見出し画像

Most Affected People and Areas~最も影響を受けている人々と地域~インドネシアパーム油禁輸の波紋

今年4月27日にインドネシアはパーム油全体の輸出禁止の政令を出した。

ロシアによるウクライナ侵攻も影響し、世界で原油などの高騰に伴い、パーム油も高騰している。
食料品としてだけでなく、バイオディーゼルとしても使用されているパーム油。

そのため現地では大幅なインフレが進み、市民による暴動が起きた事から、自国の燃料確保優先とした。
しかし禁輸決定から、現地のパーム農家が輸出禁止措置の解除を求め、デモを行う状況に発展していた。


パーム油はインドネシアの貴重な外貨獲得手段で、生産量の6割以上を輸出に振り向けている。現地メディアは、4月28日からの禁輸の影響による損失は約6兆ルピア(約523億円)にのぼると報じている。
「4月の量り売りパーム油につき、供給量が約21万トンに対し、需要量は約19万トンだった」と、輸出再開の理由として供給の安定化を挙げた(インドネシア大統領府ウェブサイト

結果、5月23日から禁輸は解除され、輸出再開となった。

世界で利用されているパーム油

パーム油の生産は、インドネシアやマレーシアが世界の80%を占めており、世界へ供給されている。

パーム油は表舞台には出てこないが、実は私たちの食生活に大きく密着している。

ファーストフードやポテトチップスなどのスナック菓子、カップ麺、レトルトカレーの油脂、チョコレート、植物性ホイップクリーム、アイスクリーム、菓子パンなど、多くの加工食品に使われているのがパーム油だ。

日本人は一年間に平均4kgものパーム油を食べているとされている。

加工食品の成分表に「植物油脂」と明記されているものはほぼパーム油由来が多く、
「見えない油」
とも言われている。


マーガリンやショートニングのトランス脂肪酸が健康被害として取り上げられることは多いが、このパーム油も例外ではなく、血糖値を下げるインスリンの阻害をするため、糖尿病や大腸がんのリスクも高まる。

そのため、パーム油はトランス脂肪酸の代替品とはならない、と米国農務省(USDA)から研究発表された。

1980年代にはパーム油の健康被害への懸念はあったが、トランス脂肪酸の方が大きく取り上げられ、パーム油への懸念は忘れられていった歴史がある。

パーム油はなぜ需要が多いのか

パーム油の原料、アブラヤシは一度実がなると1年中何度でも収穫できる。

そして一度に大量に実をつけるので、コストの面で扱いやすい。

また、パーム油は酸化しにくいため、カップ麺などのインスタント食品や冷凍食品など長期保存したいものには最適な原料となる。

クリームのようにトロッとした食感もポテトチップスやフライドポテトを揚げるときにはサクッとした食感にもできるので、汎用性が高く、コストだけでなく、おいしさと保存性の面からも考慮して起用する企業も多い。

また、飽和脂肪酸を多く含むため、融点が37度前後であり、口に入れると溶ける、という独特の食感が消費者のニーズに合った。

今年は食料品や日常品など、値上げラッシュと言われているが、世界で使用されている油脂のうち、35%はパーム油であるため、今後市場は混乱が予想されるだろうと報道されたのはそのためである。

パーム油の問題点

世界からのニーズに応えるべく、現地では、こぞってアブラヤシのプランテーションを作った。


プランテーションを作るには森林伐採をする必要があるが、木を切るよりも、火入れをすることで一気に森を焼いて畑にする方が早く、コストも抑えられるため(今は焼き畑は禁止されている)それに伴い森林火災が多発した。

これらの国は熱帯泥炭地が多く分布しているが、「地球の火薬庫」とも言われている。

それらは熱帯雨林があった時には水分を蓄え、水源となったが、プランテーション拡大による皆伐により土地は乾燥する。

熱帯泥炭は乾燥すると非常に燃えやすい性質を持ち、また表面の火が消えても地中で燃え続ける性質がある。

2015年には3ヶ月森林が燃え続け、煙害による呼吸疾患の問題、大気汚染の問題も発生した。
結果東京都12個分の森林が焼失した。

森林伐採ではなく、プランテーションは皆伐をし作られている。
現在はインドネシアの熱帯雨林は過去と比べると3分の1以下になった。

またアブラヤシの単一栽培をすることにより、森の多様性が失われ、
住処を失った「森の住人」であるオランウータン、ゾウ、トラなどの絶滅危惧種である野生動物がアブラヤシ農園に入り込むことも多く、殺生も多発し問題となっている。

また、土地開発をめぐる紛争の原因ともなり、
子どもたちへの過酷な労働、そして出稼ぎのマレーシアの人々など、パーム油が安価である背景には、最低賃金以下で働く労働者、子どもたちの強制労働の上に成り立っているのが事実だ。

パーム油、というとヤシの実洗剤などが代表されるように、植物性だし、自然由来なので環境に優しい、お肌に優しいとか、地球に優しい、とかそんなイメージが私にはあった。
おそらく世界ではそんなイメージで使われているとも思う。

とはいえパーム油を排除すれば解決する、ということでもないだろう。
他の植物の油脂を利用すれば、同じ問題の繰り返しになる可能性もあるからだ。

本来ならパーム油は自然の恵みだと言っても過言でない。

ただなぜこのような地球環境や人権問題、自然破壊へと結びついてしまったのか。

今までは経済優先、体に良くなくても美味しさを優先してきたが、結局はまわりまわって、環境破壊と自らの身体を蝕むこととなってしまっている。
自分に返ってきた結果と気づくきっかけとなればいいと思う。

飢餓の人々よりもメタボの人々の方が人口が実は多いそうだ。

企業は、人・社会・環境・地球に責任を持ち生産する。
そして消費者はその生産背景に興味をもち、企業から与えられるものをすべてOKとするのではなく、まずは「知る」ことで関わり、責任ある消費を考えていく必要がある。

消費は投票と同じだ、とも言われる。

誰かのせいでもなく、自分1人がどうやったって変わらないよ、ではなく

自分は地球の世界を作っている一員であるという」
という認識を持つと良いのではないかと思う。


人に、社会に、世界に、地球に、一体何ができるのか、小さいことでも地球に住む1人として自ずから行動することで、自分の周りの人、社会、世界、地球が変わっていくだろう。

つづく

この記事が参加している募集

多様性を考える

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?