずしも相手に直接なにかをしてあげることだけが埋め合わせではありません。

  • 相手のはなしを十分に聴く

  • モノで埋め合わせる

  • 相手やほかのひとのために時間や労力を使う

  • 自分の行動を改める/勉強する

  • 相手の安全のために離れる


ペーパードライバー講習の例の場合は、
「相手のはなしを十分に聴く」「自分の行動を改める」あたりが採用できそうですね。



⑥つぎからどうするのか


おなじような状況になったとき、つぎはあなたはどうしますか?
おなじ過ちを繰り返さないために再発防止策は考えていますか?

これが説明できると、相手に「自分の問題点に気づいて反省して、行動を改善するんだな」ということが伝わります。


ペーパードライバー講習の例でいくと、「つぎからどうするのか」は「言いかたをやわらかくする、都度言いかたがきつくないか確認する」になります。



以上6点が、謝罪のときに伝えたほうがよいことになります。



謝罪のときにやらないほうがいいタブー



ひとを傷つけて、怒られたり責められたりする。
そんなとき、知らず知らず自己保身に走って、かえって相手を怒らせてしまうことがあります。


ここでは、トラブルのときにやってしまいがちな悪い対応を紹介します。
こういう対応はしないように気をつけてください。



謝るときに自分の事情ばかり話していませんか?


「こちらにはこういう事情があって、あなたを傷つけてしまいました」

こういう説明はついやりがちですが、やめたほうがいいです。


たとえば、取引先のひとが納期に遅れてきました。
その際に、こんな謝罪をもらいました。

「実は昨日からインターネットの調子が悪くて、作業が進まなかったんです。そこに緊急で対応しなければいけない仕事が入ってきてしまって、こちらの仕事を先送りにせざるを得ない状況になりました。この度は大変申し訳ございません」


事情はわかる。わかるけどちょっと感じ悪いの、わかりますか?


こういう謝罪だったら、聞きいれられそうだと思うんですよ。

「このたびは納期に遅れてしまい、誠に申し訳ございません。お忙しいのにそちらのスケジュールを調整してもらって、たいせつなお時間を無駄にしてしまいました。今回、インターネットの回線トラブルや緊急の業務対応により進捗の遅れが発生いたしました。つぎからは作業フローを見直し、余裕をもって仕事を進めてまいります」


前者と後者でなにが違うのでしょうか。

前者は、言い訳っぽいんです。
しょっぱなからこちらの事情を話してしまっているんです。

後者は、相手のことを気遣うことばからはじまっています。
前者にはそのことばがありません。


後者でも、一応事情は説明しています。
前者は「だから許してね」という感じがでているのにたいし、後者は経緯の説明にとどまっている感じがしますね。
後者はきちんと冒頭で相手を気遣っているので、おなじ事情説明でもこのように受け取りかたに差がでるんです。


こちらの事情をわかってもらうことは大事なことです。
やむを得ない事情って、ありますからね。
相手が事情を知りたい場合もあります。

しかし、相手側が受けた損害に配慮せず事情の説明だけする謝罪はしないほうがいいです。


相手は「いかにあなたに事情があったか」の弁明を求めてはいません。
「いかにこちらにたいして申し訳ないことをしたか」をあなたが理解しているかどうかが聞きたいのです。
それを説明せずに自分の事情を説明しても、言い訳に聞こえてしまいます。

自分の事情を説明するのは、相手にたいして「いかに申し訳ないことをしたか」を十分に説明したあとにしてください。



「謝ったじゃん」は禁句


謝ったのに、相手が非難を続けてくる。
そんなとき、「謝ったじゃん」と言うのは禁句です。


相手が非難を続けるのは、こちらの謝りかたに不足があったのではないですか?


さきほどのペーパードライバー講習の例を思い出してください。なにが悪いのか理解していないのに表面的に謝られて、許そうという気になるでしょうか。

相談員さんが日付を間違えた例を思い出してください。ことの深刻さをわかっていない軽い謝罪をされて、納得がいきますか?


謝ったのに相手から不満を言われるとき、必要なのは「謝ったじゃん」ということばではありません。相手のはなしをよく聴くことです。


謝って許すかどうかを決めるのは相手です。
「謝ったじゃん」ということばで相手を黙らせようとしていませんか。


なかには、過度にこちらを攻撃するひともいます。
あなたはそんな攻撃を受け止める必要はありません。

その場合でも、よほどの事情がないかぎり「謝ったじゃん」とは言わないほうがいいでしょう。相手の神経を逆撫でして終わるだけだからです。



怒っている相手に「落ち着いてください」と言わないほうがいい


さっきの、「月曜日に会う約束をしたのに火曜日に家に来た相談員さん」のはなしに戻ります。

わたし、あのとき怒ったんです。
そしたらその相談員さんはこう言いました。

「落ち着いてはなしをする練習をしましょう」

はああああああああ!? 許せませんでした。


感情的になっている相手にたいして、「落ち着いてください」と言わないほうがいいです。


実際に感情的になっていたとしても、ひとから「あなたは自分の感情をコントロールできていない」と指摘されるのは腹が立ちます。
ひとからいやなことをされたとき、コントロールできないほど感情を乱してしまうのは自然なことです。


そもそも、自分がいやなことをしたから相手は気分を害したわけです。
「落ち着いてください」と言われても、言われたほうは「あなたのせいで落ち着いていられないんでしょ」と感じます。
こちらに「落ち着いてください」と言う筋合いはありません。

