見出し画像

インドの大気汚染が深刻化~「私に呼吸をする権利を」

「私に呼吸をする権利を」

2017年にインドで大気汚染をめぐり、マスクをした学生を中心にデモが起きた。

「呼吸をする権利」とは?

実はインドではコロナ対策以前に、大気汚染が原因でロックダウンも実施されていた。

インドで滞在する際の旅行者や留学する人への注意喚起には、特にデリー、バンガロールなどの大都市ではマスクは必須で不要不急の場合以外は外に出ることをあまり推奨しないと明記されている。

インドの大気汚染はかなり深刻だ。

ニューデリーの微小粒子状物質PM2・5の年平均濃度は、北京の約1・4倍だった。在印米大使館が公表している数値では、2021年11月に入ってWHOの環境基準(日平均)の40倍の1立方メートルあたり最大1千マイクログラムを記録した地点もある。

視界はかすみ、交通事故も起きやすくなるという。ただ息をするだけで一日タバコ50本喫煙するほどの弊害がある。特に冬の乾燥する時期には咳が止まらない人も多発する。

その汚染度は、「殺人大気」と呼ばれ、「世界最悪の大気汚染大国」とも言われる。

空気清浄機とかないの?という声もありそうだが、米国や中国の市場と比べても20分の1程度にすぎず、インドでの普及率は0.2%にとどまるそうだ。

この大気汚染の症状は冬の一定期間に多く発生するため、この期間だけ我慢すれば良い、と軽視されることも多く、それよりも生活必需品の方が先で、後回しにされがちだという。

インドは今やIT関連、映画界にもどんどんと世界へ進出し、途上国から新興国と呼ばれている。経済成長により発展してきているが、そのエネルギー源、ほとんどの電力は石炭火力によるもので、電力全体の70%を占める。今では二酸化炭素排出は世界で中国、アメリカと続き、第三位になっている。

また、インドでは重工業にも力を入れており、その建設ラッシュもあり、その際に発生する埃や、工場から出る大気汚染、他に車からの排気ガス(特に都市部では40%)が大気汚染の原因となっている。

また、昔からの野焼きの習慣が原因であったり、ヒンドウー教の新年の祝祭「ディワリ」が10~11月に行われるが、その際に使用される大量の花火や爆竹、それら要因が合わさって、雨季の終わった冬の時期には大気汚染は加速する。

環境活動家のアディトゥヤ・ドゥベーさん(18)は過去2年間、デリーの大気汚染に早急な対策を講じるよう働きかけてきた。
「冬は拷問になり、毎日が罰のように感じられる」「目に焼け付くような感覚が走り、涙が出てくる。息も苦しい」(ドゥベーさん)

デリー首都圏政府のケジリワル首相が、「ディワリ」での爆竹を禁じて汚染レベルを制御しようとしたものの、祝賀行事はおおむね通常通り進行した。

我慢の限界に達したドゥベーさんは最高裁に対し、「呼吸する権利」の保護を求める申し立てを行った。

2021年11月15日、最高裁はドゥベーさんの訴えを認める判断を示し、中央政府に対策の強化を命じた。その後、学校は休校となり、不要不急の交通や建設工事も停止された。11カ所ある石炭火力発電所のうち6カ所は11月末まで運転停止を命じられた。デリーの大気の質はわずかながら改善を示し、22日には建設工事が再開したものの、多くの人にとって状況は既に手遅れだった。

それなら、石炭火力をやめて、再生可能エネルギーにすればいいじゃないか?

しかしそう簡単にはいかない。再生可能エネルギーも進めてはいるが、コスト面、設備建設による自然破壊の懸念、電力供給が安定しない再生可能エネルギーは経済成長と反比例してなかなかインフラを整えることができないのが現状である。経済が成長したとしても、まだその資本の格差は大きい。

それなら他国が援助すればいいじゃないか?

しかし今の国際世論はどうだろうか。
石炭火力は安定して電力を供給できる半面、大気汚染の問題、二酸化炭素排出の多さから敬遠され、COP26でも撤廃の方向へ段階的に進めるよう議論されている。実は日本では大気汚染の少ない熱効率の良い石炭火力を推進する予定だったが、そのような脱炭素化へ向けての世論により結果、援助ができない現実がある。他国もそうだ。

地球環境を考えてみんなが良くなろうとしている結果ではあるけれど、インドを支援したくてもできないという現実があり、個人的にははがゆい。

そして単なる経済成長の反動だ、とも言いきれない。

インドでは3,500年前からあったカースト制度が廃止され、これは人道的な革命だったが、とはいえ制度が廃止されても差別する人の心は簡単には変えられなかった。今まであった職種はすべて世襲制であり、どんなに才能や技術があっても、差別のため出世、活躍は見込めなかった。

しかし、IT分野はそのカースト制度廃止後のものであり、その階級差別の影響を受けなかった。若者はIT関連事業をどんどん進めた。このIT分野で経済が潤った人びとの行動が、差別をなくし、急激に経済成長をすすめた経緯がある。

大気汚染は自分たちの問題でしょ、石炭火力を使っているから、経済成長を止めればいい、自業自得だと、環境団体であろうと、簡単に弾圧するのは多少人として冷たいのではないかとも思う。歴史を見れば実際、日本も先進国も経済成長と共に大気汚染問題が過去にはあったのだ。

地球は丸く、自転をしている。空気も対流で地球の表面を駆け巡る。地球のどこかで大気汚染が発生すれば、自分のところにもいつかまわってくるだろう。

先日トンガで島が消えるほどの地震があったが、世界での気圧の変化や、遠い国への津波が見られたように、その衝撃波は地球一周をしたとも言われている。

環境問題を謳う時に地球が困っている、という表現はよくある。しかし実際は人びとが困っている、という事実があることに目を向けるべきではないだろうかとも思う。それを助けるのが仲間というものじゃないか。

先進国として、問題を先に解決してきた者として、どうにかして支援ができないものか。

そうふと思った。

つづく

地球ラジオやってます


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?