「落ち着いてください」と言うのは、「怒るな」って、相手の感情を押さえつけているんです。


「落ち着いてください」と相手の態度を指摘するのは、ほんとうの問題から目をそらそうとしています。
こちらの落ち度から相手の態度に論点をずらしているんです。


だから、怒っている相手に「落ち着いてください」って言うのはダメなんです。


相手に落ち着いてほしいときは、「落ち着いてください」と言うかわりにこう伝えてみてください。

「すみません。落ち着いてはなしが聞きたいので、もう少しゆっくり話していただいてもいいですか?」



もっとも相手を傷つける対応


こちらが問題を起こしたとき、もっとも相手を傷つける対応はなにか。
それは「黙ること」です。


ある支援機関で相談員さんに相談していたときのことです。
当時、わたしは休職していました。
死にたい気持ちが出ていました。
いま復職するのは、つらい。


だけど、相談員さんはこう言いました。

「とにかく、復職できるように準備しないと」


わたし、自分の命の危険を感じているから、いまは復職したくないって言ってるんです。

でも相談員さんは、

「いまの会社をやめるのはもったいないから、復職したほうがいい」

の一点張りでした。


わたしに、死ぬかもしれないけど働けっていうんですか。

許せなかった。
利用者を守るはずの支援機関が、利用者の命を粗末に扱っていることが。


だから、わたしは自分の身の回りの世話もままならないなか、死にたいという考えに苛まれながら少しずつ少しずつ文字をつづって、1ヶ月かけて意見書を書きました。
その意見書を支援機関のセンター長あてに送付しました。

命の危険にさらされている利用者を、いますぐ休養が必要な利用者を、無理やり働かせるのは人権侵害だって。


1ヶ月経てども、2ヶ月経てども、センター長から返事はありませんでした。


当の相談員からは、「うちの支援機関を利用したくないなら、無理に利用しなくてけっこうですよ。また利用したいときにいつでも利用してくださいね」と言われました。


相手に反論するよりも、黙るほうがよっぽど相手を傷つけます。

「あなたには応答する価値がない」

「あなたのことは無視していい」

そういうメッセージは、相手を深く傷つけます。
こちらが自己保身に走ったとも受け取られてしまいます。


自分は口下手だ。忙しい。
ことばがうまくでてこない。考えが整理できない。
なにを言っても、かえって相手を傷つけそうで怖い。
大事なことだからこそ、中途半端な返事はしたくない。
だから、こわくて足踏みしてしまう。

それって、あなたも苦しいですよね。目をそむけたくなりますよね。


なにを言っても相手を傷つけそうだから、あえて言わないという判断もある。それは相手を傷つけないための配慮だから。


でもね。あなたの返事を待ってるひとも、いるんです。
目をそむけられるって、苦しいんです。
声を聴いてもらえないって、無力感でいっぱいになるんです。
だからちゃんと、相手に「なんとかするから待ってて」って伝えなきゃいけないんです。


もし、どうしても必要があって黙るのであれば、相手に返答する期限を伝えて黙りましょう。
(「◯日までに返答します」「10分時間をください」など)



必要なことを説明した心のこもった謝罪は、相手に響く



「自分の事情じゃなくて、わたしへのことばを話してくれませんか」

ある支援員さんとギスギスしたとき、わたしはそう伝えました。

「たしかに、そうですよね。ごめんなさい」

その支援員さんはしまったという顔をしました。
それから、支援員さんは口を閉ざして眉間にしわをよせました。

わたしになんてことばをかけるか、必死で考えている。


それから、その支援員さんはぽつりぽつりとことばをつむぎました。

あなたが言ってたことを考えていました。きっとわたしのことばを聞いて、あなたはこういうふうに受け取って、こういう気持ちになって悲しかったのだろうと。それを考えたら、ほんとうに申し訳ないことをしたという気持ちになりました。自分の考えが、足りませんでした。ごめんなさい。


その支援員さんのことばはわたしのこころに届きました。
本気でわたしの声を聞いて、わたしに届けることばを考えてくれたから。
真剣にわたしと向き合って、ひびの入った関係を修復しようとしてくれたことがうれしかった。


相手の立場に立って、必要なことを説明し申し訳ない気持ちを伝えれば、相手に響きます。
辛抱強さ、そしてよく考えることが必要です。


「いやわたし悪くなくない?」

そんなおごりは相手に伝わります。
謙虚に相手のはなしに耳を傾けてください。


あなたのまわりのひとの表情を、見逃さないでください。

あなたのまわりのひとの声を、聴き逃さないでください。

あなたのまわりのひとのことばに、気持ちに、傷に、応えてあげてください。



※第三者のプライバシー保護のため、架空事例を用いている箇所があります。



ひとから怒られるのって、めちゃくちゃ精神が疲れるじゃないですか。
怒られたことがあたまから離れなくって、どんどん自己嫌悪してしまって、落ちこみますよね。


そういうときって、ついあたまのなかで考えて問題を解決しようとしてしまうんですが、ろくな考えが浮かばず。
結局元気なときのほうが、よい考えが浮かぶんですよね。


布団で横になるときくらいは、気分を休めたい。

そんなときにやってる習慣があります。
それが、「寝香水」です。


アロマディフューザーってあるじゃないですか。
あれ、とってもいいんですが、手入れが大変なんですよね。


そこで、枕に香水をふって寝るようにしています。
いろんな香水をストックしておくと、寝るときの楽しみが増えるんですよね。


おすすめはラベンダーの香りです。


今日はこの記事を読んで、たくさん考えて疲れたかと思います。
よく寝てゆっくり休んでくださいね。


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